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御伽噺

『光の竜王と闇の竜王』


 昔も昔、大昔。この世界にまだ私達、人間の国が少なかった時代。

 この世界には数多くの竜とその王である竜王が存在していました。

 彼らは世界中にいましたが、私達に害を及ぼそうとはしませんでした。


 しかし、その中で一体だけ、私達に牙を向けた竜王がいました。

見上げる程の巨体に、闇の鱗を身に纏う竜王。

それが闇の竜王でした。


 闇の竜王は突如として私達の前に現れ、私達を故郷である豊穣な大地から追い出し、奪い去りました。

 その後、彼がその地を根城としました。

 住み慣れた故郷を追い出された私達は散り散りになり、飢えや渇きに苦しめられました。


 ですが、私達もただ黙って見ていた訳ではありません。

 私達の中でも強く勇敢な戦士達は、邪悪な闇の竜王から私達の故郷を取り返す為に、闇の竜王を倒すべく、挑みました。


 しかし、闇の竜王の力は圧倒的でした。

 巨大な手を払えば、何人もの屈強な戦士を弾き飛ばし、翼をはためかせれば、叩きつけられるような強風が押し寄せ、木っ端のように鎧を纏った戦士を吹き飛ばし、歩く度に地面が割れ、立つのも難しい程の大地震を引き起こしました。

 闇の竜王に辿り着いたとしても、その頑強な鱗の前ではどれだけの魔法も武器も傷一つ、つける事が出来ませんでした。


 それでも彼らは諦めずに、何度も立ち上がり、挑みましたが、闇の竜王の強大な力の前には為す術もなく、立ち上がった数だけ、地に叩き伏せられました。

 我々の必死の抵抗も闇の竜王は歯牙にも掛けず、蔑むような目で、ただ一言言い放つだけでした。


『哀れな……』




 私達はこのまま苦しみ、死んでいくしかないのかと絶望していた時、五人の英雄が立ち上がりました。


数多の魔法を操り、魔導の天才と呼ばれた最強の賢者、アーシア。

 高度な回復魔法を操り、時には死者でさえ、蘇らせたという逸話が残る清浄の癒し子、神官ユーラシス。

 戦士の中でも勇猛果敢で、戦士達のリーダーでもあったランドル。

 弓を扱わせれば、右に出る者はいないと言われた弓の名手、コトール。

 そして、世界を放浪し、各地の魔物を屠り、遂には竜をも殺し、人々から『竜殺し』と呼ばれたモーテラス。


 彼らは、今までバラバラになって戦っていた戦士達を、闇の竜王討伐の元に、一つに纏め上げました。


 戦士達を纏め上げた五人は力を合わせて、再び闇の竜王へと挑みましたが、闇の竜王の前には無力でした。


 咆哮一つで、押し寄せる戦士達の大半の心を折りました。闇の竜王が睨めば、五人の英雄と残った戦士達でさえ、恐怖に固まりました。

 そして、数多の風が吹けば、次々と戦士は血の海へと沈んだのです。


 彼らは気づけば、闇の竜王に背を向け、逃げ帰っていたそうです。


 五人の英雄達は自分達の無力さに絶望しました。どれだけ集まろうと闇の竜王の前には無力なのだと痛感させられたのです。


 英雄達は自らの力だけでは足りない。闇の竜王と同格である他の竜王に助力を求めました。


 しかし、彼らの答えは厳しいものでした。


『我々はそれに手を貸す事はできない。』



 それでも、五人は諦めず、竜王の中でも友好的であると知られる光の竜王に助力を頼みました。

 光の竜王は快く引き受け、力を貸してもらえる事になりました。


 五人は光の竜王を引き連れて、仲間達の元に向かいました。五人は心が折れてしまった仲間達にもう一度だけ立ち上がって欲しいと説得し、戦士達も失った故郷への郷愁に押されて、再び立ち上がったのです。




