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第六撃【絶体絶命】

「な、なんであなたが、そんなことを知ってるのよ!?」



ルイさんは、声を張り上げて、マスターシゲルに言った。僕よりも遥かに驚き、慌てているのはルイさんだった。


当然っていえば、当然なのかもしれないね。魔王キラーJが地球に侵略すると話したのは紛れもなくルイさん。

異世界人であるルイさんとは反対に、マスターシゲルはどう見ても人間だろう。だって、直斗だってマスターシゲルのことを知っていたし。

マスターシゲルという爺さんとルイさんは初対面であると見受けられる。でも、マスターシゲルはキラーJが地球を侵略するということを何故か知っていた。そんな情報をどこで仕入れたっていうんだ?まさか、マスターシゲルという爺さんも異世界人なのだろうか……?



「お嬢ちゃん。地球を守れることが本当にできるかの?」


「もちろんでしょ?私は、偉大なる魔女なんですから!」



胸を張り、誇らしげにそう言うルイさんは、とても自信に満ち溢れていた。

ああ、そうだよ。ルイさんなら、きっと地球を守ってくれる。どんなに強い敵が現れようと、ルイさんがいれば、大丈夫。



「自信を持つことは良い事じゃて……だが、それは本心かい?」


「……何が言いたいのよ」


「今のままじゃ、キラーJには勝てないってことじゃ……」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!なんで、証拠にもなくそんなことが言えるんです?」



僕はたまらず、マスターシゲルに意見した。

だってそうだろ?ルイさんのことを何も知らないくせに、なんで勝てないって断言できるんだ?



「人を裏切り、守りたい者も守ることができず、心には大きな傷だけが残っている……」


「……」



ルイさんは、下を向き、マスターシゲルに意見することも怒鳴ることもない。ただじっと、下を向いていた。

その様子を見て、僕は歯がゆい気持ちになった。

ねぇ、ルイさん。なんで下を向いたりするんだ?なんで何も言わないんだ?



