第一話
記憶、思い出。それらは時には残酷なものとなる。
「・・・・・・なんで、いま、なんですか?」
誰かの口から漏れた呟きは、呟きともいえないほどに小さく、消え入りそうな声だった。呟いた人にしか聞こえないほどの声。そこで初めて少女は、その呟きが自分の口から洩れたものだということに気付いた。
気付いてしまったら、あふれて。「あの時」から、感情は抑えてきたはずなのに、制御が、できなくて。なんでですか?なんで、なんで、なんで、なんで、なんで?なん・・・で?もしもあともう少し早かったなら。あともう少しだけでも、早く、思い出せていたなら。兆候はいつからでてた?だいぶ前、そう、3歳からでていたのに。もっと早く気付けていたなら、「あの時」も、今回も、誰も死なせずに済んだかもしれないのに。
やけにうるさく、どくどくと血液がめぐる音が聞こえる。体が火照って熱い。血流の音はよく聞こえるのに、間近で起こったはずの凄まじい轟音は、まるで何km先の音のようにひどく遠く聞こえた。ただごとではないその音に生物としての本能が頭を上へと向かせる。そこからは天井であったものが、瓦礫となって降り注いでいた。それらは私の上にも例外なく降り注ごうとしていて、一段と大きい瓦礫はよくいうスローモーション映像のようにゆっくりと高度を下げて迫ってきていた。あと1m程でぶつかるというその時、私の体は誰かに突き飛ばされた。
「危ないっ!!」
という声が時間差で私の耳に届く。先に言ってほしかったなあ、とわがままななことを思いつつ、突き飛ばされた衝撃で徐々に傾く視界を、どこか他人事のようにぼうっと眺めていた。最後に大きく世界が傾いた時、私は意識を失った。