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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第2部 相反~コントラリー~ 第1章 伊勢瞳
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第54話 墓石破壊師

 もちろん、この授業は様々な疑念が渦巻き、英文解釈どころではなかった。指名されていたら悲惨なことになっていたのは間違いなしだ。

 なんとか一日の授業を終え、ホームルームも滞りなく終了する。そして、もはやお決まりとなった俺と篠原の談話が始まる。

「今までノーマークだったけど、伊勢さんもなかなかいい子だよな。もっと主張すれば人気出ると思うのに」

 篠原は彼女にご執心のようだ。そんな彼女からあんなことをされそうになっているとは、申し訳なさ過ぎて口が裂けても言えない。

「それに引き換え、あの夏木冬子は相変わらずだぜ。あんなのを好きになるやつなんているのか」

「ど、どうだろうな」

 どもってしまったのはなぜだろう。無性に、篠原に冬子の眼鏡をとった姿を見せてやりたい。伊勢さんに対するもやもやとは全く別物の、けれどもほとんど同質のもやもやが俺の胸の中で渦巻いている。

「お前も、あいつと必要以上に関わらない方がいいぜ。あの変な眼鏡の存在は、全校レベルで知れ渡りつつあるみたいだからな」

「そうなのか」

「部活やってないお前は知らないだろうが、他のクラスでも話題になっているみたいだぞ」

 あんな眼鏡をかけていれば、そうなるのは自明か。


「変な眼鏡のことはさておき、またもや怪奇現象が起きてるって知ってるか」

「怪奇現象って、迷惑花火野郎のことじゃないよな」

 俺が初めて異人と出会った時、冬子は例の「エネルギー・ビッグバン(俺が勝手に命名)」によって派手にアブノーマルを爆撃した。その余波で響いた轟音が噂になり、「迷惑花火野郎」という謎の存在が独り歩きしているのだ。

「そいつもいたな。まだ捕まってないみたいだけど。でも、今度のはガチの犯罪者くさいぜ。聞いて驚くなよ」

 篠原は一拍置いて、突拍子もないことを口走った。

「墓石破壊師が出たんだ」


 えっと、ダジャレですか。

「はかいしはかいしって、ふざけたネーミングだな」

「俺もそう思ったんだが、あの所業からすると、こう命名するしかない。だってよ、墓石にひびを入れた不届き者なんだぜ。

 しかも、そいつが出た場所っていうのが、俺が住んでいる美丘の霊園なんだ。俺の近所のおばちゃんなんか、日がなその話題で井戸端会議してるぜ」

「へ、へぇ。また変なのが出たのか」

 口ではそう言ったが、これは明らかに身に覚えがあった。


 墓石破壊師。そいつの正体を端的に言うなら、ブラッドってやつのせいなんだ。俺たちも関与しているけど、主犯格はあいつってことにしておこう。

 人間に限りなく近い姿をした異人最上位種ブラッド。やつと霊園で戦った時、その余波で墓石にヒビを入れてしまったらしい。そのうち一基は、墓標の一部が欠けていた。冬子の話によると、「ブラッドが私を串刺しにしようと、血のサーベルで傷つけた跡」だそうだ。

 さすがにこれには、器物損壊事件として警察の調査が入り、新聞の地域面にも小さく記事が掲載された。

 しかし、これといった手掛かりが見つからず、捜査は迷宮入りしているらしい。それもそのはずだ。主犯格は「異の世界」という異世界に送還されており、凶器もそいつの血液だからだ。

 俺や冬子も被疑者になりうるのだが、探偵である所長さんがうまく立ち回ってくれているみたいだ。他人の携帯のGPSをジャックできるのだから、平気な顔して情報操作をやってのけていそうだ。


「そういえば、前に夏木冬子を探していたみたいだが、あいつと何かあったのか」

「あ、いや、別に。えっと、あれは、そう。落とし物があったから渡そうと思っただけだ」

 苦し紛れについた嘘だったが、篠原は特に疑う様子もなかった。実際、冬子の落とし物を渡そうとしたこともあったしな。


「篠原、そろそろ行かないと部長に怒られるぜ」

「悪い、木村。すぐに行く。じゃあ、時間だからまた明日な」

 そう言い残し、篠原は部活へと出かけて行った。それにしても、この街の怪奇現象は増加の一途をたどるばかりだ。先ほどの「墓石破壊師」のほかにも「ビルから謎の青い噴水が出た」という噂もある。それもまた、ブラッドってやつのせいなんだ。おそらく、あの廃ビルで使った血流ビームのことであろう。


 篠原の姿が消えたところで、俺もまた同方向へと歩む。もちろん、彼女との約束のためだ。

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