「そんなボロボロなお主に、キラーJが倒せるのか?いやぁ、無理じゃて……」


「恭祐、私……帰る」



下を向いたまま僕にそう言うと、ルイさんは走りながらこの場を去った。

一瞬、何が起きたかよく分からなかった。でも、ふと大事なことに気づく。ルイさんの姿がなくなり、僕は初めて気づく。自分がしてしまった愚かな行動ってやつを。

僕がルイさんをこんなところに連れて来させなければ、こんなことにはならなかった……

ルイさんの力になりたくて、何かしようとしたくて……そんな自分勝手な事にルイさんを巻き込ませた。

挙げ句の果てには、ルイさんを傷つけさせるようなことをしてしまった。

なんて、最低なんだ……僕は……だが、いつまでも自己嫌悪に陥っている暇など僕にはない。とにかく、ルイさんのことを追いかけないと。


僕はこの場から立ち去ろうと、マスターシゲルに背を向ける。



「待つのじゃ、少年」


「何なんですか!」



マスターシゲルに呼び止められ、僕は振り向いた。

なぜか、僕はイライラしていた。その感情をぶつけるかのように、マスターシゲルのことを睨みつける。

それでもマスターシゲルは顔色一つ変えようとはしない。



「もし、お主が本当にあのお嬢ちゃんの力になりたいと思うのなら……信じてあげることじゃ。心の底からあのお嬢ちゃんのことを」


「……もちろんですよ。僕は、ルイさんを信じます。何があろうとね」



僕がそう言うと、マスターシゲルはそれ以上、何も話そうとはしなかった。ただじっと、雲一つない空を見つめていた。

僕は再び、ルイさんが走り去った方へと、向きを変え、走り始めた。

公園から、僕の住むアパートの道路沿いに出る。だが、すでにルイさんの姿は見当たらなかった。

とりあえず、僕のアパートへ向け走った。全速力で走った。


それにしても、マスターシゲル……人のことを馬鹿にするのもいい加減にしろってんだ。

『人を裏切った』だ?『守りたい者も守れない』だ?『心に傷を残している』だ?人のことを、見透かしたような事ばかり言ってくれるよ。

ルイさんの、何が分かるってんだ。僕は知っている。ルイさんは、とっても優しい人で、とっても強い人なんだ。

どんなに強い敵が来ても、どんなに厄介な事に出会っても、ルイさんは負けたりなんかしない。



「はぁ……はぁ……」



息が、あがる。

こんなに走ったのは、夏フェスの当日に寝坊したときぐらいだ。

すでに疲労は限界に近い。だが、どれだけ走っても、ルイさんの姿を見つけることができない。



「はぁ……はぁ……ルイさーん!……どこにいるんですか!」



大きな声を出せば、ひょっこり出てきてくれるような気がして……だが、返事はない。

全力で走っていると、僕の住むアパートが見えてきた。走りながら辺りを見回すが、やはりルイさんの姿はない。

一度走るのをやめ、僕は考える。

部屋の中にいるのか?いや、鍵をかけて出かけたし、鍵を持っているのは僕だ。となると、ルイさんが僕の部屋にいる可能性は低い。

じゃあ、どこへ……?もしかして、ルイさんは僕の事が嫌いになって、出て行ってしまったのではないか……

嫌な予感だけが、僕を襲ってくる。

一度深呼吸をし、あがった息を整え、再び走り始めた。当てもなく、ただひたすらに。


ルイさんのことを見つけなきゃ駄目なんだ。とにかく、今すぐにでもルイさんに会いたい。そして、謝りたい。

自分勝手な行動で、ルイさんを傷つけさせてしまったことを。


僕がいるこの周辺は住宅街であり、狭い道が続く。もう自分がどこを走っているのかさえ分からない。ただ、ひたすらに走る。

細い路地を右へ左へと走りながら、ルイさんを探す。だが、一向に姿は見えない。細く長い路地を抜けると、そこには見たこともない空き地が現れた。



「はぁ……はぁ……ルイさん……」



僕は、無心で人気のない空き地へと足を踏み入れる。もちろん、その空き地にもルイさんの姿はない。



「く……そ……」



後悔だけが僕の心に残る。

マスターシゲルの元へ行かなければ……僕が、勝手なことをしなければ……

諦めるな、柊恭祐。なんとしても、ルイさんを見つけてやろうぜ。

そう決意し、再び走り出そうとした時。突然、もの凄い眩しい光が僕を襲った。僕はその場に立ち止まり、自分の顔に手をかざす。眩しくて目を瞑ってしまうほどだ。

いつの頃だったか、同じ体験をしたことがある。あの時と同じように、辺り一面が眩しく光ったのだ。



「初めまして、おじさん」



ふと、聞き覚えのない女の子の声。

ゆっくりと目をあけると、目の前には、黒いコートに身を包んだ、背の低い女の子が立っていた。

その身長と声から、まるで小学生なのかと思ってしまうほどに幼く感じた。



「き、君は……?」



全身をコートで包んでいるためか、顔すらちゃんと見ることができない。

しかし、コートから僕のことを見つめる目はなぜか鋭く、殺意をもっているかのようだ。この威圧感は、尋常じゃない。

その視線だけで、恐怖してしまう。



「おじさん。一つ質問があるの」


「な、なんだよ、急に!」



震える声で怪しい少女に言う。

走って疲れたからなのか、少女に恐怖しているからなのか、僕の息はとても震えていた。



「ルイ・シュタインハルツ・マークベルって女、どこにいるか分かります?」



ドキっとするような感覚。

これは一目惚れってやつ?いや、そんな感覚とは全くの別物だ。僕は少女の言葉を聞いたとき、胸を貫くような感覚に襲われた。

どこかで聞いたことのある、もの凄い長い名前……そう、それは、ルイさん。今、僕が探しているルイさんに他ならなかった。

でも、なんでこの少女がルイさんのことを?



「……残念だけど、分からない」



少女の問いに答えると、少女は不敵な笑みを浮かべた。



「へぇ〜、隠し事しちゃうんですかぁ?」


「ち、違う!僕もルイさんのことを追ってるん……」



僕の言葉を遮るように、もの凄い光が辺り一面を襲った。その瞬間、地響きのような震動と、爆発音。そして、建物が壊れる音が響き渡る。

僕は爆風で足を滑らせ転倒し、一メートルほど吹き飛ばされた。

いったい何が起こったのか分からない。



「隠し事した罰ですよ。次は、狙っちゃいますから」



地面に倒れたまま、辺りを確認する。

そこで、さっきの爆発音と、建物が壊れる音。それに地面を揺るがすような震動の意味が理解できた。

僕のすぐ隣の建物が全壊している。蒼い炎で建物は焼かれ、みるみるうちに灰となってしまった。

辺りには、建物が炎で焼かれた焦げの臭いが充満している。

現実味のない光景を目の辺りにし、僕は目の前にいる少女がとんでもない化け物だということに気づいた。

恐怖し、足や手は震えている。声を出そうとしても、何も言うことができず、助けを求めることすらできない。



「あなたが彼女の契約者だということは知っているんですよ?だから、隠し事は駄目です。もう一度だけ聞きます。ルイ・シュタインハルツ・マークベルって女は、どこにいるのです?」



僕は少女の方を見る。

すると、少女は手から、何やら蒼く光る球のようなものを作り出した。

やっぱり、地球人ではなさそうだ。

特殊な蒼い光る球を自在に操り、少女は建物を破壊した。

となると、この少女が魔王キラーJなのか……?

