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第三話

自分の顔が青ざめていく。すうっと体温が急激に冷えていった。ひざがガクガクと情けなく、震えた。ジニア様を揺り動かそうとする手を記憶が動かしたらひどくなるから、と阻む。動かしてはいけないから必死で声をかけ続けるしか起こす方法がなくて。生きているか分からないけど、生きていてほしい、生きているって、目を開けて、私を安心させてほしくて、ただがむしゃらに声をかけ続けた。目を覚まさないジニア様を見ているのが辛くて、まだ置いていかないでほしくて。そう願うのがジニア様のためでなく、自分のために生きていてほしい、という身勝手な思いからなのが嫌で。冷えた頬に一筋の涙がが流れようとしていて。押し込めようとしても、そんな思いを振り払うかのようにそれは流れていった。胸の中にいろんな感情を押し込めて、それらがぐるぐるとまわって。そんな混乱する気持ちでも一番の想いはジニア様に生きていてほしいという気持ちで。


「死なないで。私を、おいてか、ないで。ひとりに、しないで。」


そんな私の願いはようやく神様に届いたようで、ジニア様は、焦点の定まらない、それでいて美しい翠の瞳を私に見せた。思わず伸ばした手が触れた頬は冷たくて、ジニア様の残り少ない時間を切に語っていた。


「フ、フェリ、シ、エラ?」


翠の瞳は私をとらえると、私の名を呼んだ。


「・・・守れて、よかっ、た。また、君の、かお、を、みれて、よかっ、た。」


「もう、しゃべらないでくださいっ・・!」


言葉を発するたびに、ジニア様の唇からは、血がふきこぼれてきて、見てて辛くて、見ていたくなかった。自分勝手に記憶を思い出した、その結果が今の痛々しい、ジニア様で。私がひどく嫌いになった。叫びだしたかった。壊れてしまいたかった。決して私はジニア様に見ていたいと思わせるほどのものは何もないのに、それでも、ジニア様はそんな私に微笑んだ。


「フェリ、シエラ。君には、リラの花が、リラの花が、良く、似合う。こんな時、だと、おもう、かも、しれないけど、最期の、君へのプレゼント、に、なるかも、しれないから、これ、を・・。」


と、私の手にうすい箱をにぎりこませた。


「みんな、から、預かって、いたんだ。」


そう、なにかをやり遂げたように、やり残したことなどもう、何もないかのように、穏やかに、笑った。


「最期、なんて、いわ、ないでください・・。」


気付いたら私はしゃくりあげながら、ジニア様の手を握りしめていた。


「フェリシエラ、君は、生きるんだ。ここ、は、もう、危ない。逃げるんだ、早く・・!!」


「嫌です!!」


話してる間にも、ガラガラと崩れ落ちる音はしていた。けど、けど。





・・・・・・離れたく、なかった。


「私たちは死なない。あなたを置いてはいかないわ。だから、フェリシエラ。お友達になりましょう?」


そう、ソフィアが言ってくれてから、まだ一日も経ってないのに。ジニア様は、「みんなから預かった」と言った。それは、みんなが、自分の手では渡すことができないから、渡せないから、ジニア様に託したのではないのか。もっと、もっと、早く思い出せていたなら、救えたのに、救えなくて。何時になったら、私は、守れるんですか?救えるんですか?大切な人ほど守れなくて、私を置いていってしまって、その人との記憶を共有できる人も私を置いていって。なんで、なんで?もう少しだけ、早く思い出せなかったの?「あの時」から自分のことは嫌いで、けど、今回のことで、自分が意外と自分のことが嫌いじゃなかったことに気付いて、また嫌いになって。いつになったら、私は希望を、持たなくなるんだろう。


私たちのいる床が崩れる。ジニア様を握りしめていた手は離れてしまって。暗く口を開けた場所に、吸い込まれるように、私たちは落ちていった。





そして、それきり、私がみんなと会うことはなかった。








***




しんしんと雪は降り続ける。どす黒くなった血を隠すように、先ほどまで響いていた銃声を、戦のあとを覆うように、雪は静かに降り続ける。白水の七日。この月、この日、この夜。「ラテーヌ国の悪夢」は起こった。


次から第一章です。

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