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第七撃【綺麗な夕陽を見つめて】

僕は夢を見ているのだろうか。だとしたら、こんな夢、二度と見たくはない。

激痛と恐怖で体は痙攣を起こし、無理に動こうとすると、意識が飛びそうになる。

逃げることすらできないのはもちろん、上体を起こすことすら難しい状況の中で、ルイさんと黒いコートの少女が対峙している様子を見る。



「逃げたのかと思いました。あの時と同じように」


「残念だったわね。期待に応えてあげられなくて」



まるでプロレスの試合前によくある、挑発合戦のようだ。

ルイさんは、しゃがみ地面に両手をおく。そして、わけの分からない言葉を喋り始めた。すると、眩しい光が辺り一面を照らし出し、とても大きな風が吹いた。爆発か……と思ったが、爆音は聞こえてこない。光りが収まり、辺りを確認する。しかし、これといって変わった様子はない。



「これで、周辺の建物に被害が出なくて済む。……まったく、この子は世話がかかるんだから」



まるで、子供の面倒を見る母のようなルイさん。

その態度が気に入らなかったのか、黒いコートの少女はルイさんを睨みつけ、僕の方へ指を指した。

何かされるんじゃないかと思い、僕は目を瞑ってしまう。ああ、小心者さ。笑うが良い。



「あの地球人が、私に刃向かうからです!お仕置きしただけです!」


「それにしても、ちょっとやりすぎよ」



ルイさんは、手と手を叩き、ホコリを落としながら、ゆっくりと立ち上がる。



「ノア、私に何か用があるんでしょ?話してご覧なさいよ」



黒いコートの少女の名前はノアというらしい。変わった名前だ。それにしても、ルイさんはノアってやつと面識があるみたい。やっぱり、同じ惑星の人だったりするのかな。



「ルイ姉のせいで、私たちがどうなったか……分かってますの?!」



急に大きな声を張り上げる。



「だから、私がこうして今、復讐をしに来たわけです!」


「……」



ルイさんは、何も言い返そうとしない。背中を向いているから、どんな表情をしているのか分からないけど、ぎゅっと自分の拳を握りながら、少し下を向いている。その姿は、まるでさっきと同じ。マスターシゲルに好き放題言われている、ルイさんの姿と同じだった。

いつもの自信満々なルイさんとのギャップに、僕は驚き動揺した。


戦いのゴングが鳴らされたかのように、突然、ゴゴゴゴと、まるで漫画に出てきそうな効果音が辺り一面に鳴り響く。

蒼く光る球が三個。ノアの周りを囲むようにぐるぐると回り始めた。



「手加減はしませんよ?ルイ姉さん。今までのこと……償ってもらいます!」



ノアは、両手をルイさんの方へ突き出した。その瞬間、今までノアの周りを囲むように回っていた蒼い球が、ルイさんにめがけ襲ってくる。

建物を軽々と崩壊させてしまうほどの破壊力。それも三つだ。そんなものが当たれば、さすがのルイさんも、ひとたまりもないはずだ。

だが、ルイさんは微動だにしない。そして、蒼い球がルイさんに着弾しようとした瞬間、ルイさんは片手を前方へつきだした。すると、その蒼い球はルイさんの手に吸収されるかのように、消えてなくなってしまう。一つ、また一つ。吸収するかのように。また一つ……

全ての球が、ルイさんの突き出す手に吸収されてしまった。



「インヴァリット……?ふざけないで!」



自分の放った魔法が効かなかったからなのか、片手で払いのけてしまうルイさんの態度が気に入らなかったのか、ノアは感情的になっている。



「ふざける?……私はいつでも真面目よ」


「それが、ふざけてるって言ってるんです!」



ノアは手と手を合わせ、わけの分からない言葉を言い始めた。誰か、翻訳してくれ。



「まずい……」



ルイさんが言った途端、ノアの周りにはいくつもの蒼い光が出現した。先ほどと同じか……いや、違う。

ノアの周りを囲むように回っているのではなく、今度は自分の意志をもっているかのように、それぞれが違う動きをしている。



「パーストフォースです!」



パーストフォース……それが何を意味するのかはよく分からない。技名なのか、呪文なのか。はたまた、業界用語もとい惑星用語なのか……だが、そんなことはどうでも良い。ルイさんは焦っている。これは、まずい状況だ。アニメとか漫画でこういう光景は何度も見てきているから、どんな状況かってことぐらい予想はつく。最初は相手の力に翻弄されてしまうが、追いつめられると、凄い能力を出して圧倒的に有利になるんだ。

って、それじゃルイさんが負けちゃうじゃないか。



「きた……」



蒼く光る球が、ルイさんを襲い始めた。ルイさんは大きく右に移動し、攻撃を避ける。ルイさんが右に移動したため、蒼く光る球が僕の方へと近づく。だが、僕に着弾するはずの蒼い球は、動きを止め方向を変えると、再びルイさんの方へと襲いかかる。どうやら、誘導弾のようだ。



