十、火おこし
「ふわぁ~。ねぇ、なんか食べ物ないの!」
翌朝、田地の声で目が覚めた。
こいつ・・朝からまったく・・なんてやつだ。
俺は田地を無視して起き上がった。
「ねぇ、石竹くん。食べ物ないの」
「おい、蒼空。もう朝だぞ」
俺は蒼空を起こした。
「飯島、朝だぞ」
そして飯島も起こした。
「なんだよ、石竹くん!無視かい」
「ああ・・もう朝なんだ。おはよ、航太」
蒼空が起き上がった。
「おはよ」
「ちょっと、池垣くん!昨日はどうだったのさ」
「え・・なに?」
田地にそう言われて、蒼空は呆れていた。
「船は来てたの?来てないの?」
「あのさ、朝からうるさいよ。来てたらここで寝てると思う?」
「だったら食べ物は?」
「知らないね。自分で調達すれば」
「僕は昨日、ウサギを獲ったじゃないか!」
「じゃ、今日も圧死させればいいんじゃない」
「なんだよ!」
バシーン!
「っな・・痛いなああ!」
突然、飯島が田地の頭を本で叩いた。
「なにするんだよ、飯島くん!」
「うるさい」
飯島は、ボソッと言った。
「うるさいってなんだよ!」
「田地くん」
飯島は田地を睨みつけた。
「な・・なんだよ・・」
「今からお前は浜へ行き、迎えの船が来るか監視することを命ずる」
「め・・命ずるって・・なんだよ」
「日が暮れるまで戻ることは許さぬ。食料も自分で調達すること。水はこれを持って行け」
飯島は雨水を溜めたペットボトルを、田地に放り投げた。
「あっ・・あああ~~」
田地は慌てて受け取った。
「早速行け」
田地は変貌した飯島に驚き、ゆっくりと歩いて外へ向かった。
それを確認した飯島は、笑っていた。
どうしたんだ・・飯島。
昨日までの飯島と別人だぞ・・
「飯島くん・・?」
蒼空が恐る恐る口を開いた。
「あはは」
「ど・・どうしたの?」
「あはは、これだよ」
飯島は田地を叩いた本を見せた。
「それがどうかしたの?」
「これ、戦記物の小説なんだ」
「え・・」
「登場人物の真似をしただけだよ」
「そうだったんだあ。ああ~びっくりした」
そして蒼空も俺も笑った。
「いや~、ああでもしないと、田地くん言うこと聞かないと思ってね」
「確かにそうだな。いい作戦だったよ」
俺は感心して言った。
「それより、まあ島脱出もあれだけど、食糧調達だね。僕、考えたんだけどね。魚を獲るのは無理としても、岩にへばりついてる貝類ってあるだろう。あれは食べられると思うよ」
「あっ、確かにそうだね」
俺も「なるほどそうだ」と納得した。
そこで早速、岩場へ行くことになり、俺たちは洞窟を出た。
「じゃ、僕は山で何か探すよ」
飯島がそう言った。
「え、一緒に行かないの」
蒼空が訊いた。
「だって手分けする方が効率いいでしょ」
「ああ・・そうだけど、野犬に気をつけてね」
「うん、ナイフも持ってるし、枝も持って行くし」
俺と蒼空は飯島と別れ、岩場へ向かった。
岩場へ着くと、遠くに田地が浜辺で座っているのが見えた。
あいつ、ちゃんと言われたとおりにしてるんだな。
そして俺たちは、岩場のあちこちを探して回り、結構な数の貝を手に入れた。
まあ・・いずれにせよ、火がないと食えないな。
「まあ、満腹とはいかないまでも、ないよりマシだよね」
蒼空が集めた貝を見て言った。
「よし、持って帰るか。着いたら火おこしだな」
俺は浜に落ちていたビニール袋に、貝を入れた。
「田地くん、どうする?」
「まだいいんじゃないか?食べられるようになって呼びに行けばいいし」
「そうだね。いたらうるさいしね」
蒼空はそう言って笑った。
やがて俺たちは洞窟へ戻り、貝を置いて火おこしすることにした。
「さあて・・大変だよ~」
蒼空が気合を入れた。
「辛くなったら言えよ。交代するからな」
俺も気合を入れた。
これまで何度か火おこしに挑戦したおかげか、コツがつかめてきた。
これなら何とかなりそうだな。
俺と蒼空は何度も交代し、やがて煙が上がり始めた。
「おおおお~~!」
俺は思わず叫んだ。
「いよーーしっ!航太、その調子だよ」
息をゆっくりと吹きかけると、火の粉が見えた。
「よしよしっ!きた~~!」
組み立ててあった石の囲いの中に火種を入れて、その上に枯れ草を置いていった。
すると見事に火がつき、俺たちは「ばんざーい!」と叫んだ。
そして貝を火の中へ入れた。
俺と蒼空は念のため、あと一か所、火を焚くようにした。
そうこうしているうちに、飯島が帰ってきた。
飯島は、ヘビを手にしていた。
「う・・うわあ~~!」
蒼空が驚いた。
「飯島!ヘビを捕まえたのか」
「ただいま~」
飯島は平然としていた。
「ニョロニョロ歩いてたからね、棒で叩いたんだ」
「そうか・・。怖くなかったのか?」
「ぜんぜん。それより火をおこしたんだね。大変だっただろう?ありがとう」
「あ、俺たち貝をたくさんとって来たんだよ。今、ここに入れてる」
「そうなんだね。じゃ、ヘビは後でいいね」
飯島は地面にヘビを置いた。
「にしても・・」
蒼空はその場に座り、まじまじとヘビを眺めていた。
「あ、それと水場をみつけたよ」
飯島がそう言った。
「えっ!マジか!」
蒼空も思わず「ほんとっ!」と叫んだ。
「ここから近いよ。これで水は確保だね」
「それって池とか?」
蒼空が訊いた。
「いや、山から流れて来る水。飲んでみたけどとっても美味しかったよ」
「わあ~~!航太、後で行ってみようよ」
「ああ、そうだな!」
俺たちは田地のことをや、ゲームのことをすっかり忘れていたのだった。




