VS農民
澄んだ空気。青い空。カラッとした暑さが気持ちいい。
そう。ここは異世界。アホくさい理由で、ついに俺も仲間入りだ!
「んでんでんで、ステータスとかさ〜」
何も見えないけど手をスライドしてみる。メニューバーとか出ませんか。
「出ません!」
樹を殴ってみる。
「痛い!」
パワーもない。走ってみよう。
「ハア、ハア....」
ダメだ。
ポケットにはスマホも無い。変わったといえば、左腕にブレスレット。きっとこれが後に役に立つのだろう。
「まあ、歩いてみるか。どうせ死なんだろ」
真っ直ぐ、ただ歩いてみる。
「村だ」
都合よく村を発見。情報を集めよう。
入口付近に、ざわざわとした人の集まりが見える。何かあったのだろうか。もしかして俺のチャンス到来なのか?
「どうしました?」
近くのおばちゃんに聞いてみる。
「おや?アンタ見ない顔だね?」
「旅人でして」
「そうかい。すまんねえ、ゆっくりしてもらいたいんだけど..」
言い淀むおばちゃん。視線を辿ると若い兄ちゃんがイキリ散らしていた。
「誰がこの村救ってやったと思ってんだ!!?俺だよ!!!」
コントみたいな話し方になってる勇者っぽい兄ちゃん。怒ってはいるけどイケメンだ。たぶん殴りあっても勝てない。
何を怒っているんだろう。
「それなのにどーしてお願いのひとつも聞いてくれねえんだよ!?おかしいだろ!?」
気持ちはわかる。でもだからこそ、ちゃんと分かってもらわないと。
「でもさぁ、勇者?かなんか知らんけど、見返りを求めたらそれはヒーロー、っては言わなくない?」
「あぁん!?ンだよてめー!」
気圧された。
「ごめんなしぃ(>_<)」
腰が引けてしまった。だって俺弱いんだもん。ニートだし。
「なっさけないねえ!」
おばちゃんが俺の前に立ち塞がる。
「でも、この兄ちゃんの言う通りだよ!助けて貰ったことはみんな感謝してる!もちろんお礼だってするさ!でもね!アンタのそのお願いってのは最低だよ!」
「どんなお願いごとしたんですか?」
ぼそっと聞いてみる。
「若い娘たち全員をくれって!」
みんな怒ってるの納得。親だもんな。
「わー最低だ」
「そうするだけの力が俺にはあるんだ!」
「そうなの?」
「俺は転生して生まれ変わった。レベルだって100は超えてる!村を襲ったゴブリンだって全滅させてみせた!」
ゴブリンってそんな強いのかな。ニートよりは強いか。
「だから、娘さんたちをくれないと暴力で解決しよう、と。」
「そうだ。もっとも、俺を止めることなんて無理なこった」
相当力に溺れてるな。俺に止められるかなあ。危ないことはしたくないなあ。
「わかったら消えな。雑魚が」
「むっ」
ムカッとくる。
「俺が相手になるからさ。そういうことするのやめようよ。」
「モブが俺に喧嘩を売ってきたしw」
「マジ泣いてもしんねーぞ?」
ガンを飛ばす兄ちゃん。きっと転生する前はヤンキーに憧れてた中二病なんだろう。(推測)
「いいズェ...ぶっ飛ばしてやるョ...」
俺もイキリパワーで対抗。
兄ちゃんが剣を抜き、俺も拳を構える。
「いくぞッ!」
────
おばちゃんの臭い。くっさ。
「ん...」
「目が覚めたかい?」
「あは〜..やっちまった..?」
「バカ、アンタがやられたんだよ」
ちぇっ。
「あの兄ちゃん、アンタのこと倒したら出直すって言って帰っちゃったよ」
「そうですか。ぶっ飛ばしてえなあ」
「そう?ならおばちゃんが鍛えてあげよっか?」
「へ?そりゃおばちゃん、俺そこまでヤワじゃ」
「フン!!!!!」
おばちゃんが筋肉をモリモリと増長させ、右腕を見せつける。
「気持ち悪..ッ!」
異形のおばちゃんがショックで俺はまた倒れてしまった。
「起きなァ!!!!!!」
マッスルおばちゃんのビンタで目が覚める。
「いってえ!!!?!!?」
「修行するよ!!!!!!」
マッスルおばちゃんめっちゃ元気だ。
「し、修行って...」
「山に登って魔物を倒すんだよ!!!着いてきな!!!!」
おばちゃんに首根っこを掴まれ、外に連れていかれる。
「うわあゴリエさん、ヤル気満々だねえ」
「村1番のパワー系おばちゃんだからねえ」
ゴリエさん、か。名前通りの見た目だこれは。
「ゴリエさん、首、首折れる..」
「折れないよォ!!」
山。魔物なんて本当にいるんだな。
「オークじゃん」
「ヨォ!ゴリエ!」
喋った。ゴリエさんも挨拶を交わしている。友好的なのか..ゴリエさんが魔物寄りなのか..
