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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第3章 百合
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第74話 瞳と異人との出会い

 あれは、高校に入学する直前ぐらいの時でした。高校に向けて洋服を新調しようと買い物に行った帰り、近道しようと、人通りの少ない裏通りに向かったのです。そこを道なりに進み、開けた空地を抜ければ、自宅はすぐそこのはずでした。

 けれども、空地に出た途端、私は妙な者と鉢合わせしてしまいました。ショップでよく飾られているマネキン人形。それが、青空の下に晒されているのです。しかも、それは私の方に顔を近づけるや、大きな一つ目を見開きました。なにせ、顔の表面積の大部分をその目玉が覆っているんですよ。夕方とはいえ、妖怪一つ目小僧に出くわすなんて、不可解もいいところです。

 私は必死に逃げようとしましたが、一つ目の怪物に襟首を掴まれました。そして、瞳の真下から針のような器官が飛び出し、私の首筋に突き刺さったのです。激痛が全身を巡り、私は悲鳴をあげました。


 一つ目は、私を引きずるようにして、白いもやの中に消えゆこうとしています。抵抗しようにも、体中が痺れて思うように動けません。草を握るのが精いっぱいでしたが、それも無駄なあがきに過ぎませんでした。

 やがて、私の体はもやの中へと吸い込まれていきました。


 しばらく気を失っていたみたいですが、意識がはっきりとしてくると、そこには一面の荒野が広がっていました。遮蔽物がなく、砂嵐が吹き荒れるだけの殺風景でした。

 まだ体の節々が痛みましたが、なんとか腰を上げ、しばらく探索してみました。どこまで歩いても変わらぬ風景が続くだけ。「誰かいませんか」と声をあげても、こだまが響くばかりでした。

 いきなり、訳の分からない場所に飛ばされて途方に暮れる私。やがて、歩き疲れてその場でしゃがみました。

「大丈夫」

 その声のした方に顔を上げると、白い粗末な服を着た少女が私の顔を覗き込んでいました。

「ちょうどよかった。助けてくれませんか」

「そんなこと言われても困る」

「そ、そうですよね。いきなり、こんなこと聞いてもそうなりますよね。えっと、まず、ここはどこなんですか」

「異の世界」

「こととのせかい」

 聞いたことがありません。地球上にそんな地名あったかしら。

「語感からして、アジア圏内ですかね。日本であればありがたいのですが」

「たぶん、違うと思う」

 アジアより外まで拉致されるなんて、私、悪いことしましたか。愕然としていると、それに追い打ちをかけるように、その少女はとんでもないことを言い出しました。


「そもそも、人間がここに来ること滅多にない。ここは、人間が住む世界とは別の世界」

「別世界って、そんなファンタジーな話をされても……」

 そこで言葉が途切れたのは、彼女の背後に迫る影があったからでした。それは、少し前に私を襲った者と同質の化け物。今度は、一つ目ではなく、のっぺらぼうのマネキン人形でした。

 「危ない」と叫ぼうとした矢先、その化け物は少女を殴りつけました。躊躇なくこんなあどけない少女を攻撃するなんて、どういう神経してるんですか。さすがにむかっ腹がたちましたが、目鼻のない顔でにらまれると、途端に怯んでしまいます。

 しかし、殴られたにも関わらず、少女は素知らぬ顔をしていました。痛がるでも、喚くでもない。もはや、化け物に殴られたのが嘘みたいな反応でした。

 そんな態度に、逆に化け物の方がたじろぎます。

「邪魔しちゃダメ」

 それだけ言うと、化け物の胸に拳を放ちました。緩慢な動作で打ち込まれたそれは、化け物をいとも簡単にひざまずかせたのです。私が受けたとしても「痛くない」と主張できそうなパンチで、あんな化け物を呻かせるなんて。

「できれば、穏便に済ませたい。でも、この人間を襲うならやむを得ない」

 淡々と告げてはいるものの、そこには多大なる毒が含まれていることは容易に察せられました。あの化け物もそれに気が付いたのか、口惜しそうにのっそりと去っていきます。


 いきなりこの世のものとは思えない化け物が襲ってくるなんて、もはや、ここが地球上に存在する世界と認定する方が難しくなってきました。彼女の言う通り、ここは異世界なのかもしれません。

「助けてくれてありがとうございます。でも、ここって本当に異世界なのですか」

「あなたが住んでいた世界を基準にするならそうなる。ここは、異人こととびとの住まう異の世界こととのせかい

「こととびとに、こととのせかい? えっと、なんですか、それは」

 そこから聞いた話は、翼君たちがよく知っているであろう話でした。人間への反逆を目論む異人たちは、自分たちの仲間を増やすために、細胞注射という力を使い、人知れず人間を襲っている。どうやら、私は、完全なる異人へと仕立て上げられるために、異の世界へと拉致されたようでした。


 ともかく、この少女がいなかったら、今頃私は、得体のしれない化け物になっていたかもしれません。どちらにせよ、ここに長居は無用みたいです。

「助けてもらって早々、こんなことを聞くのも厚かましいのですが、ここから元の世界に戻る方法を知りませんか」

「元の世界って、人間の世界」

 少女は首を傾げます。

「そうです。あの化け物が異世界へと私を連れ去ったのなら、逆に元の世界に戻る方法もあるはずです」

「帰りたいのなら、帰れる」

 かなりあっさりと懸念は解決されました。逆に、うまくいきすぎて怖いぐらいです。


「でも、あなたに頼みがある」

「頼みですか。私にできることなら協力しますよ」

 見返りもなく帰ることができる。なんて、虫のいい話はないみたいです。無茶振りされるかもしれませんが、化け物にされるよりか数倍まともな依頼なはずです。うん、たぶん。

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