「どうです?私の魔法は美しいでしょう?」


「美しい?冗談じゃないわよ。破壊する力のどこが美しいってわけ?」



右へ右へと移動していたルイさんは動きを止め、後退する。蒼い球もそれに反応し、ルイさんの方へと移動を開始した。さらに、蒼い球は一つ一つが弾道を変え、別角度でルイさんを襲う。空中に飛び避けようとすると、上から追撃する球もあれば、下から追いかけるように襲ってくる球もある。それをギリギリのところで回避する。反射神経、判断力、桁違いの運動能力がなければできない事だ。

ルイさんは、着弾しそうになる蒼い球を掴むように触れる。すると、蒼い球は力を無くし、すっと姿を消していく。しかし、蒼い球は一向に減らない。いや、むしろ増えている。一つ、また一つと、蒼い球は増えている。消しても消しても蒼い球は増え、すでに10個ほどの蒼い球が同時にルイさんに襲いかかっていた。地球人ではないことを立証しているかのような光景に僕は、目が釘付けになっていた。まさか、こんな体験をするとは、夢にも思ってなかったよ。ルイさんと出会う前まではね。



「くっ……しつこい……」


「あらあら。疲れてますね。インヴァリットにも限界がありますからね……どれだけ保つかしら?」



ノアは楽しそうに話す。

それと同時に、ルイさんが最初の攻撃で動かなかった理由をやっと理解することができた。

僕を守っていたんだ。

ノアの攻撃は最初、直球であった。避けることも可能であっただろうし、むしろ避けるべきだった。だが、ルイさんが避けてしまえば、僕に着弾してしまう。それを知っていて、ルイさんは避けなかったんだ。そして、インヴァリットという魔法をあえて使った。

そして、誘導弾となった今、僕に着弾する可能性は極めて低い。だから、ルイさんは攻撃を避けるようになったのだろう。勝手な予想だけど。



「はぁ……はぁ……」



ルイさんは明らかに疲れている。もし、最初の球を避けていたら……と思うと、胸が苦しくなってくる。

なんとかして、ノアの動きを封じることはできないだろうか……

僕は、上体を起こそうと懇親の力を入れる。だが、体は言うことを聞かない。



「もっと苦しむのです!もっともっと。私たちの苦しみを味わってください!」



苦しみ……裏切り……ルイさんとノアの間に何があったのか、僕には理解ができなかった。

でも、ルイさんとノアには理解できることなんだと思う。

僕が知らないルイさん……僕が知らない真実……こう考えてみると、知らないことだらけだな。



「球の数はすでに20。私の魔法に、捉えられないものなど、存在しないんです!」


「くっ……」



蒼く光る球は容赦なくルイさんに襲いかかる。球の数はそれこそ信じられないほどにまで達していた。どうにかしてノアの動きを封じないと、ルイさんが危ない……僕は必死に上体を起こそうとする。だが、体は動こうとはしない。動け……動けよ動け!



「捉えた!」



ルイさんの周りには何十もの蒼い球が集まっていた。もう逃げる場所は残っていない。

ルイさんは、動きを止め、じっとノアのことを見つめていた。

体力の限界なのか、諦めてしまったのか……ルイさんは、微動だにしない。



「ルイ姉、もう終わりです!」


「そうね」



ノアが腕を振り下ろした瞬間、ルイさんの周りに集まっていた蒼い球は動かなくなってしまった。

何が起きたのか分からない。なぜ、動かなくなってしまったのか……ノアが寸止めをしたのか?いや、ノアは確実にルイさんを殺そうとしていた。だから、ノアが寸止めをするはずがない。

僕は辺りを見回す。そして、自分の目を疑った。ノアを取り囲むように、地面に大きな文字が書かれてある。

これはいったい……?



「嘘!?術式が……なんで!」


「避けながら術式を書いたから、さすがに疲れたわよ」



しまった!といわんばかりのノアとは対照的に、やれやれといったご様子のルイさん。

それにしても、ルイさんには何度、あっと言わされた事か。相手の攻撃を避けつつ、あんなに大きな術式を書いちゃうなんて。



「上位相殺魔法、テラインヴァリット……術式に手間と時間がかかっちゃうけどね」



人指し指をぴんっと立たせながら、まるで料理家の誰それさんみたいに得意げに解説をするルイさんは、いつものルイさんだった。

ルイさんを襲っていた、いくつもの蒼い球は、眩しく輝きそして、光と同調するかのように消えてしまった。

その光景を前に、ノアは膝をついた。



「そんな……」



ルイさんは何も言わず、ノアの元へ行く。

ノアはルイさんのことをジロッと睨みつける。まるでこれ以上近づくなと言っているようだ。



「早く殺してください」



ルイさんはそれでもノアの方へと歩み寄る。



「私は、ノアを殺したりはしないわ」


「……じゃあ、なぜ……なぜあの時、私たちを裏切ったりしたんです?!」



辺り一面に響き渡る訴えかけるような声。その声は、とても悲しい。

ルイさんがノアのことを裏切ったってことなのだろう……でも、僕には想像がつかない。ルイさんが誰かを裏切るだなんて、信じられないよ。

殺意に満ちた相手にでさえ、攻撃をしようとしなかった。それは、ルイさんの優しさだと思うんだ。だからこそ、ルイさんが人を裏切るなんて信じられない。



「……仕方なかったのよ……そうするしか、方法がなかったの……」


「……もっと、私たちを頼ってほしかった……」



泣き崩れるノア。そして、ルイさんもまた、とても悲しい表情をしていた。

二人の間に何が起きたのか僕には分からない。だから、これで一件落着したのかは正直言って微妙だ。

でも良かったよ……誰も死なずに済んだ。ノアも、ルイさんも。そして僕もね。












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時間が経つのは早いもので、すっかり夕暮れ時となっていた。

