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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第4章 病気の冬子と異の世界
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第80話 細胞注射という名目の××

「翼君の案はいいと思うのですが、残念ながら実現できそうにありません。この術は、けっこう複雑で、私の力では転移させられるのはせいぜい一人までなのです」

「一人までって、俺を送り出したとしたら、瞳はここでお留守番ってことになるのか」

「そうなりますね」

異人専用に編み出された技ゆえに、人間である俺たちが使うには色々と制限が発生するらしい。瞳の話だと、俺一人の力で百合を探し出して、解決方法を見出さないといけないということになる。

「それに、この術を使っている間、異人の気配が人間の世界にも異の世界にも漏れ続けることになるので、その気配を感じ取られるかもしれません。幸い、術を使っている間でもある程度は動けますので、護身ぐらいはできますが」

「人間の世界の能力者は大体俺の知り合いだろうから、悪いやつはいないだろうが、問題は異の世界から転移してきてしまったアブノーマルとかだよな。申し訳ないな、瞳の身も危険に晒してしまって」

「いいんですよ。敵の本拠地に土足で踏み込もうとしている翼君に比べたら大したことありません」

謙遜されたが、俺って今からとんでもないことをしようとしているな。異の主とかいうラスボスに喧嘩を売りに行くわけではないから、多少は気が楽だが。

「百合みたいに自由自在に操れたら、色々心配する必要もないのですが、いかんせん修行不足みたいです。申し訳ないです」

「いや、謝ることないって。異の世界に行けるだけでも大手柄だ。瞳がいなかったら完全に詰んでたよ」

 塩らしくなる瞳を俺は必死でなだめる。すると、瞳は顔を赤らめながら一礼する。本当にいい子だよな、瞳って。


 瞳は咳払いすると、なぜだか体をもじもじとくねらせ始めた。もしかして、それが異の世界へと赴く儀式か。ブラッドは指パッチンで発動していた覚えがあるが、実際は難儀な行動をとらないといけないのだろうか。

 だが、どうやらそうではなかったみたいだ。瞳は上目づかいで、俺の顔を見つめてくる。

「それと、異の世界に行くというのなら、託しておきたいものがあります」

「お守りでもくれるのか」

「え、えっと、そう思ってくれれば結構です」

 なぜだか瞳の声が裏返っている。せわしなく手を組み替えたりしていて、とかくせわしない。

「あの、翼君は、細胞注射って知っていますよね」

「ああ。異人が能力を注入して、無理やり人間を異人に変えてしまう技だろ」

「そうです。えっと、もしもですよ。それが異人の力を持った人間同士でもできるとしたらどうですか」

「いや、どうですかと言われても」

 今度は俺が面食うことになった。考えたこともなかったが、できないということもないだろう。

「もしかして、それも百合から教えてもらったのか」

「そうです。こっちはまだ試したことさえないのですが。でも、人を探すのに、私の能力があった方が便利だとは思うのです」

 そりゃ、千里眼や透視ができれば、人探しの効率は数百倍に跳ね上がる。その点からすると、瞳が同行できれば問題はないのだが、一人しか送り込めないとなると無理な相談ではある。


「どうなるかは分からないが、試す価値はありそうだ。やり方も知ってるんだろ」

「もちろんです。でも、これは、正直、気恥ずかしいというか、なんというか……」

「いやいや。変に躊躇わないでくれ。もしかして、すごく危険な方法とか」

 それによって命の危機に晒されるのなら本末転倒だ。ただ、なぜだか瞳は顔を赤らめて俯いている。不審に思って顔を覗き込むと、そっぽを向かれる始末だ。

「危険、ってわけではないのですが、これはあまり積極的にやるのはどうかと、あの、決してやりたくないわけじゃないんですが、えっと、その、できれば相手を選びたい、いや、その、あの」

 支離滅裂で何が言いたいのかよく分からない。俺は腹を据えて助け舟を出してやった。

「この際、何をしようと怒るつもりはないから、正直に話してみろよ」

 それで心臓を一突きにされたらお話にならないが、どうやら、そんな残酷な手段を取る気はないようだ。


「そ、そうですか。じゃあ、言いますけど驚かないでくださいよ」

 どうにか落ち着きを取り戻した瞳は、一拍置いたのち、とんでもないことを言い出した。


「私とキスしてください」


 キス……だと。スズキ目スズキ亜目キス科の魚じゃないよな。要するに、新郎新婦が結婚式でやる唇と唇を重ね合わせるあれのことか。

「冗談で言ってるんじゃないよな」

「そんなわけないじゃないですか」

 声を荒げられ、俺はたじろぐ。彼女との付き合いは深くはないが、冗談でこんなことを言うようなやつではないというのは分かる。

「そ、それで。細胞注射するのに、なんでキスする必要があるんだ」

「それは分かりませんが、アブノーマルが細胞注射するときに、唇にあたる部分を注射器に変形させますよね。たぶん、それのせいだと思います」

 人間であれを再現させようとするなら、当然のことながらキスになってしまう。マネキン人形とキスして能力を手に入れたと考えると、今更ながら気持ち悪くなってしまう。

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