君と僕との物語5
今日ちゃんと切ればよかった。もっともそんな余裕もなかったのだけれども。
「ちょっと動かないで・・・」
「え」
「いいから」
「ちょっとうごかないで・・・」
「え」
「いいから」
言われたとおりここは命令に従うことのしよう。で、僕の彼女はというとなにやらごそごそと鞄を探りはじめた。本当に。
何をおっぱじめるつもりなんだ。
と「動かないで」念を押された。いよいよ恐怖にすら感じる。
とその刹那。
別の固いものがふれる。そして・・・チョキン!
はさみの摩擦音が聞こえた。
「はい」
値札を手渡される。
「あ・・・ありがとう!」
「ふふふ・・・ははは」
いよいよこらえきれなくなって、声をあげてその女の子は笑った。
「おい!君たち。何をしているんだ。しばらく廊下に出ていなさい」
先生の怒号が飛んだ。
こんな春うららかな日にこんなに寒い廊下に立たされるなんて。
「あーあ。立たされちゃったなあ。誰かさんのせいで」
例の彼女がそんな嫌みを耳元でささやいた。仕方ないだろうといいたくもなったが、どうしようもない。
確かに僕のせいではあるのだから。何もいいわけはできない。
「シカト?」
「わるいと思っている」
「もう本当よ。まったく」
「いつもそんな感じなの?ムスっとして」
「もともとだよ。人と接するのは得意じゃないんだよ」
得意じゃないというか大いに苦手だ。根が暗いのだ。
「そんなんじゃいつまでたっても友達おろか彼女もできないよ」
「うるさい。おおきなお世話だ」
本当におおきなお世話だ。まったくもって。たしかに友達は今までひとりもいなかったけれども。