表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第4章 病気の冬子と異の世界
89/176

第89話 異人上位種「耳~イア~」

 俺は百合を背中に乗せると、翼をはためかせて飛び立つ。百合を同行させたのは、異の世界の地理に関して情報を得るためだ。遠視能力を使えるものの、異の世界の住人の土地勘も頼りにしておきたい。百合の場合は、あまり当てにできそうにないという不安もあるけど。

「逃がすか。ヴォイス」

 またモスキート音が来る。しかし、ヴォイスが口を開こうとすると、白髭が絡みつき、中途半端な形で留められることになった。それでも嫌な音は発せられているものの、音量が小さくて気にする程ではない。これならば、思う存分飛行できる。

「ヴォイスよ。お主には悪いが、しばらくわしの相手をしてもらうぞ」

「この耄碌ジジイが」

 悪態をつきつつも、テイルはホーンと共に俺を追跡してくる。マスタッシュを見逃すわけにもいかないが、侵入者である俺を逃す方がもっとまずいとの判断だろう。


 だが、ヴォイスによる阻害が消えた今、俺の移動速度はまさに鰻登りだ。地上を走るテイルたちが次第に小さくなっていく。それでも、瞳の力を使わない状態の俺の視野から外れないというのは敵ながらあっぱれだ。ホーンは追いつけていないものの、テイルの方は能力の副次的効果で脚力も向上しているのかもしれない。

 テイルが尻尾で俺を叩き落とそうとしてくるも、動体視力を強化すればどうということはない。あのモスキート音の方が数十倍も脅威だ。


 一時は間に合わないんじゃないかとヒヤヒヤしたが、この調子ならギリギリで辿りつけそうだ。しかし、テイルがバカ正直に地上から追跡しているだけかと思いきや、それは大間違いだった。

 頬をかすめる空気の流れが微妙に変わる。俺の真向いから流れてくるのに混じって、後方から追いすがってくるものがあるのだ。まさか、空襲。その予感は数秒後に的中してしまうことになる。


 俺が首を曲げて後方を確認すると、マネキン人形が空を飛んでいた。それ自体は驚くことではない。そもそも、俺は翼で飛行する異人によってこの能力をもたらされたのだから。俺が括目したのは、そいつの異形な耳のせいだった。

 とにかく大きい。ゾウの耳を生やした人間とでも言うべきか。それだけでも異常なのに、それを広げ滑空しているのだ。その姿はグライダーを連想させた。いや、あの耳からすると、世界一有名な放電しない方のネズミの映画に出てくる青いゾウの方がしっくりくる。

 異人は迷うことなく俺の方に突撃しようとしている。素直に衝突されるわけにはいかないので、俺は仕方なしに高度を下げることにする。それを待ち構えていたように、ホーンがジャンプしながら角で攻撃してくる。それを回避しようとすると、空から変な耳のやつが襲ってくる。両者の攻撃範囲外となる微妙な高度を維持しなくてはならず、その調整で速度を削ぎ落された。


「畜生、あの大きな耳のやつは何者なんだ」

「あれなら見覚えがある」

 珍しく、百合が説明してくれるようだ。

「あれは異人上位種『イア』。聴力がものすごいけど、あんなことができたかどうかは定かではない」

「定かではないっていうか、現在進行形で俺の頭上を飛行していますが」

 今一歩当てにならなかった。

「驚いたか、空を飛べるのはお前だけじゃないってことだ」

 挑発しながら、テイルは尻尾を伸ばしてくる。一瞬だけ上昇してやり過ごす。テイルは舌打ちした後続ける。

「イアは、あの耳で滑空飛行ができる。お前の能力に比べると機動性は落ちるだろうが、空を飛ぶ相手を追跡するには最適の相手だろう」

 丁寧な解説はありがたいが、こんな刺客を投入してくるのは迷惑でしかない。


 なんとか飛行速度は維持できているものの、サンドイッチ状態で狙撃され、隙をついてテイルの尻尾が襲ってくる。油断したらすぐに墜落して袋叩きに遭ってしまう。救いがあるとしたら、さりげなく百合が役に立っているという点だ。彼女は背中におぶさっているだけだが、主にかわしきれなかったテイルの尻尾を防ぐ能力を担ってくれている。異人の能力による攻撃を無効化するので、背中にバリアをかけているに等しい。

 とはいえ、テイルの攻撃を無効化するたび、一瞬だけではあるが急激に地上へと体を持っていかれそうになる。直後に安定を取り戻せるので、そこまで実害はないが。おそらく、尻尾と一緒に俺の翼も無効化してしまっているのだろう。それならば、長時間攻撃をくらいつづければすぐさま落下してしまう。

残り時間は十五分を切ったが、目標地点はまだ通常視野に入ってこない。せめて、気兼ねなく全速飛行できれば間に合うかもしれないが、そうするには敵の数を減らさないと無理だ。

 速度を落とすことなく敵を倒す。それを実現するとしたら、狙うべき相手は一体。俺の真上にいるイアだ。


 あいつは、俺の背後から突進し、追い抜いた後に折り返す。そして、真っ向から突進というローテーションで襲撃してきている。俺が注目したのは、俺の前方から突進してくる時だ。これを迎撃するように、こちらからも突進攻撃をぶちかますことができれば。

 だが、これは危険な賭けでもある。あいつと正面衝突するわけだから、衝撃に耐えきれずに撃墜してしまう可能性がある。もちろん、そうなった場合、俺へのダメージも甚大となるだろう。そして、地上にはイア以上に厄介な相手が二体も待ち受けている。

 イアを排除できれば残りの行程は格段と楽となるが、博打にでるべきかどうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