一、無人島サバイバル
「航太~!」
駅前のバスターミナルで立って待っていると、親友の池垣蒼空 が走ってきた。
「蒼空、おはよ」
俺は石竹航太。
蒼空とは小学生からの付き合いだ。
互いに高校二年生で、平成最後の夏休みに二人で旅行へ出る計画を立てた。
「航太、どのバスだっけ」
蒼空は辺りを見回した。
「んーと、まだ来てないみたいだよ」
旅行といっても、バスツアーの類ではない。
ある旅行会社の企画で、『二泊三日無人島でサバイバル』という宣伝文句に俺たちは惹かれた。
二人とも特にサバイバルオタクというわけではないが、二泊三日とはいえ、これまで経験したことがない無人島での生活に好奇心を掻き立てられたのだ。
「僕たちの他にも参加者がいるのかな」
蒼空は設置されているベンチに座り、俺を見て言った。
「どうなんだろな。それらしき人も見当たらないな」
俺も辺りを見回し、蒼空の横に座った。
「まあ二人ならそれはそれでいいし」
「そうだな」
「確か・・持参していいものって、ナイフと着替えだけだったよね」
蒼空はリュックを覗きながら言った。
「水は旅行会社で用意してくれるんだよな。あと、食料も」
「携帯も繋がらないんだよね」
「そうみたいだな」
「まあいいじゃん。二泊三日だし」
「えっと、サバイバルに参加される方ですよね」
そこに旅行会社の添乗員がやって来た。
俺と蒼空は立って「はい」と言った。
添乗員といっても、無人島に同行するわけではない。
島へ渡る船までバスで行き、そこで別れることになっている。
「添乗員の大津根真奈です。よろしくね」
大津根は二十代後半くらいの、優しそうな女性だった。
「あっ、きたきた」
大津根はマイクロバスが来たことを確認した。
「えっと~、池垣くんと石竹くんでいいですね」
iPadの画面を見ながら、俺たちに訊ねた。
「はい、そうです」
俺が答えた。
「じゃ、このバスに乗っていただきますね」
大津根は後部座席のドアを開け、俺たちに乗るよう促した。
「あの、参加者って僕たちだけなんですか」
蒼空が大津根に訊ねた。
「いえ、あと一組いらっしゃるんだけど、まだみたいね」
「へぇー、どんな人なんですか」
更に蒼空が訊いた。
「あなたたちと同じ、高校生ですよ」
「へぇー、それって女子?」
蒼空は少し興味を示した。
「あはは、残念。男子高校生よ」
蒼空は「なーんだ」と言って、苦笑した。
「一組って言いましたよね。ってことは複数なんですか」
俺が訊いた。
「はい、お二人ですよ」
そうなんだ。
ってことは全員で四人か・・
「どうぞ、乗って待っててください」
俺たちは大津根に再度促され、乗車した。
蒼空はどんな二人が来るのかと、車外をずっと見ていた。
ほどなくして、それらしき男子が二人走ってきた。
「こっち、こっちですよ~!」
大津根は二人に手を振っていた。
「遅れてすみません」
そう言ったのは、とても真面目で頭の良さそうな男子だった。
「ああ~疲れた」
遅れて走ってきた男子は、小太りなせいか、Tシャツに汗がにじんでいた。
「えっと、飯島樹生くんと、田地睦月くんね」
「僕が飯島です」
頭の良さそうな男子がそう言った。
「はい、僕、田地です」
小太り男子が言った。
「ではこのバスに乗車してください」
飯島と田地は、俺たち二人を見ながら乗車してきた。
その際、飯島は少しだけ会釈し、俺たちもそれに応えた。
やがて大津根は助手席に座り、バスは港へと出発した。
「えっと、港に着くまでに言っときますけど、携帯は通じないので、何かあった時のためにこれを渡しておきますね」
大津根は持参していた鞄から、トランシーバーを取り出し、なぜか俺に手渡した。
「これ一台しかないので、共有してくださいね。私は港町で泊まっていますので」
俺に手渡されたトランシーバーを、飯島と田地は少し不服そうに見ていた。
「それとパンフにも書いてあったと思いますが、基本サバイバルなので、食料は最低限しか用意してません。現地で魚を獲るなり野生動物を獲るなりして食べてください。それっと~、三日後のお昼に迎えに行きますので承知しててくださいね」
大津根は助手席でiPadを見ながら、事務的に説明した。
「小屋とかあるんですか」
蒼空が訊いた。
「ありませんよ」
大津根が振り向いた。
「じゃ、寝るのはどうすればいいんですか」
「それはサバイバルだもの、自分たちでなんとかしないとね」
大津根は少しバカにしたように笑った。
やがてバスは港に到着し、俺たちは漁船に乗せられ無人島へ向かった。