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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第2章 牙城渡
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第61話 申し込まれた決闘

「と、冬子はんと同じ高校やって」

「同じ高校っていうか、クラスメイトだけどな」

「ウソやろ、冗談も大概にしいや」

 語尾を荒げている意味が分からない。冬子と同じクラスだからって、この大学生に支障があるわけがない。

「冗談もクソも、同じクラスだってのは事実よ」

 冬子も追い打ちをかける。渡はなぜだか体を震わせている。

「な……」

「な?」

「な、な、ななななな」


「なんつー羨ましいことしてくれとんねん!!」

 マスク越しだというのに、耳をつんざくような絶叫をあげた。しかも、その勢いで俺に迫ってきた。

「一緒のクラスっつーことは、冬子はんと同じ空気吸っとるってことやろ。なんつーことしてくれとんねん、われ」

「そ、それは生理現象だから仕方ないと思いますが」

 冬子と一緒の空気を吸ってはいけないなら、窒息して死ねってことか。

「ま、まさか、冬子はんのことを好きとかほざいとるんやないやろな」

「そんなわけあるか!!」

 俺と冬子は合唱した。顔を見つめあい、慌ててそっぽを向く。そんな素振りに、渡は地団太を踏んで喚きだした。


「今の、絶対阿吽の呼吸やろ。あんさんら、どこまで進んどるんや」

「だから、違うって言ってるでしょ」

 冬子が力説したためか、渡は一瞬口をつむぐ。だが、俺を睨らみつけるや、再び騒ぎ出す。

「だいたい、あんさん、能力者としてどうなんや。どうせ、ちんちくりんな能力しかもってへんやろ。そんで、冬子はんと一緒にいようなんて、おこがましいで」

「ちょっと待て。ちんちくりんな能力は失礼だろ」

 空を飛べるだけの陳腐な力ではあるが、表立ってけなされては黙っているわけにはいかない。俺は腕まくりして立ち上がった。

「なんや、やる気か。言っておくが、あんさんよりはキャリアがあると自負しとる。怪我せんうちに、土下座でもしといた方がええんちゃうか」

「ふざけるな。土下座するのはどっちか思い知らせてやる」

 お互いに鼻息荒く、火花を飛ばしあう。これがアニメなら、龍と虎のオーラがぶつかり合っているところだ。


「ああ、もう、暑苦しいからこんなところで喧嘩しないでよ」

 シャツの襟もとを広げながら、聖奈が愚痴をこぼす。そこから谷間が見え隠れしているのだが、それに着目している余裕はなかった。

「元気いっぱいで、さすがは男の子ですね」

「所長、感心している場合じゃないわよ」

「ごめん、ごめん。翼君に渡君。せっかくだから、あいさつ代わりに、二人で手合せしてはどうですか。今日はあそこでの練習が休みのはずですから、リングが借りられると思いますし」

「リング? 貞子がどないしたんや。ツ〇ヤにでも行く気か」

 そっちのリングではない。見たければ勝手に見ていてください。一度経験のある俺は、所長が意図していることを一瞬で理解した。


 さっそく交渉へと所長は出かけていった。未だ不可解な表情を浮かべている渡に、聖奈が説明する。

「えっと、渡だっけ。このマンションの地下に、思い切り暴れることのできるとっておきの施設があるんだ」

「なんや、それ」

「行ってみれば分かる。そこで、翼と決着をつければいいだろ」

「よう分からんが、まあ、こいつと戦えるならどこでもええわ」

 首を傾げてはいるものの、素直に俺たちに同行することになった。


 俺にとっても数か月ぶりの来訪となる。エレベーターで地下まで下った先に存在するプロレスリング。牧野台プロレスジムだ。アメリカから来日したボブさんが経営しているプロレスジムで、俺が能力を手に入れたばかりのころ、ここで聖奈と模擬戦を行ったことがある。

「なるほど、こんなもんがあったとはな。これなら、思う存分戦えるやん」

 ジムへと足を踏み入れた途端、渡が感嘆の声をもらした。すでに、所長はボブと話をつけたようで、リングのそばで待機していた。


「ヘイ、ユーが渡ですか。ワイルドボーイですね」

「せやろ。わいのセンスが分かるとは、あんさんさすがやで」

 なぜか、一瞬で仲良くなって握手をかわしている。隆起した筋肉をむき出しにしているスキンヘッズのボブ。彼もまた、野性味あふれるという形容詞がしっくりくる男ではあった。

「さて、翼。さっさとリングにあがりーや。決着つけたるで」

 図々しく、すでに渡はリングインしている。彼の辞書に遠慮という文字はないらしい。


 固辞する理由などないので、俺もまたリングに上がる。集中的にスポットライトを当てられているせいでまぶしい。そんな中、渡は不敵な笑みで仁王立ちしていた。

 俺は顔を叩くと、制服の上着を脱ぎ捨て上半身裸になった。

「ずいぶんやる気みたいやけど、貧相な体しとるな」

「帰宅部だから仕方ないだろ」

「そんなんで、冬子はんと一緒にいようなんて、ちゃんちゃらおかしいぜ」

「笑えるのは今のうちだ」

 背中に貼りつけてある冷却シートを剥がす。抑圧されていた二対の翼が解放され、神々しいまでの姿を顕現する。これには、渡も嘆息をもらした。


「そいつがあんさんの能力か。もっと大層なもんを期待したが、これなら楽勝やな。じゃあ、こっちも能力を見せたる」

 来るか。俺は身構え、渡の動向を探る。

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