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第十四撃【いつかまたここで】

「……祐!」



誰かの声に気づき、目を開ける。

そこには、心配そうな表情をするルイさんの顔が見えた。



「良かった……気を失っちゃうんだから、驚いたわよ」


「すみません」



そういえば、僕はルイさんとキスをしたあと、気を失ってしまったんだ。男として、それは駄目だよね……



「って、僕たち、生きてる?」



上体を起こし、辺りを見渡す。そこには、キラーJの姿はなかった。



「はぁ、疲れた〜」



ルイさんは、ぐっと背伸びをすると、僕の隣で寝ころんだ。僕も同じく、疲れた体を休ませるかのように、大きく手を伸ばし、横になった。

辺りは闇に包まれ、夜空を見上げると、たくさんの星が輝いてる。ルイさんの方を見る。ルイさんは、目を瞑り、気持ちよさそうにしていた。

なぜ、僕たちは助かったのか分からないし、なぜキラーJが姿を消したのか、分からない。だが、その理由を、ルイさんに聞こうとはしなかった。別に、理由が分からなくても構わない。ルイさんとこうして、一緒にいられるだけで、僕は満足だ。



「恭祐」


「はい、なんでしょう?」


「私ね、自分の住む惑星が嫌いだったの」



ルイさんは目を瞑ったままだ。

僕は、ルイさんの話に耳を傾けることにした。



「キラーJとビーナスは、協定を結んだのよ」


「そんな……なんのために?」


「他の惑星を手に入れるためよ。そのために、力が必要だったの」



力……?それは、ルイさんが以前言っていた、破壊の力というものなのだろうか。



「私は説得をしたの。ビーナスという惑星が好きだから……もしかしたら、改心してくれるんじゃないかって。でも、聞き入ってはもらえなかった……」


「……」


「それでね、私は自分の星を捨てて、ターゲットとされる惑星を、守ろうとしたの」



自分の星を捨てるということが、どれだけ辛いものなのか。そして、どれだけ恐いものなのか、僕には、全く想像できなかった。もし、地球が他の惑星を侵略し始めたら、僕はきっと、黙って見過ごしてしまうだろう。だって、恐いじゃないか。自分が住む世界に逆らうことは、全ての地球人が僕の敵となる。味方となってくれる者なんて、一人もいない。



「でも、誰も私の言っている事を、信じようとはしなかった。異世界人なんて、いるはずがない。世界が、魔王によって滅ぶなんて、あり得ないって……結局、私が守ろうとした惑星は、全部滅ぼされてしまった。本当、馬鹿みたいよね」



笑ってみせるルイさんの様子は、どこか寂しく、悲しい。『いいえ、ルイさんは馬鹿じゃありません』って、言いたかった。むしろ、ちょっと言いかけた。でも、やっぱり、言うことができなかった。ルイさんのことが、馬鹿だと思ったからじゃない。かけてあげる言葉が、果たしてそれで良いのか、分からなかったんだ。

ルイさんは、夜空を見上げていた。僕も、一緒になって、夜空を見上げる。この場所からは、景色が最高だ。夜空一面には、本当にたくさんの星が輝いている。星座に詳しければ、そんな会話でも一つ、してあげられたのにな。



「でも、恭祐に会った」



ルイさんは、すっと僕の方に顔を向けた。僕は、なぜかルイさんの方に顔を向けることができない。きっと、緊張してしまうからだろう。



「私のことを疑うことなく、信じてくれた初めての人……大切な人……」


「あ、あはは!いやだなぁ、またまた〜」



ルイさんの言葉に、僕の心臓は高鳴っていた。僕はたまらず、適当に誤魔化そうとした。



「本当に嬉しかった……好きだって言ってくれた事も……」



ルイさんが、僕のことを見てくれているんだから、僕も、ちゃんと、ルイさんの事を見てあげなきゃ。好きで好きで、たまらなく大好きな、ルイさんの顔を、満面の笑顔で見てやるんだ。作り笑いじゃなく、最高な笑顔でルイさんの方に顔を向けた。



「ル……ルイさん?」



ルイさんを見た瞬間、僕は驚き、動揺した。なぜか、ルイさんの体が光り始めていたのだ。なんで?どうして、ルイさんは光っているの?そんな疑問が、沸き上がってくる。手や足は小刻みに震え、言葉が出ない。ルイさんは、上体を起こし、立ち上がると、僕に優しい笑顔をしてみせた。



「もう、時間みたい」



時間?何が、時間?ルイさんの言っていることが分からない。意味が分からない。

ルイさんの体から発する光で、闇に包まれていた辺り一面が明るくなる。優しい笑顔をしているルイさんとは反面、僕は立ち上がり、どんな表情でルイさんの事を見れば良いのか分からなくなってしまった。気づくと僕は、下を向いていた。



