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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第4章 病気の冬子と異の世界
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第82話 異の世界と瞳の能力

 全身がもやに包まれるや、例の高速移動が始まる。この感覚は忘れたくても忘れられるものではない。裏を返せば、これが襲来するということは、異の世界への転移は成功していることになる。もやの先は全く見知らぬ異界でしただったらシャレにならないぞ。

 高速移動から解放されると、眼前に殺風景な荒野が広がっていた。見覚えがあるものの、確実に異の世界であるという確証はない。違ったとしても、瞳の能力に頼り切って転移してきたのだから文句は言えまい。まあ、文句を言うことすら叶わないが。


 とりあえず、周辺を観察してみよう。ちょうど、むず痒くなっていた額が治まったみたいだ。恐る恐る、そこを触ってみた。すると、わずかな動きを感じ、すかさず手を引っこめる。この感触、言葉にするならこうなる。


 手で眼球を触った感じと全く同じ。


 ここで鏡とご対面したら度肝を抜かれることになっただろう。そうでなくとも、俺の額がどうなっているかはあらかた予想がつく。瞳と同じ能力を手に入れたのであれば、そこには第三の眼が存在しているはずだ。

 そうであるなら、瞳が使えるというあの能力も再現できるかもしれない。正確な発動方法は知らないが、とにかく遠くを見るように意識すればいいのか。俺は目を凝らして、はるか遠方にある山の頂を眺めた。すると、その山が急速にズームインしてきた。仰天して目を閉じ、再度瞼を開けると、先ほどと変わらぬ風景が広がるだけであった。

 一気に視認しようとすると、それだけ風景が急速接近してくるのか。気持ち悪くなりそうだから、うまく調整しないと駄目だな。


 今度は、ゆっくりと眺めるように意識して、少しずつ目を見開いていく。すると、ゆっくりと山の頂が近づいてきた。いいぞ、その調子だ。

 だが、その途中、いきなりマネキン人形が割り込んできた。今度もまた目を閉じてしまい、また元の景色へと戻る。さっそく敵襲かよ。身構えるものの、よく考えれば、俺は千里眼を発動した状態でアブノーマルを目撃したのだ。それならば、その本体が存在するのは、俺よりもかなり遠方ということになる。

 ともあれ、アブノーマルが存在しているのなら、ここが異の世界ではないという懸念は大きく薄れたわけだ。そこは安心するべきだろう。


 異の世界に九分九厘たどり着いたと判明したところで、さっそく第一の目的を果たそう。俺は、さっきと同じ要領で目を凝らし、山脈をある程度ズームインする。いきなり視界に割り込んできたアブノーマルと再会するが、それを保ったまま視線をずらす。これで、立ち止まったまま、百合がどこにいるか探し出すのだ。ただ、一気に数十キロ先の景色を見ているせいか、矢継ぎ早にアブノーマルやら上位種やらの姿が脳裏に飛び込んできて気持ち悪い。風景が変わり映えのしない荒野が連続しているだけ救いがあるだろう。雑多なビル街でこれを試したらリバースする自信がある。


 素直に歩き回るよりも数倍効率的な方法ではあるが、それでも闇雲に捜索していることには変わりはない。ウ〇―リーを探せをやっていると思えばまだ気は楽か。ご本家より相当難易度は高いけど。

 とはいえ、人ごみに紛れた赤いボーダー柄の服を着たおっさんを見つけるのではなく、マネキン人形に紛れた少女を見つければいいので、その点では難易度は下方修正された。元の位置から二百度くらい回転した時であった。一瞬、視界の中に白っぽいものがちらついた。まさかと思い、その地点をズームインしてみる。

 アブノーマルが数体邪魔をしてくるが、その中に、人間の女の子が混ざっていた。間違いない。異の世界に来てから五分ほどだろうか。あっさりと目標となる人物、百合をその目に捉えた。


 その地点まで数キロぐらいか。これでワープでも使えれば苦労はしないが、あいにくそんな能力は持っていない。聖奈だったら脚力が強化されているので、高速移動ぐらいできそうな感じはするが、彼女に「細胞注射をしてほしい」と依頼したら張り倒されるのがオチだろう。

 飛行しようとも思ったが、それだと悪目立ちする分、アブノーマルとかに発見される可能性が高まる。俺は異の世界を征服しに来たのではなく、あくまで冬子の治療法を探りに来たのだ。無益な争いはできる限り避けたい。それに、当たり前だが、戦闘するだけ、この世界に留まる事の出来るタイムリミットが短くなる。

 数キロを普通に走るとなると、それだけで十分近く消費することになる。しかも、アブノーマルを回避するため、所々で蛇行しなくてはならない。制限時間二時間と考えると、かなりギリギリだ。


 百合もまた、その場に留まるのではなく、僅かながらも移動している。じっとしろと念を飛ばしても無駄なことである。ただ、どうやら洞穴に向かっているようだ。そこに近づくにつれ、大きさのまばらな岩石が点在するようになってきた。前にこっちにやってきたときは、こんな風景が続く場所だった記憶がある。それを裏付けるように、少し視線をずらすと、もろくも崩れ去った岩壁が確認できた。

 などと油断していると、右から拳が繰り出された。灯台下暗しというべきか、アブノーマルと接触してしまったらしい。このまま逃げ続けていて、援軍を呼ばれたらそれはそれで厄介なことになる。

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