いや、でも待て。この少女は僕を探しているわけではなく、ルイさんを探しているようだ。

ルイさんは言っていた。『魔王は僕の命を先に狙ってくるはず』と。だが、まだ僕は死んじゃいない。


僕の体は恐怖で痙攣を起こしていた。

これだけ、死が近くに感じたのは初めてかもしれない。

そんな状況下の中で、僕は頭をフル回転させ、状況を読み取っていく。



「だ、だから……ぼ、僕も知らないって……言ってるだろう?僕も……僕も、ルイさんを探しているんだ」



隠し事をするなと言われても、これが事実なんだから仕方ないだろう?嘘をついてまで、ルイさんがどこにいるかなんてこと、言えるわけないし。

第一、仮にルイさんの命をこいつが狙っているんだとしたら、死んでも言えるわけがないじゃないか。人を売るようなことは、絶対にしない。これが、僕のジャスティスさ。



「そうなの……やっぱりあの女は、逃げ出したのね。やっぱり最低の女だったってことですね」


「……あんた。今のどういう意味だよ?」



僕の問いかけに、その少女は再び笑みを浮かばせる。なんともその表情は憎たらしい。

まるで、僕とルイさんを馬鹿にしているかのようだ。



「どういう意味って、そのまんまよ……何?本人に何も聞かされてないわけ?悲しい人ですね、同情しちゃいます」



僕には意味が分からなかった。

ルイさんが僕に言ってない真実って?ルイさんが逃げ出した?……そんなはずがないだろう。そうだろ?ルイさん。



「さっきから、どいつもこいつも、好きなこと言ってくれるよ……」



少女のことを睨みつける。



「は?なに、その目。私と戦う気なんですか?勝てるわけないじゃないですかぁ。ただの地球人が」



随分、馬鹿にしたような言いぐさだな。だが、良いさ。僕のことを馬鹿にしたければ、存分に馬鹿にするが良い。

どれだけ言われようと、僕は我慢してやる。もう、言われ慣れてるしね。


僕は、ゆっくりと立ち上がる。

爆風で吹き飛ばされた時に痛めたのか、体中が悲鳴をあげている。

それでも、立ち上がる。


でも、ルイさんが悪く言われるのは、許せないんだ。

理由?なんだろうね。よく分からない。でも、やっぱり許せないよ。

それが、僕の敵わない敵であったとしても……許すわけにはいかない!


ぎゅっと、自分の拳を強く握りしめると、少女に向かって走り出した。



「うぉぉぉ!!」



しかし、走り出した途端、再び目の前が眩しく光る。

それと同時に、僕の体は宙へ舞い、そのまま地面へと激しく叩きつけられた。

あまりの痛さに息ができない。意識は吹き飛びそうになり、景色は歪む。

立とうとするが、動こうとすると全身に激痛が走り、身動きがとれない。



「地球人の分際で、刃向かうからこんなことになるんですよ」



少女の馬鹿にした言い方が、悔しさをかき立てる。

僕は結局何もできないじゃないか。本気をだしたところで、相手は魔法を使う異世界人。手も足も出せない自分に腹が立ってくる。

悔しい……悔しい……悔しい……

ルイさんの力になれるどころか、自分の命すら守れないなんてね……



「この世界がなくなるのも時間の問題ですから、おじさんは安心して死んでください」



少女の手からは、再び蒼く光る球が出現した。

軽々と建物を壊した刃が今、僕に矛先を変え、迫ろうとしている。

やり残したことはたくさんある。

夏フェスだって、コミカだってもっともっと参加したい。

それに、今週のLoveきゅーれだって、見ていないじゃないか。

それに……それに……もっと、ルイさんと一緒に……



「またね。おじさん!」



少女がそう言うのと同時に、辺り一面が眩しく光り出す。

これが、僕の最期……なんて無様なんだ……

結局、僕の人生は空回りな人生だったってことか……

僕はゆっくり目を瞑り、死を覚悟した。



「広域結界を張らないで、随分と好き勝手に魔法を使ってくれるじゃない?」



聞き覚えのある声……懐かしく温かい。ほっとするような声。

ところで、僕は生きているのか?黒装束の少女に殺されたはずではないのか?


自分が生きていることを確認するため、閉じた目を再び開ける。そこには、驚く表情をする黒いコートの少女。

僕は、なぜだか生きていた。それを確信するのと同時に、僕の目の前に、ある人物が立っている事に気づいた。

それは、僕が知っている人物……タイトなジーパンに、ラフな白いワイシャツ姿。ああ、間違いない。僕の前に立つ、この人は……



「恭祐、遅れてごめん……」



僕に背中を向けたまま、呟くように言った。

優しく力強い声は、やはりルイさんの声であり、ルイさん以外の何者でもない。

ルイさんの後ろ姿は、たくましく、本物の魔法使いであるかのようだった。

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