「もう、なんでそんなに落ち込んでるのよ……大丈夫!何も、落ち込むことはないんだから」



ルイさんの優しい声がする。

拳を握る。とても強い力で拳を握った。



「私が、この世界から消えてしまえば、恭祐から私の記憶はなくなるから……」


「勝手なこと、言わないでくださいよ!」



ルイさんの方に顔を向けると、体中から光を発するルイさんの姿が見えた。ルイさんは、とても驚いた表情で僕のことを見ている。



「何も大丈夫じゃない!嫌だ、嫌だ!ルイさんが、いなくなるなんて、絶対に嫌だ!」


「恭……祐?」



景色は歪んでいた。ルイさんがぼやけて見える。言葉が何度も詰まりそうになった。



「もっと、一緒にいたいんです……もっと、ルイさんと一緒に……」



僕は、その場にしゃがみ込み、地面に両手をついた。目から溢れ出す涙は頬を伝い、地面に何度も落ちた。

なぜ、こうなってしまうんだ……?キラーJは、もういなくなったのに。世界に平和が、訪れたというのに。なんで、ルイさんは、いなくなってしまうんだ?そんなの、嫌だ……もっと、ルイさんと一緒にいたいのに。一緒に同じものを見ていきたいのに……



「私も、同じよ?……ううん。恭祐に負けないくらい、私も恭祐と一緒にいたい」


「じゃあ……じゃあ、なんで……」



顔を上げると、先ほどよりもルイさんの体は強く光り始めていた。



「……もう、逃げないって、決めたの。ビーナスに戻って、全てを変えなくちゃ。地球に負けないぐらい、素晴らしい惑星にしてやるんだから!」



その言葉を聞いて、はっきり分かったことがある。邪魔しちゃいけないってこと。ルイさんが決めたことなんだ。僕の勝手な我が侭を、ルイさんに押しつけてはいけない。ゆっくりと立ち上がり、ルイさんの事を見つめる。ルイさんの目は透き通った目をしていて、それでいて、力強い。



「もう、恭祐ったら、泣き虫なんだから」



ルイさんが、僕の涙を指で拭き取ろうとした。だが、ルイさんの指は、僕の顔を貫通してしまう。ルイさんは、すでに消えかけている。ルイさんの目からは、キラキラと光るものが溢れ出していた。



「あはは、嫌だなぁ。なんで私、泣いてるんだろう……」


「ルイさん!」



僕はルイさんのことを、力強く抱きしめたかった。初めて涙を見せるルイさんが、愛おしくて、愛おしくて。

ぎゅっと抱きしめようとした僕の体は、ルイさんを通り過ぎてしまった。もう、ルイさんの体温を感じることはできない。

あの優しい温もりを、感じることはできなくなってしまった。



「私は、決して忘れないわ。恭祐と出会ったこと……一緒に過ごしてきた日々……恭祐の表情の一つ一つ」


「僕もです!ルイさんのこと、絶対、絶対忘れない!」



ルイさんは、にこっと笑顔を見せた。その笑顔は、どこか寂しく、切ない……胸が痛く、とても苦しい。

やっぱり嫌だよ……ルイさんと離れ離れになってしまうのは、やっぱり嫌だ。

僕は、ルイさんの事を抱きしめた。いや、ルイさんの姿に合わせて、抱きしめるポーズをとった。ルイさんも同じように、僕の姿に合わせ、抱きしめるポーズをとってくれた。感触はない、温かさはない。でも、ルイさんは近くにいる。僕の、すぐ近くにルイさんはいる。



「恭祐?」


「はい、なんでしょう?」


「今、恭祐の目に映っているのは、誰?……あの可愛らしい女の子かしら?」



僕とルイさんが、最初出会ったとき、僕の目に映ったのは紛れもなく、夏目美香だった。知覚の障害とやらで、大好きな人の姿が目に映ったらしい。もし、仮に今、知覚の障害が起きているのだとしたら、僕の目に映っているのは、僕がこの世界で、いや、宇宙一、大好きな人の姿だ。それは誰だ?夏目美香じゃない。ああ、他の誰でもなく……



「ルイさんですよ」


「良かった……私も、好きだよ。恭祐のことが、大好き」



ルイさんが、笑顔で、そう言うと、ルイさんの体が徐々に消えてなくなっていく。



「ルイさん!!」



僕は大声で叫んだ。何度も何度も叫んだ。声が枯れてもなお僕は、ルイさんの名前を呼び続けた。辺りは再び闇に包まれ、もうそこにはルイさんの姿はない。僕は、しゃがみ込み、拳を握ると、何度も何度も地面を殴った。とても痛かった。それでも、殴り続けた。ルイさんの名前を呼び、地面を思いっきり殴る。目からは涙が溢れ、もう景色なんて見えやしなかった。

それでも、僕は……









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