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第二話

「目が見えない?」

「そう。子供の頃から……何でもね?精神的なものらしいよ?」

「ふぅん?」

「警察では、彼女が誰かに襲われて、それから護ろうとした被害者の工藤さんが拳銃で撃たれて死んだって見てる」

「それで?執事はともかく、その子が何で夜の公園なんて?」

「歩きたかった。本人はそう言ってるし、他の執事やメイド達の証言でも、彼女がよく外出することは裏付けがとれている」

「夜なのに?」

「目が見えなければ、昼夜関係ないよ」



 品田は、午後になって登校してきた。

 ネクタイはゆるみ、シャツの裾はズボンからはみ出し、頭は寝癖だらけ。

「うーす」

「おい品田、なんて格好だ?」

 品田の悪友達でさえ顔をしかめる格好をした品田は、覇気のない声で答えた。

「格好なんてどうでもええ」

「かなめちゃんに怒鳴られるぜ?」

「どうでもええ」

 乱暴に椅子に座り、手足を伸ばした格好で椅子の背もたれに寄りかかった品田は、視線の端に美奈子の姿を認め、腰を上げた。

「桜井」

「品田君―――災難だったね」

 自分の席で綾乃やルシフェルと話していた桜井が、不快そうに視線を逸らした。

「まぁな……スマンな。迷惑をかけた」

「ううん?とりあえずその格好何とかして」

「へ?」

「品田君、ズボン」

 ルシフェルも品田から視線を外す。

「社会の窓が」

 綾乃だけは何故か困ったような顔をするだけだ。

「……あっ」

 足もとを見た品田は、ズボンのファスナーが全開だったことに初めて気づいた。

「いやん♪みなさんのエッチ♪」

「瀬戸さん。変質者がなんか言ってる」

「誰がやねんっ!」



「つまり」

 ようやく普通に戻った品田は言った。

「ワイ、公園に入る鈴蘭すずらんちゃんを見つけたのは、本当に偶然や」

「ストーカーしてたんじゃなくて?」

「アホ。相手は正真正銘のお嬢様やど?本当なら華雅女子に入っていて当たり前の娘や。ストーカーなんてそうそう出来るかい。ワイも仕事あるし」

「それで品田君は」

 綾乃は気の毒半分、好奇心半分の視線で品田に言った。

「その鈴蘭さんの後をつけた」

「そうや。話すきっかけでも掴めればって」

「そんなにカワイイ子なんですか?」

「ああ―――絶世の美少女や!」

 顔を赤くして力説する品田。

 絶世の美少女。

 品田が綾乃を始め、何人ものアイドルをそう呼ぶせいで、随分価値がないように聞こえるが、品田の顔を見る限り、少なくとも品田は本気だ。

「色白の肌といい、あの心地よい香りといい―――何ちゅうか、折れそうなほど細い体……思い出しただけで……ああっ♪昨晩は大フィーバーやった!一箱いったで!」

「な……何が一箱か聞かなくていい?」

 美奈子は、品田が遅刻したことへの認識を改めた。

 事件のショックじゃない。

 話からするに、品田は昨晩、あの子を抱きしめていたことを思い出して―――。

 女子生徒がどん退きする中、品田の舌は動きまくった。

「エリ○ールよりシコ○ティ、じゃなくて、スコ○ティの方がええなぁ―――ワイは敏感なんや」

「……」

「……」

「……」

「まぁ、それはそうと」

 ずいっ。品田は机に身を乗り出した。

「桜井、鈴蘭ちゃん、今、どうしてる?」

「警察の捜査情報なんて私が知るはずないじゃない」

「……そうか。そうやな」品田は肩を落とした。

「本当に、その鈴蘭さんのこと、大切なんですね?」

「綾乃ちゃん。当然やんか」品田は綾乃に答えた。

「ワイはあの子に惚れたんや」

 美奈子達は、その目に嘘を見いだすことが出来なかった。



「どうにかしろって言われても」

 水瀬は、美奈子と綾乃を前に、困惑した顔になった。

「何をどうされたいの?」

「品田君と、その鈴蘭さんを結ばれるように!」

「監禁して媚薬でも投与する?品田君が犯罪者になるけど」

「そうじゃなくて!」

 綾乃はいらついた声で言った。

「そういうのは、私にしてくれればいいんです―――じゃなくて」

「瀬戸さん……」

「桜井さん、聞かなかったことにしてください」

 絶対、負けませんから。

 ポツリとこぼれたその声を、美奈子は聞き逃さなかった。

「だからね?」

 美奈子は綾乃を押しのける形で言った。

「品田君と鈴蘭さんを、もう一度、再開させてあげたいのよ」

「ふぅん?」

 水瀬は、教室の窓から外を眺めながら、気のない返事をする。

「そんなんでいいの?」

「随分、なげやりだね。何?友達の恋愛に興味ない?」

「運命の女神様は」

 窓の外に向けた視線を外さず、水瀬は言った。

「まだ品田君に微笑んでいるみたいだね」

「へっ?」

 美奈子は、水瀬の横にぴったり寄り添う格好で窓の外を見た。

 校舎の車寄せに高級車が一台横付けされていた。

 そして、そこから出てきたのは―――


 背広姿の男達に囲まれた白い杖を手にした少女。


 美奈子は、その顔に見覚えがあった。


「あ、あの子!」

「そう。だから、僕達の出る幕なんてない」

「成る程?」

「カワイイ子ですね」

 水瀬と美奈子の間にさりげなく、しかし強引に割り込んだ綾乃が言った。

「ブロンドだなんて、ハーフでしょうか。うらやましいな」

「ぼ、僕は綾乃ちゃんのそのストレートの方が……」

 水瀬は泣きそうな声でそう言う。

「ありがとうございます♪」

「お、お願い……綾乃ちゃん」

「はい?」

「足、どけて……お尻をつねらないで……痛い」



 校内に放送が流れたのは、その時だ。


「2年A組、品田。面会です。大至急職員室へ」


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