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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第5章 勘違い野郎との決戦
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第96話 渡との決着と地獄のドライブ

 俺は追い風の加護を受け急加速する。渡が気の毒なほどの絶叫で喚く。壁に接近しすぎてぶつかりそうになるが、ほぼ直角に無理やり曲がる。この駐車場内はそれほど敷地面積が広くないので、しょっちゅう追突しそうになる。時速五十キロ以上で暴走し続けているから当たり前だ。

 速度としてはジェットコースターの半分程度だが、急カーブや急降下を連続しているので、主翼を握っている俺でも気持ち悪くなってくる。喉に不愉快な液体が込み上げてくるが無理やり飲み込む。これで効果がなかったらどうしようもないぞ。


 だが、それは杞憂に終わったようだ。

「ちょい待て、あんさん、やめいや」

 渡は悲鳴をあげながら暴れまわっている。ここで振り下ろしたら冗談では済まない大怪我になるので、俺はしっかりと体を支えてやる。それが彼にとっては逆効果となっているようだが。

「マジで、まずいで、なんか、吐きそうになってきた」

 それはそれでまずい。心なしか顔面が蒼白になってきている。もしやと思って試した策だったが、ここまで効果抜群だとは思わなかった。

 これ以上やって嘔吐されてはたまらないので、俺は高速飛行を中止し、ゆっくりと降り立つ。ようやく解放された渡は四つん這いになって咳き込んだ。胃の内容物とまではいかなかったが、唾を垂れ流しにしていてかなり危ない状態だ。さすがにこうなっては再起不能だろう。


 俺が試した渡の弱点を攻める方法。それは、三半規管が弱いのではないかという疑惑をつくものだった。その根拠となったのは、セパレートと戦った時の一幕。あの時、渡は本来の実力を出せずにいた。それはなぜか。ボブによる危険運転で、主に精神的に多大な被害を受けていたからだ。要するに、乗り物酔いしやすい疑惑がある彼を、自動車並の速度で連れまわしたら、案の定ダウンしてくれたというわけだ。


「不覚や。こんなことされたら、戦うどころやあらへん。わい、昔から車だけはダメやったんや。遠足の時も、ゲロ袋のお世話にならなかったことはあれへんかったし」

 それって、遠足の度にリバースしていたってことか。弱いだろうなと想像はしていたが、ここまで急所を直撃していたとは予想外だった。

「こんな攻め方されたんも意外やったけど、あんさん短期間に強くなりすぎやろ。新しく細胞注射されたのは分かるが、ほんま何やってきたねん」

「何をやってきたって、そうだな、簡単に言うと冬子の治療法を探りに行ってきたんだ」

「冬子はんの治療法やって」

 急に立ち上がって、すぐさま喉から不快な音を出す。頼むから俺の足に吐瀉物をぶちまけないでくれよ。

「あんさん、それを先に言わんかい。冬子はんを助けられるんなら、さっさと試さなあかんやろが」

「いや、説明しようとする前に襲われたのだが」

「んなこたどうでもええ。さっさと事務所戻るで。冬子はん、今すぐ助けたるからぬぅあぁ」

 いきりたった渡は飛び跳ねようとしてそのまま無様にずっこけた。この迷惑な酔っ払いを介護しなくちゃまずいよな。もちろん、瞳をそのままにしておくわけにもいかないし。

「すまないけど百合、俺と一緒に事務所まで来てくれないか。こいつと瞳を休ませたいし、何より、俺以外の異人の能力者が集まるから、お前の目的も話しやすいだろ」

「そうする」


 俺はさっそく所長に電話して迎えに来てもらえないか交渉を試みる。まさか、ノックダウンしている二人を背負って駅まで歩くわけにはいかない。そんなことをしたら、警察のお世話になる可能性が高い。

 三コールした後、電話が繋がった。

「もしもし、所長さんですか」

「翼君。どうしましたか」

「えっと、一から説明すると長くなるのですが、異人関係で厄介なことになりまして、送迎をお願いしたいのですが」

「まったく、うちはタクシー業なんてやってませんよ」

 さすがに文句を言われたが、嘆息交じりに「仕方ないですね」と了承してくれた。なんだかんだで所長の車のお世話になることが多いから、事情は察してくれているのだろう。

 だが、予想外の事態に発展してしまった。

「でも、急に探偵の仕事が入ってしまって、車を出せそうにないのです」

 いつも暇なくせに、こんなタイミングで仕事かよ。所長の生活に関わるので文句を言う筋合いはないが。

「おそらく、今ならあのジムが休憩時間なので、ボブさんなら手が回るかもしれません。連絡入れときますが、いいですか」

「あ、ああ。頼みます」

 つい頬が引きつってしまったが、こうなったらやむを得ない。


 それから十数分ぐらいして、急ブレーキとともにボブが到着した。俺の居場所は所長の携帯に表示されるGPSで分かるとして、あまりにも早すぎないか。あのブレーキ音、一般道を走ってきたにしては激しすぎるし。

「ミスター翼。お迎えに来ました」

 臨終じゃない方のお迎えであることを願って、百合と瞳、渡を後部座席に座らせ、俺は助手席へと乗り込む。

「翼はん、あんさん、まさか」

 出発直前に意識を取り戻した渡が悲鳴をあげかけたが、もはや後の祭りだった。すまない、渡に瞳。成り行きとはいえ、こうするしかなかったんだ。

「出発しまーす」

 こうして、地獄の旅路が開始された。

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