ノアが姿を消してから、ルイさんは、僕が大の字に寝ている隣で、僕と同じように横になった。

なんとも可笑しい光景ではあるが、僕にとっては内心ドキドキだ。

なぜなら、ルイさんがこんなにすぐ側にいるのは、昨夜以来だからね。



「ルイさん、ごめんなさい」


「なんで、謝るのよ?」


「僕が勝手な事したから……こんなことに」



そう。僕の責任なんだ。僕が勝手なことをしなければ、ルイさんは傷つかずに済んだ。

もしかしたら、こんな戦いが起こったのも、僕の責任だったりするのかもしれない。

だから、謝りたい。



「……ううん。恭祐が謝ることじゃない……私が悪いんだから」


「え?」



ルイさんの意外な言葉。僕はルイさんの方へ顔を向ける。

そこには、遠くの空を見つめるルイさんの横顔があった。なんだか恥ずかしくなってしまい、僕はルイさんと同じく空を見つめた。



「マスターシゲルって人が言ってたこと。結構、当てはまってたのよね……」


「……?」


「人を裏切って、守りたいものも守れなくて……それを見透かされたような気がして、とっても悔しかった。とっても格好悪いわよね」



笑いながら話すルイさん。そんなルイさんを横に、僕は自分がやってきた愚かさに、改めて気づかされた。

僕はルイさんのことを知っているつもりだった……理解していると思っていた。だが、それは勘違いだったんだ。

とっても強い人で、とっても優しい人で……でも、その他は何を知っている?

ルイさんがどんな生活を送って、どんな経験をして、どんなものを見てきた?分からない。

なのに、知ったかぶりして、自己満足していたんだ……僕は、世界中の誰よりも最低な男なのかもしれない。



「恭祐、帰るわよ!」


「……ふぁふぃ!?」



僕は情けない裏声を出してしまう。

いや、これはルイさんが急に話しかけた事によって生じた事であり、不可抗力ってやつに間違いはない。



「でも、恭祐。動けないのよね?」



困った表情で僕に訊ねるルイさん。

上体を起こそうとしてみるが、やはり体は言うことを聞かない。



「駄目みたいです」


「仕方ないわね、今日だけ特別よ!」


「はい……って、何をする気ですか?!」



ルイさんは突然、僕を背負い始めた。

温かいルイさんの背中。すごくドキドキしてしまうこの感覚はなんだろう。

そして、ルイさんは宙に……



「って、宙に浮いてる!?」



ルイさんは、僕を背負いながら浮き始めた。

みるみるうちに、地面と僕たちとの距離は離れ、もの凄い高さまでに達していた。

落ちたら、大怪我どころか、死にますよ。絶対。



「暴れないでよね。死ぬわよ!」


「いや!それだけは、いや!」



僕はしっかりと、ルイさんの体を掴む。

柔らかいルイさんの体。ルイさんの匂い……

僕は、いっそのこと、このままでいたいと思うほどに、幸福感に満たされていた。

気持ちいい風が、吹き付ける。



「気持ちいいわね!」


「そうですね、かなり恐いですけど」



くすっと笑うルイさんはとても可愛く、悩み事もなくなってしまいそうになる。

考えてみれば、ルイさんと出会って、まだ二日しか経っていないんだ。

知らないこともいっぱいあって当然だよね。

僕は知りたい。ルイさんのことを。もっともっともーっと知りたい。

時間はまだまだある。焦らなくて良いんだよね、ルイさん。



「ねぇ、恭祐」


「はい、なんでしょう?」



夕陽で空はオレンジ色に染まっている。

高いところから自分の住む町を一望しながら見る夕陽はまさに爽快だ。

僕とルイさんの二人きりの世界であるかのようで、なんだか嬉しい。



「恭祐は、この世界……好き?」



いきなりの質問に驚いた。まさか、そんな質問をされるなんて。

でも、どうだろう。僕はこの世界が好きなのかな……学校は面倒くさいし、このままいけば社会人となり、自由な時間がなくなってしまう。

人付き合いも結構大変だったりするんだよね。好きとか嫌いとか……考えただけで面倒だ。別な世界に生まれたかったと、何度思ったことか。それでも僕は、迷わず返事をした。



「好きですよ、とっても」



僕がそう答えると、ルイさんはうんっと小さく首を縦にふった。

何が嬉しかったのか分からない。質問の答えがこれで正しかったのかも分からない。

ただ、一つだけ分かること。それは、ルイさんの表情はとても満足した表情だった。

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