 彼らは光の竜王と共に再び闇の竜王の元に向かいました。


 闇の竜王は光の竜王と共に現れた彼らを初めて敵として認識したのか、即座に構えました。

 牙を剥き出しに、眼をギラつかせる闇の竜王は彼らにとって初めて目にする姿でした。


 光の竜王も闇の竜王につられて、構えました。闇の竜王のように明らかな敵意は剥き出しにはしていませんでしたが、その眼には隠しきれない戦意を宿らせていました。


 闇の竜王と光の竜王は互いに相対したまま動こうとしませんでした。

 彼らも二体が放つ異様な雰囲気に動けずにいました。



 戦いは突然始まりました。


 闇の竜王と光の竜王はほぼ同時に飛び出して、正面から衝突しました。

 竜王達がぶつかる衝撃は凄まじく、轟音と共に暴風が吹き荒れました。

 彼らは猛威に晒されながらも、竜王達の闘いに目をやりました。


 竜王同士の次元の異なる闘いの前に彼らは手を出せませんでした。

 両者互角に見えた闘いは一瞬の内に思わぬ方向へと傾き出しました。


 闇の竜王が光の竜王を押し始めたのです。

 光の竜王は最初から本気でしたが、本気になった闇の竜王には一歩届いていないようでした。同格であっても力量の差が顕著に現れたようでした。


 これには彼らも驚きましたが、すぐに押されている光の竜王を助けるべく動き出しました。


 それぞれが手に武器を持ち、挑みました。


 ですが、次の瞬間には一部の仲間達は灼熱に焼かれていました。仲間達を襲った灼熱はあっという間に、彼らを灰に変えました。


 それを見た仲間達は死への恐怖と仲間を殺された恨みを吐き出すように大声で叫び、突撃しました。

 五人の英雄達は陣頭に立ち、光の竜王と共に奮戦しました。

そして、徐々にですが、闇の竜王を押し返し、追い詰めていきました。


 闇の竜王と彼らの戦いは三日三晩続きました。

 その間に、多くの戦士達が散っていきました。

 ある者は焼き尽くされ、ある者は踏み潰され、ある者は食い千切られ、ある者は切り裂かれ、またある者は跳ね飛ばされ、死んでいきました。


 そして、三日目の夕暮れに染まる中、遂に闇の竜王は倒れたのです。此処に光の竜王と彼らは長く続いた戦いに終止符を打ちました。


 遂に闇の竜王を倒した彼らと光の竜王は互いに喜びました。

 歓声と鬨の声が響き、勝利を叫んだのです。



 ですが、これで終わりとはなりませんでした。


 恐ろしい事に息の根が止まった筈の闇の竜王が再び立ち上がったのです。

 生気を失った筈の瞳には憤怒が宿り、暗き光が不気味に揺らめいていました。


 光の竜王達は突如として立ち上がった闇の竜王に動揺しながらも、再び立ち向かったのです。

 光の竜王達は疲弊し切っていましたが、死力を振り絞り、戦いました。

 闇の竜王に力は残っていない筈でしたが、それでも恐ろしい強さを見せつけます。

 

 最後の足掻き。

 誰もがそれを確信し、力の限り戦いました。

 それでも、身体は思うように動かず、限界を迎えた光の竜王に一瞬の隙が生まれました。


 その瞬間を闇の竜王は逃さず、鋭利な爪が鱗を切り裂き、胸元を貫き、深々と抉り抜きました。


 闇の竜王が貫いた爪を引き抜くと同時に光の竜王は胸元と口から蒼い血を吹き上げて、その場に崩れ落ちました。

 一瞬の静寂の後、闇の竜王もまた限界を迎えたのか、引き抜いた勢いそのまま仰向けに倒れ伏し、地面を揺らしました。


 ズシンと大きな音が響いた後、仲間達は急いで光の竜王に駆け寄り、蘇生治療をしました。

 しかし、光の竜王が再び息を吹き返す事はありませんでした。

 

 闇の竜王もまた、光の竜王の生命を奪い取り、満足したのか、憎たらしげに口角を吊り上げたまま、死んでいました。


 五人の英雄と仲間達はその場に膝をつき、泣きました。

 偉大な竜王であり、強大な味方であった戦友とも呼べる竜王の死は彼らには重すぎたのです。


 光の竜王の死は闇の竜王討伐の報せと共に、瞬く間に人間達の間に広まりました。


 人間達もまた、戦士達のように光の竜王の死に嘆き悲しみました。



 その後、光の竜王の犠牲と引き換えに闇の竜王に奪われた故郷を取り戻した人間達は、自分達の為に尽力した光の竜王を偲び、闇の竜王との戦いを物語にしました。




 その物語は五人の英雄が建国した国を中心に世界中に伝わりました。

 五人の建国した国では子供の頃に必ず一度は読み聞かせられ、知らない人がいない程に浸透し、人気の物語となりました。




それがこの『光の竜王と闇の竜王』という物語なのです。

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