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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第2章 牙城渡
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第63話 ボブの暴走

「ここまでよ」

 冬子が突然声を上げた。それにより、ようやく俺は牙から解放される。俺も首を傾げながら着地し、翼をしまう。

「冬子はん、あんまりやで。こっから、わいのかっこいいとこ見せたろ思ったのに」

 牙をしまった渡は文句を言うが、冬子は介せず天を見上げている。足をさすりつつ、俺はネットに寄りかかる。


「あんたらがお楽しみのところ悪いけど、異人の気配よ。それも、ここの近くみたい」

「なんやて。そんなら、こんなとこで喧嘩しとる場合やない」

 いきりたち、渡はリングから飛び降りた。俺も、脚をかばって、翼を使ってリングから降り立った。

「それで、一体どのあたりなんだ」

 上着を羽織りつつ訊ねる。

「おそらく、この牧野台市内。車を使えばすぐに行けそうね」

「ほなら、すぐに行こまい」

「待って。できれば、多人数で行った方がいいかもしれない。軽微だけど、並々ならぬ数の気配がある」

「もしかして、アブノーマルが大量に出たとか」

 少し前にも、アブノーマル10体とご対面したことがある。あの時は、聖奈が一網打尽にしていたけど。

 そんな類の敵が出現したとしたら、大人数で一気に殲滅した方が手っ取り早い。この中で異人と戦えるのは、俺を含めると4人か。


「それなら、ワタシが車をドライブします」

「それはいいかもしれないな。冬子の話が本当なら、戦力はできるだけ多い方がいい」

 ボブの提案に、聖奈も賛同する。ボブはサムズアップすると、さっそく自家用車の準備にかかる。俺たちも、それに追随していく。


 マンションの駐車場に停めてあったボブの自家用車は大型のバンだった。留守番を申し出た所長を除いた俺たち5人を乗せても、十分空間にお釣りが出る。

「忠告しておくけど、きちんとシートベルトは締めた方がいいわよ」

 助手席の冬子が、小学生でも承知している忠告をする。そんなこと、言われるまでもないのに。

 しかし、車窓から所長を見送った直後、冬子の言葉の真の意味を実感することになった。


 数回ぐらいしか体験していないが、所長の運転は、自動車教習所の模範になりそうなぐらい丁寧であった。冬子から「もっとスピード出ないの」と急かされていたぐらいだ。

 対して、ボブの運転は、所長を極端に真逆にしたものといったところだろう。

 出発直後、アクセル全開。明らかに制限速度を超過したまま、国道へと突っ込んでいく。更に、ろくに減速しないままカーブを曲がるもんだから、その度に振り落されそうになる。シートベルトを締めていても、負傷した手足に響くのだ。遠心力で放り投げだされないよな。


「ミス冬子。異人はどの辺りデスか」

「この先の工場が怪しいわね」

 危険すぎる運転の最中、冬子は平然とスマホで道案内している。

「こんな運転で、冬子はよく平気だよな」

「慣れてるからじゃない。私は初めて乗った時、吐きそうになったけど」

 そうだろうな。実際問題、渡が窓によりかかってぐったりしている。聖奈を間に挟んでいなかったら、もっとひどいことになっていただろう。


 警察に発見されたら確実に切符を切られる危険運転で、あっという間に問題の工場へと到着した。ここまで無傷なのは冬子とボブ。軽傷なのは聖奈。そして、瀕死状態の俺と渡が残った。

 牧野台の外れにある廃工場。冬子の話だと、数年前に廃業してから、そのままの状態で放置されており、今や中は荒れ放題になっているらしい。周囲を背の高い雑草が覆っていることからも、それは推測できる。


 工場の入り口に立つと、例の悪寒が体中を駆け巡った。どうやら、この中にいるのは間違いないようだ。

 しかし、工場の入り口は封鎖されており、ピッキングでもしない限り開けられそうにない。廃業したわりに、ご丁寧に南京錠がついているもんな。それさえなければ、なんとか手動でシャッターを開けられそうなのに。

ふと思ったが、明らかに密閉された空間に出現するなんて、今回のアブノーマルは意外と間抜けのようだ。このまま放置しておいても実害はないかもしれないが、それは主に冬子が許さないだろう。

「で、どうするんや、この鍵。わい、ピッキングの方法なんて知らんで」

「っていうか、ピッキングを知っている方がおかしいわよ」

 聖奈の指摘は尤もだ。でも、ダメもとでできないかと、俺は針金を探してみる。工場だから落ちていると思ったが、意外と見当たらないものだ。

 辺りは次第に暗くなっていく。このまま手をこまねいていても、無駄に時間を浪費するだけだ。そうなると、帰宅した時が恐ろしいことになる。


「こうなれば仕方ありませーん」

 ボブが扉の前に進み出た。解決策があるのか。一同は期待の視線を送る。


 ボブは南京錠を右手で握りしめた。いや、それは無理だろ。これから彼がやりそうなことは、容易に想像できるが、いくらプロレスラーでも、それは無謀というものだ。

 なんてあきれていたが、ボブは大声で気合を入れた。


 すると、音を立てて南京錠が粉砕された。


「開きました」

 じゃねーよ! この人、何やってんだよ!

 ピッキングして開けても、まあ、上等だと褒めてやろうかと思ったのに、ぶっ壊すなんて予想外もいいところだ。それも、片手の握力のみだぞ。

 俺と同じく口を開けたままの渡をよそに、冬子と聖奈は平然としていた。そして、ボブは問答無用でシャッターを開けて中へと踏み込んでいった。

良い子はボブさんのマネをしちゃいけません。

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