第66話 セパレート殲滅と戦う意思
仕事の都合で久しぶりの更新です。
所有している能力からして、対多人数戦で有利となるのは冬子と聖奈だった。冬子はさっき言った通りだが、聖奈もまた、尻尾を伸ばして薙ぎ払うだけで、大多数の個体に一度に攻撃できる。とはいえ、相手は意外とタフらしく、ボブの強化されたパンチぐらいのダメージを与えないと消滅しないようだ。広範囲に攻撃を当てようと威力を分散させているためか、思うように数を減らせていないみたいである。とはいえ、撃破した時は一気に数体のカウントが入っているが。
各個撃破していくしかない男性陣の中でも、ほぼ一撃で相手を倒せるボブと渡はまだいい。この戦闘で最も不利なのは、認めたくはないが、この俺だ。効率よく倒すとしたら、1体を空へと連れ去り、そいつを地上の個体にぶつけ、一気に2体以上の数を稼ぐ方法だ。しかし、着地して、次の個体を捕獲しようとしている間に、別の個体にひっぱたかれたりして、なかなかうまくいかない。
どうにか7体目を撃破したところで、渡から声が上がった。
「どうや、翼。わいはもう9体も倒したで」
まずいな。このままのペースなら渡に引導を渡すことになる。焦って捕獲しようとするが、やつらは俺の手をすり抜けるばかり。俺はほぞを噛み、ただ我武者羅に追いかけた。
このまま渡が勝利するかに思えたが、彼の方に予想外の変化が訪れた。順調にセパレートを噛み砕いていったのだが、そのペースが目に見えて遅くなってきている。傍目から見るや、かなり辛そうな表情をしている。ついには、セパレートから離れて片膝をついてしまった。
偶然その場に合流した聖奈が心配そうに声をかけた。
「おい、あんた大丈夫か」
「ああ、心外や。この局面で、酔いがぶり返してきおった」
ボブの無謀運転が悪影響を及ぼしてしまったらしい。戦犯である当人は、素知らぬ顔でセパレートを叩き潰している。今度から運転は所長さんに頼もう。
ようやくノルマまであと5体といったところか。俺は息を整えるため、一旦セパレートの集団から距離を置く。いつ逆襲されても対応できるよう、ファイティングポーズは崩さない。
しかし、ここにきて、俺は妙なことに気が付いた。そういえば、こいつらアブノーマルの形態で出現してからというものの、こちらに能動的に攻撃する素振りを見せていない。分裂する前は、ボブによって一気に倒されてしまっているが。
それでも、分裂後は、最初にこちらに接近してからは、どちらかというと逃げの姿勢に徹底しているような印象だ。攻撃するとしたら、俺が一個体を抱え上げようとしたときぐらい。実際、こうして離れて牽制している間、やつらは進行する素振りを見せない。
まさか、能動的に戦う意思がないとか。そんな思い付きに至ったのは、放課後に瞳より聞かされたあの言葉が原因だった。
「人間と共存を目指す異人がいる」
ひょっとして、この異人がそうなのか。しかし、直接聞かされたみたいなことを話していたから、その相手は会話能力を有する最上位種ということになる。いや、こいつらは、その最上位種の仲間なのでは。
なぜか、足が動かない。まだ痺れが残っているのか。幾分は楽になったはずなのに。どうして。
「あんた、ボケっとしてるんじゃないわよ」
俺が我に返ったのは冬子の叱責だった。目前のセパレートが氷漬けにされていく。俺のそばを通り過ぎた彼女は、ただただ倒すべき相手のみを見据えていた。
冬子の攻撃を機に、セパレートは方々に逃走していく。俺は頬を叩いて、冬子に続いてその群れを追いかけていく。
工場の一面を支配していたセパレートの群れも、いつの間にか残り数体にまで減少していた。そいつらにも最期が訪れようとしている。
冬子が炎をぶつけたのを合図に、聖奈の尻尾が別固体を頭から叩き付ける。それから少し遅れ、渡の噛みつきとボブのパンチが炸裂する。そして、俺が空中に連れ去っていたやつを墜落させ、フィニッシュとなった。
結局、戦績はこうなった。
俺:18体
渡:18体
ボブ:20体
聖奈:23体
冬子:27体
「あなたたち、喧嘩していたわりには仲良く最下位じゃない」
冬子に辛辣に蔑まれ、二の句も告げなかった。
「くっそう、車に酔ってなかったら負けへんかったのに。おい、翼。勝負は次の機会にお預けや」
渡は喚きながら地団太を踏んでいる。俺もまた引き分けに終わったことが癪だが、それよりもあの異人のことが気がかりだった。俺の気のせいかもしれないが、あいつらはあまり戦う意思がなかったような。考えすぎと言われればそれまでかもしれないが、俺の頭の片隅にもやもやとしたしこりを残していた。
異人は退治できたものの、まだ試練は続いていた。その1つ目は、またもボブの運転する車に乗らなくてはならないこと。渡なんかは「トラウマになりそうや」なんて嘆いていた。
日の落ちた街道を暴走するバン。さすがにそろそろ吐きそうになるかと思いきや、案外すんなりと体が慣れてきていた。いつも空を飛び回っているおかげで、三半規管が鍛えられているのだろうか。対して、渡は完全にノックダウンしていた。
その車内、平然としている女性陣に、俺はふと思いついたことを訊ねてみた。
「そういえば、あのセパレートってやつに細胞注射されたらどうなるのかな」
「さあね。爆発して体が分裂するんじゃない。で、元に戻れなくなるとか」
さらっと怖いこと言うなよ。しかも、あり得そうな話である。
「冬子はん、堪忍や。気分悪くなる話せんといてーな」
渡は三半規管のみならず、精神にもダメージを受けたようだ。
なんとか無事に事務所まで帰還(約1名重症)したものの、この日の俺の最大の敵はむしろこの後に待ち構えていた。そう、「勉強会にしては遅すぎる」という母さんの叱責だ。帰った時に九時近くになっていたから当たり前だろう。こういう時、高校生ってつらいよ。
問題:セパレートは合計何体に分裂した?