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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第3部 凶暴~バーサーク~ 第1章 聖奈の過去と共存論争
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第99話 テニスしようぜ

「聖奈はんの彼氏が異人やって。そんなアホなことがあるかい」

「信じたくはないけれど、その可能性が高いってのも事実なんだ」

 異の世界で問題の異人そのものを目撃した俺からすれば、聖奈の説を支持するしかない。それに、異人である百合やマスタッシュも「テイルと酷似している」と証言している。


「私も信じがたいですね。写真で比較するだけなら、他人の空似ってこともあるじゃないですか」

「そうかもしれないけど、私と同じ能力を持っているっていうのも引っかかる。これは、私と孝の間にあった出来事を話した方が分かってもらえるかもしれないな。翼や冬子には教えたことがあるけど」

 冬子の過去話を聞いた時に語られた覚えがある。確か、デート中に異人に襲われて生き別れになったんだっけな。



 孝と知り合ったのは、大学に入ってすぐの頃だった。高校の頃にやっていたテニスを続けてみようと、サークルのオリエンテーションに参加したんだ。そこは、大会に向けて日々特訓、というようなスポ根丸出しの部ではなく、男女睦まじく気楽にプレーを楽しむ緩い所だった。学部で知り合った江里菜の誘いもあって、私はこのサークルに入ろうと決めた。

 緩いとはいっても、部員の実力は千差万別なわけで、誘いをかけた江里菜当人は素人丸出しだった。「テニス漫画にはまっててさ」って、そういう口かい。高校の時も同じ動機のやつがいたな。


 新入生歓迎の初練習の時に私の相手になったのが、同級生の孝だった。彼は経済学部に所属していたから、これが初対面になる。軽くラリーを打ち合ったけど、明らかに初心者の打ち方じゃない。ちょっといじわるしてコースを外してやっても、動じることなくリカバリーしてくる。それに、ネットすれすれをかすめる高速球は、高校で対外試合している時でもなかなかお目にかかれるものじゃなかった。


「尾崎さんだっけ。君、もしかして経験者」

「そうよ。よく分かったわね」

「球筋からして違う。そうか、なら、ちょっと本気を出してもいいよな」

 ぶっきらぼうな物言いで、ボールをラケットで何度もドリブルさせる。単に地面に叩き付けているだけで簡単そうに思えるが、きちんと中心でボールを捉えないとあらぬ方向に飛んで行ったりするので、案外難しい。私は、対抗してラケットでボールを天に弾き、お手玉のように滞空させ続けてやった。孝が口笛を吹いてボールを跳ね上げてキャッチしたところで、試合が開始された。


 さて、私もちょっと本気出してあげようかな。大きく振りかぶり、得意のフラットサーブを繰り出す。一直線に伸びる球は、相手のコート左端をかすめ、場外へと消えていく。

「フォーティーン、ラブ」

 審判の声を合図に、部員たちがどよめく。まあ、いきなりサービスエースを決めちゃったんだから、当たり前だろうな。

「なるほど。これは本気でも問題ないな」

 しかし、孝は意に介することなく、フットワークで臨戦態勢に入る。これで動揺しないとは、なかなかのメンタルね。そうこなくっちゃ。


 私は、一打目と同じく、高速のサーブを放つ。今度はややコートの中央寄りだ。けれども、付け焼刃でテニスやっているやつには打たれないって自負している。

 だが、孝はすばやく着弾点に追いつくと、難なく私のコートに球を弾き返してきた。いとも簡単に打たれるとは思ってなかったので、反応が遅れたのがまずかった。どうにかしてボレーで返したものの、球筋は甘く、緩やかに弧を描いている。この軌道はまずい。

 もちろん、経験者の彼がこの好機を逃すはずがなかった。飛び上がりつつ、豪快にスマッシュを叩きいれる。これで同点となった。


「やるじゃない、あんた」

「それほどでも。ボレーのタイミングが遅れていたから、もっとボールをよく見た方がいいぜ」

「わざわざアドバイスありがと。このおかげで勝っちゃったら悪い気がするな」

「前からお節介だと言われてるんでね。まあ、勝たせる気はないけど」

 それは、次の孝のサーブで証明された。私に対抗してフラットで来るかと思ったけど、まさかの変化球のスピン。どうにかリカバリーするものの、立て続けに回転のかかる球を打たれ、このセットも落としてしまう。

 このまま負け続けるわけにはいかない。次は、素直に素早いフラットサーブ。これをカウンターしてゲームの主導権を握り、点を取り返す。


 こうして、点の取り合いが続き、デュースの後に、私が王手をかけた。孝はもう後がないだけあり、執拗にボールにくらいついてくる。右、左と翻弄するようにボールを打ち込んでも、すんなり返されるのだ。激しい攻防に、ギャラリーたちも一心となって勝負の行く末を見守っていた。

 そして、運命の一打。孝はストロークを放とうとしたが、タイミングがずれて逆に球の勢いを殺してしまっていた。チャンス到来。あの時のお返しとばかりに、私は地面を蹴り、ラケットを振り上げる。そして、渾身のスマッシュを叩き込んだのだ。


「まったく、遊びでやろうと思ったら、つい本気を出しちまったぜ。俺、これでも地方大会になら出たことあるんだぞ」

「そう。通りで、かなり強いと思った」

 ゲームの終わりに握手を交わすと、自然に拍手が沸き起こった。

「尾崎さんだっけ。これからよろしくな」

「別に、聖奈でいいわ。えっと、新敷」

「孝だ。俺のことも名前で呼んでいいぜ」

 これが、私と孝の初めての出会いだった。

この回から第3部開始です。


ちなみに、卓球だったら経験あるのですが、テニスは体育の授業でやったぐらいですので、経験者からしたら試合描写にツッコミがあるかもしれません。

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