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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第1章 伊勢瞳
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第55話 瞳の能力

 体育館は、まだ部活のために機材を準備しているところで、人の入りはまばらだ。まだ部室で着替え中といったところだが、あと少ししたら、その連中もこちらにやってくるだろう。なんにせよ、秘め事を打ち明けたいのなら、騒がしくなる前に済ませたいはず。

 体育館の外壁に沿って、出入り口が設置されていない裏口へと回る。清掃が疎かになっているのか、この辺りだけは、伸び放題になっている雑草が目立つ。それをふみ荒らしつつ進むと、案の定彼女が待ち受けていた。


 ツインテールで伏し目がちなクラスメイト、伊勢瞳。大人しい印象のある彼女にしては、ずいぶんと大胆な言動ではあった。

「こんなところに呼び出して、何の用だ」

 とりあえず、定型句で切り出してみる。大方、体育館裏への呼び出しとくれば、相場は決まっている。陰湿な場合は、集団リンチによるいじめや、不良同士の決闘。そうでない場合は……。


 しばらくお互いに視線を合わせられずにいた。そんな中、瞳はもじもじと手をさすりながら口を開く。

「あ、あの。もし、期待させていたら、ごめんなさい。東雲君を呼び出したのは、えっと、なんていうのかな、ああいった意味じゃなくて」

 目を泳がせて、しどろもどろに弁明する。ああいった意味じゃないって、まさか、陰湿な場合を適用しようってわけじゃないよな。冬子ならまだしも、目の前の彼女に恨まれる覚えがないぞ。


 そして、意を決したのか、瞳はとんでもないことを口走る。

「えっと、異人って知ってます、よね」

「あ、うん」

 間抜けな返事をしてしまった。えっと、聞き間違いではないよな。でも、瞳は確実に「異人こととびと」という単語を発していた。

「あの、異人いじんではなくて、異人こととびとの方ですけど、本当に知ってますよね」

 さっきよりも強い口調で確認してきた。それはこちらのセリフである。どうにも納得がいかない。彼女もまた、ブラッドみたいに人間の化けの皮を被っているなら、とっくの昔に気配で感づいているはずだ。だが、教室にいる間は一切そんな感じはしなかった。そもそも、そうだとしたら、異人を激しく憎んでいる冬子によって、既に始末されていてもおかしくない。


 俺もまた、確認のために質問で返す。

「もしかすると、伊勢さんも、異人のことを知っているのか」

 己の発した質問に肯定されたと解釈したのか、瞳は素直に首肯した。

「同じクラスの夏木さんからは、私と同質の気配がしたので、異人に関わってるなと思っていたんです。でも、ここ最近、それとは別の気配を感じ取ったから、不思議に思ってずっと探っていました。そして、ようやく、それは東雲君じゃないかと見当がついたんです」

「確かに俺は異人の能力を持っているが、ずっと異人の気配なんて感じなかったぞ。冬子に対してだって、異人を前にした時の気配は感じないし」

 「冬子」と口にしたときに眉が動いたが、瞳はあくまで平然を装って続けた。

「おそらく、個人差みたいなものかもしれませんが、私は人一倍異人に対する気配を感じ取れるようです。この前も、大体1キロ以上先から異人の気配を感じることができましたし」

 俺が感じ取ることができる範囲のおおよそ4倍以上だ。この厄介な翼の制御といい、異人の能力の発現には個人差があるらしい。


「それで、異人のことを知っているとして、伊勢さんも何かしらの能力を持っているのか」

「は、はい。ちょっと恥ずかしいですけど」

 瞳は、やけに長い前髪をかき分けた。顕わになった額には、白いガーゼが貼られていた。もしかして、その怪我を隠すために前髪を伸ばしていたのか。

 しかし、ゆっくりとはがされたガーゼによって隠匿されていたのは、怪我なんて生易しいものではなかった。


 ギョロリと覗く眼光。かわいらしい顔立ちには不釣り合いの、グロテスクな光景であった。

 それは、第三の目というべきか。額にあったのは、紛れもなく人間の目玉だったのだ。


 手塚治虫のキャラクターにこんなのがいたのは覚えているが、現実に対面したのはこれが初めてだ。いや、現実に生きている人間で、こんな器官を有している人物と対面したのは、俺が初めてかもしれない。

「あ、あまりじっと見つめないでください」

 知らずに凝視してしまっていたため、俺は視線をずらす。しかし、本来存在している双眸に連動しているこの付属品は、どうにも気になって仕方がない。

「もしかして、この目は異人に細胞注射されてできたもの」

「そうです。名づけるなら『瞳孔~アイ~』でしょうか。この力を持ってからというもの、自分でも信じられないくらい遠くまで見通せるようになったのです。

 前に、どれくらい見ることができるか試したのですが、清川駅にいながら、あの路線の終点の千木駅の様子を探ることができました」

 清川から千木だと、15駅離れているはずだ。それって、マサイ族もびっくりってレベルじゃないぞ。


「それと、その気になれば透視だってできるみたいです」

 それを耳にして、俺は大切な部分を手で覆い隠した。

「そ、そんなところなんて、見たりしません」

 瞳は慌てて弁明する。彼女がそんなことはしないというのは予想がつくが、反応がいちいち可愛らしい。篠原の気持ちが少し分かった気がする。

「千里眼に透視だなんて、まるでエスパーみたいじゃん」

「あ、でも、本当にそれだけですよ。前より体力は上がったかもしれませんけど」

 俺と同じく、一見すると戦闘においては役に立たなそうな能力ってことか。俺の場合は、冬子を空へと運んだりと、意外と活躍しているみたいだが。

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