「今日からこいつを鍛えてやっとくれ!」
「このヒョロそうな若造を?」
「私とアンタの仲じゃないかい」
オークの腕に絡みつくゴリエさん。
そうか、こういう恋もあるのか。
「仕方ねえ!お前との息子だと思って厳しくしてやらァ!」
「頼んだわよ。お昼は作ってくるから」
「あんがとよ!」
ゴリエさんは手を振り、山を降りていく。
「────」
唖然としていた。
「ボウズ、名前は?」
「あ、慧です」
「よーしケイ!俺はオークの親分、オウザックだ。お前をみっちり鍛えてやろう!」
「よ、よーし!よくわからんけどよろしくお願いします!」
「おう!」
オーク流の武術とかもあるらしい。ゴリエさんは、その武術を通してオウザックさんと仲良くなったらしくて。
「でも、人間とオークじゃ子は産めねえ。..だから、こうして山に来てくれるだけで俺は...」
激しい修行の後、ゴリエさんが持ってきてくれたお弁当を二人で食べながらそんな話を聞いていた。
魔物は人間なんか見下してる、なんて偏見を持っていた。でも違った。
生きている。心がある。人間と一緒だったんだ。
あの神様たちみたいに、俺も決めつけて差別していたのかもしれない。
「情けねえよな。オークはオーク。人間は人間と恋をするべきなのに」
「そんなことないですよ!」
言葉の勢いが強くなる。
「..?」
「素敵じゃないですか!魔物も人間も関係ないですよ!恋は!」
「好きなんでしょ!情けないとか言わないでくださいよ!」
「お、おう...?....ありがとな」
オウザックさんが弁当を平らげ、立ち上がる。
「さぁケイ!食ったら修行再開だ!日が暮れる頃にはゴリエと模擬戦してもらうからな!」
「マジか...俺死なねえかな...」
それから必死に修行した。オウザックさんから槍を借り、棒術や槍を使った応用。一日で俺が行っていた運動量の、比にならないほど疲れた。
が、まだ残っている。
夕焼けに照らされて、ムキムキの農民が、階段を登って現れる。ラスボスみたいな雰囲気さえ滲み出てる。
「いやァ〜、今日も畑耕すの疲れたよ...」
よく見ると手が泥だらけだ。
「さ、一日のシメは手合わせで決まりだね!さあ来な!慧!」
拳王みたいな構えをとるおばちゃん。もしかして、この人も転生したおばちゃんだったり。
「よーし、行きますよ!」
「転倒した方が負けだ!さあ!始めろ!」
「転ばせればいいんだな...よし..」
深呼吸したら、ゴリエさんが突撃してくる。
あの大木のような脚だ。足かけても俺の方が折れる。
だったら。
「ふ...ッ!」
大きな腕で俺を掴もうとしたゴリエさん。俺はしゃがんでそれを躱し、ゴリエさんの右脚を全力で押す。
「きゃっ...!?」
重心がズレて転ぶかと思ったんだけど、乙女チックな悲鳴に俺は力が緩んでしまった。
「!?」
そのスキにゴリエさんビッグアームに俺の両腕をホールドされてしまった。
「はい、アンタの負けだよ」
「ちぇー!!」
優しい。転ばせる前にやめてくれた。
「初日のわりにはやるじゃねえか」
「そうね。あと一週間頑張れば私に勝てるかもよ?」
「はは...道のりは険しいな...」
待てよ...?俺何しに来てるんだっけ...?
内容薄いね。これからもっと頑張って増やすからね。
次回 第三話 VSイキリ勇者