1 Prologue
この物語をこれから大きくなる子供たちと昔子供だった全ての人に。
1 Prologue
どうして夏休みなんてあるんだろう? とその年の5月、10歳になったばかりの小日向悠という名前の男の子は真剣にそんなことを考えている男の子だった。
日本に暮らす普通の小学生の男の子であるにもかかわらず、夏休みがキライだなんて。悠はそんなとても冒とく的で、とても大それたことを真剣に考えていた男の子だった。そしてそれだけではあきたらずに、こんなふうにさえ思っていたのである。
『この世界でボクほど夏休みがキライで、夏休みなんて来なければいいのにと思っている男の子はいない!』と。
なんてありえない考えだろう! よりにもよって小学生が夏休みがキライで夏休みなんてこなければいいのになんて!
そんなことははるかかなたの宇宙から落ちてきた隕石が偶然どこかの誰かの頭にぶつかりましたっていうニュースくらいありえない。けれども悠は実際にそんなふうに思っていて、それをはっきり、くっきり、すっかり信じこんでしまうところのある男の子だった。
でもそれはあの夏休みが来るまでの話。
あの夏休みの後、悠はこう考えるようになった。
『この世界でボクほど夏休みが大好きで、夏休みが一日でも早く来たらいいのに!』と思っている男の子はいないと。
そんなふうにはっきり、くっきり、すっかりまるで北と南、昼と夜、太陽と月ぐらい、いままでとは真逆のことを考えるようになったのである。
さて、ここでおかしいな? と思わないだろうか。
なぜならば物事にはかならず理由がある。この世界に朝と夜があるのは地球自身が回っているから。手に持ったリンゴを放すと下に向かって落ちるのは重力と引力があるから。運動するとおなかがへるのはいきものだからというように、物事というものには何事にも必ず理由があるのだ。
だから大人でも子供でも人が大きく考えを変えるにはそれなりの理由が必要になる。それはトマトが大嫌いだった人がトマトを好きになるのに、初恋の女の子がトマトをつくっている農家の子だったりみたいなそんな理由が必要になるものなのだ。
だから悠がそんなふうに、180度ぐるっと真逆のことを思うようになったのにもちゃんと理由があった。
それは突然何の前ぶれもなく悠のところにやってきた。けれど、それはいつだってどんな時代だってそういうものなのだ。
アリスも、ドロシーも、他の誰だって、そんな日が本当に、現実にやって来ることなんて誰も夢にも思わなかったに違いない。なぜならそんなことが本当に自分に起こるなんて、それはある日突然西から太陽が昇ったり、世界中でいっぺんに春がやってきたり、空から数えきれないくらいのブタがふってくるくらい、奇想天外摩訶不思議なこと。
だから誰もが口にするけれど、実は誰もそんなことが本当に起こるなんて、ましてそれが自分のところにやってくるなんて誰も思ったりしていない。みんな口でどう言っていたって本当に本当の意味でそうなるだなんて想像している人はいない。せいぜいきてほしいのにだったり、くればいいなだったり、だ。
だからそれは本当にいつだって突然やってくるものなのだ。あるよく晴れた日に突然降りだす雨やゴロゴロピッカーンと鳴りひびくかみなりのように。日曜日の夜、リビングでテレビを見てくつろいでいるとき不意打ちのように突然大きな音で鳴りだす電話のように。
子供にとっての秘密の冒険というのはそうやっていつもなんの前ぶれなく突然やってくるものなのだ。
これは誰もが口にする『そんなことがおきればいいのに』が現実にきてしまった、そんな夢のような本当のはなしだ。
世にも珍しい夏休みがキライな男の子が夏休みが大好きになるまでの、アリスにも、ドロシーにも、そしてそのほかの誰にも負けない小日向悠という男の子に突然やってきた世にも珍しい、とても特別で、とても大切な、秘密の冒険のおはなしである。
出典 不思議の国のアリス オズの魔法使い トム・ソーヤの冒険
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