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第三撃【サドとマゾは紙一重】

“ビーナス”

そこは、ルイさんが生活していた惑星の名前。

聞いたことも見たこともないそんな惑星が、実際には存在していたわけだ。

ルイさんは、惑星を守る偉大なる魔女であるらしい。

そんな偉大なる魔女、ルイさんが地球にやってきたのも、魔王“キラーJ”が地球を侵略するとの報告があったからで、

決して遊びに来たわけではないらしい。

僕とルイさんが出会ったあの夜。ルイさんは、やっとのことで地球という惑星に到着した。

地球に行くこと自体、相当な魔力を消費し、さらには地球という場所は、魔の力を減少させるエネルギーが存在する。

魔力が尽きてしまうと、ルイさんたちは、死んでしまうみたいで、ルイさんはかなり追い込まれていたみたいだった。

そして、瀕死の状態で僕の部屋に辿り着き、あのような事になったという。



僕が夏目美香を見たという減少の理由としてルイさんは、こう話していた。

“知覚の障害”と。

未知数の物体を見つけた僕の脳はパニックに陥り、幻覚を起こさせた。

その際、幻覚として現れるのは、自分の憧れ。つまり、大好きな人の存在。

とってつけたような理由に思えたが、確かに僕が夏目美香をルイさんに見せたとき、ルイさんは「こういう子が好みなんだ」と、見抜いていたな。





夏休み初日というのに、朝早くに起こされ、僕はこうしてルイさんと非現実的な話を展開させていた。端から見れば、なんとも滑稽だろうね。



「だいたいの話は理解できましたけど、キスと契約に何の関わりがあるんです?」


「簡単に言ってしまえば、力の供給よ」


「力の……供給……」



要するに、僕とキスすることによって、ルイさんは何らかの力を手に入れることができたということなのだろうか。

だが、僕がもっている力ってなんだ?何の能力も持ってはいないはずだ。

僕は、一般の学生であり、一般のオタクである。それ以上でも、それ以下でもない。



「“知覚の障害”については、さっき説明したけど。その知覚の障害を生み出した原因ていうのが、魔力の不安定さにあるの」


「不安定……安定しないってことですよね?」


「そのまんまじゃない。でも、そういうことになるわね」



ルイさんの話を聞けば聞くほど、自分が馬鹿になるような気がしてならなかった。

魔力、魔王、世界の崩壊……現実離れした話には慣れてきたが、自分の知識が追いついていかない。

ちょっとは新聞でも読めば、分かったりしたのだろうか。いや、恐らく無理だろう。



「疲労による魔力の低下と、地球という未知の惑星エネルギーによって私の魔力は不安定になっていたわ」


「つまり、その両方の理由が合わさって、“知覚障害”を起こす原因が起きたと」


「正確に言えば、原因物質ね」



いまいちピンとこないが、ここで考えていては、話が先に進まない。

だから、自分なりの解釈でまとめていけば良い。

よし、だんだん非現実物語の攻略の仕方が分かってきたぞ。



「それで、僕とキスをするというのは……?」



「キスをすることによって、地球という惑星エネルギーを貰うことができたの。つまり、地球でもビーナスにいたときと同じように魔法を安定して使えるようになったわけよ。」



「じゃあ、僕はもう必要なしってことですね」



僕とキスをし、惑星エネルギーというものを貰ったルイさんに、今の僕は必要なのだろうか。

いや、むしろ役立たずではないのか?魔王ってやつも、絶対に魔法とか使ってくるだろう。

きっと、僕がいたらルイさんの足手まといになる確率200%だ。

だから、もし僕がルイさんにとって不必要な存在ならば、はっきり「いらない」と言って欲しかった。



「そうもいかないのよ……」



ルイさんは、落胆の表情を見せた。



「……というと?」


「惑星エネルギーっていうのは、供給し続けてもらわないと、駄目なの。」


「……ってことは、またキスを……あは、マジっすか」


「ば、ばかっ」



そんなふざけた冗談を言った途端、もの凄い勢いで僕の右頬に衝撃が走った。

これって、まさかの平手打ちってやつ?

お袋にもされたことないのに……。



「要は、キスした相手が、生きていなければ駄目ってこと。だから、契約って言ってるの」



突然、もの凄い重い言葉が、僕にのしかかってきた。

契約ってそういうことだったのか……ルイさんの話によると、

どうにも僕の死が、ルイさんや世界の崩壊と何らかの形で密接に関係しているってことは予想できる。

だが、確かめたかった。もし、仮に僕が死んだら、どうなってしまうのか……

地球は?ルイさんは?



