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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第2章 牙城渡
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第65話 異人上位種「分裂~セパレート~」

「なあ、なんや知らんが、あいつ大きくなってないか」

 唐突にとんでもないことを言い出すな。そんなわけないだろう。

 いや、大きい。アブノーマルの体が、どんどん膨らんできているのだ。ボブの腕が肥大化した時の比ではない。腕に限らず、脚、胴体、頭部とあらゆる部位が巨大化していく。

 その中でも胴体の肥大化が著しい。かつて、絵本で牛とカエルの話を読んだことがある。カエルが牛よりも大きくなろうと空気を吸い込み、最期は破裂するって話だ。今のアブノーマルはそのカエルにそっくりだった。

「おいおい、あいつ自爆する気じゃないだろうな」

 聖奈が縁起でもないことを言い出した。そうだとしたら相当まずい。RPGとかにおいて自爆は、自分のHPを犠牲にして大ダメージを与える技だったはず。それを実行しているのなら、ここにいる全員が危ない。

「炎をぶつけてどうにかできないかしら」

「余計に爆発を誘発するからやめろ。とにかく、逃げるんだ」

 俺が鶴の一声になったらしく、一同そろって出口へ殺到した。だが、俺たちの二倍ほどの大きさまで膨れ上がってしまった今、無駄なあがきにしかならなかった。


 アブノーマルが爆発し、爆風が吹き荒れる。


 たまらず、とっさに身を屈める。女性陣からにらまれたが、その理由はなんとなく察せられた。

 聖奈は言わずもがなだが、冬子もまた学校の制服のままここに来ているので、下半身を覆っているものはスカートであった。それを穿いた状態で強風を浴びたらどうなるかは明白である。

「あんたら、見てないでしょうね」

 爆風が収まった後、聖奈から詰問されたが、全力で首を振った。彼女にとって、スカートの中身は絶対に知られたくない秘密である。女性なら誰しもそうだろうが、彼女の場合は特にそれが顕著だ。飛び蹴りをくらった時に目撃してしまった俺が言うのだから間違いはない。


 それにしても妙だ。俺たち全員は確実に自爆攻撃を受けたはず。それにも関わらず、耳鳴りがするだけで、ほとんど無傷であった。イタチの最後っ屁の方がよほど威力が高そうである。

「なんやあいつ、はったりやったんか。驚いて損し……」

 なぜか渡が途中で絶句した。その訳はすぐに判明した。


 俺たちの眼前に広がっていたのは、一面を覆い尽くす大量の小型異人だったのだ。


 一個体の大きさは新生児よりも小さいぐらいだろうか。小人と称せば可愛らしいが、あくまでも形相はマネキン人形である。それも、その数はざっと百体近くはいる。それほどの数のマネキンが一堂に会していると、正直気持ち悪い。

「どないなっとんねん、これ。アブノーマルが増えるなんて、聞いてないで」

「アンビリーバボーです」

「これがあいつの力ってわけね。私の予感は間違ってなかったわ」

 そこは、胸を張る場面ではない。そして、前から言っているが、張るほど胸はない。

「あいつは名づけるなら分裂セパレートってところかしら。アブノーマルは仮の姿で、ピンチになると体を破裂させて、無数に増殖するみたいね」

 解説ありがとうございます。しかし、ピンチには変わりない。小さくなった分、個々の戦闘能力は落ちているだろうが、集団で一気に攻められたら、単体の異人を相手にしているよりもはるかに厄介だ。孫悟空が似たような技を使っていたが、彼と対峙した妖怪の気分が分かった気がした。


 アブノーマル改めセパレートは、ゆっくりとこちらに押し寄せてくる。

「さすがにこいつらをまとめて焼き尽くすのは骨が折れるわ」

「いやいや、ここは俺たちみんなで戦うべきだろう」

「今回は翼の意見の賛成だな。ざっと見たところ100体ぐらいいるから、1人あたり20体を倒せばいいってことだ」

「面白いやないか。おい、翼。せっかくやから、さっきの勝負の続きといこうぜ。わいとあんさん、どっちが多くこいつらを倒せるか勝負や」

 どさくさに紛れて、渡がとんでもない提案をしてきた。それだと、俺の方が不利だろ。さっきの戦いのせいで、まだ腕とか足が痺れているし。

「どうや、怖気づいて逃げるんなら、構へん。そん時は、泣いて土下座してもらおうかな」

 そんな挑発をされたのなら、黙っている義理はない。

「上等だ。こんなやつら、さっさと片付けてやる」

「あのな、お前ら。これは遊びじゃないんだぞ」

 にらみ合っている俺と渡を聖奈が呆れ顔で仲裁する。


 俺たちが物騒な喧嘩を打診している間にも、セパレートはこちらに到達しようとしていた。それにいち早く反応したのは冬子だった。彼女の足に手を伸ばそうとしていた個体を炎で焼き払った。

「さっそく私が1体目よ。競争する気なら、私とて本気でいかせてもらう」

 強引に参加しているのだが。正直、火の玉や氷の玉で遠距離広範囲攻撃ができる彼女が圧勝するとしか思えない。

 俺が冬子に気を取られていると、渡は近くにいたセパレートを掴み上げると、その肩に噛みついた。セパレートは悲鳴を上げたが、やがてその体は霧となって消えていく。

「ふぉやふぉやしふぉると、ふぁいがふぁつふぇ。ふぉりゃ、ふぃっふぁいふぇや【ぼやぼやしとると、わいが勝つで。ほな、1体目や】」

 ぐずぐずしていると、泣き土下座の憂き目にあいかねない。俺は上着を脱ぎ捨てると翼を広げて、やつらへと突っ込んでいった。

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