「じゃあ、もし、仮にですけど。仮に、僕が死んだら、ルイさんは……地球はどうなるんですか?」


「……」



僕が訊ねると、ルイさんは複雑な表情をしたまま喋らなくなった。




外から聞こえてくる、蝉の音だけが、僕とルイさんがいる部屋に響き渡っていた。

昨日爆発音があったとは思えないほど、僕の部屋はいつも通りで、いつも通りに僕がいつもの朝を迎えている。

でも、僕の部屋にはルイさんという自称偉大なる魔女がいて。

全てが夢のようで、でもこれは実際に起きていること。未だに実感はない。

どこからが本当で、どこからが冗談なのかさえ分からない今、僕はルイさんが話を続けてくれるのを待つしかなかった。


静寂が訪れてどれぐらい経ったのだろう。

ようやくルイさんが、重い口を開けた。



「魔力が制御できず私の魂は消滅。……そして、魔王は、この世界を崩壊し、自分のものにするでしょうね」



実感のない言葉。それでも、恐怖を感じるには十分な言葉だった。

ルイさんが消滅してしまう?

僕の死イコール世界の破滅?

僕の死がルイさんの消滅と世界の破滅を意味するだなんて、思ってもみなかったよ。

ボディガードか。今の仕送りじゃ、雇えないな……どうしよう。



「きっと、魔王もそのことは知っているはず。だから、恭祐。きっと魔王は、あなたの命を最初に狙ってくるはずよ」



その言葉だけは、聞きたくなかった。

いや、きっと魔王が僕の命を狙ってくるだろうとは、どこかしら予想がついた。

アニメの見過ぎからかもしれないし、漫画の見過ぎかもしれない。

いや、もしかすると妄想のし過ぎなのかもしれない。だが、僕には予想がついていた。

それでも、認めたくなかったんだ。

だって、相手は人間じゃない。魔王なんだよ?

魔法も使うし、きっと僕が見たこともない技も出したりしちゃうんだ。

魔法も見たことないけどさ……。

そんな相手に、どう立ち向かえっていうんだ。



「大丈夫よ、私がいるんだから」



ふと、ルイさんが僕の怯える姿を見たからなのか、そんな言葉を発した。



「大丈夫……この世界も、恭祐も絶対に守るから」



ルイさんは、透き通った目で僕の方を見つめながら、力強くそう言った。

ルイさんを見ているだけで、恐怖心は薄れ、とても安心することができる。



「恭祐……」


「はい、なんでしょう」


「本当に、私が言ったこと……信じてくれるの?」



ルイさんが唐突にそんなことを質問するものだから、僕はつい、笑ってしまった。

その態度を見て、不機嫌な表情を見せるルイさん。



「な、何よ。私、可笑しいことでも言った?」



慌てて否定と謝りの言葉を入れる。

その不機嫌そうな顔も、なぜか憎めないんだよね。

すっごく可愛いんだもの。



「ルイさんの話を聞いていて、分からないこともたくさんありましたけど、ルイさんの言っていることは全部本当だって、僕は思います」


「……」


「だから、確かめなくても良いですよ。僕は、信じますから。例えそれが嘘であってもね。」



そう、僕は信じたい。

ルイさんが話してきたことを。

もちろん、分からないことや、疑問に思うこともある。

ましてや、その話題が非現実的なことだから、なおさら信じられない部分はたくさんある。

でも、僕はなぜだか、ルイさんの言っていることを信じたいと思ったんだ。

一生懸命、僕に話をしてくれたことが嬉しかったから?

こんな非現実的な事を、僕自身が望んでいたから?

よく理由は分からない。でも、信じてみたいんだ。



「……りがと……」



とても小さな声でルイさんは僕に向かって何かを言った。それだけは分かる。

だが、しっかりルイさんの話す言葉を聞き取ることができなかった。

ちゃんと、人の言葉を理解しないと失礼だ。

きっと、ルイさんに「人の話はちゃんと聞きなさい」って怒られちゃうな。

ちゃんと聞き返そう。



「え、何か言いました?」


「っ……。もう、知らない!ばか」



せっかく失礼かなと思って聞き返したのに馬鹿って言われたよ。

でも、なぜかドキッとしてしまうルイさんの仕草に僕は、ちょっぴり幸せを感じてしまっていた。


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