第51話 第1部エピローグ
本日2回目の更新なので、ブクマから読んでいる人はご注意。
ここはどこだ。右手がふんわりとした感触の何かに触れる。そもそも、霊園の地面に横たわっているにしては、全身が弾力に包まれている。地面って、こんなにも反発があったか。
頭痛がひどいが、薄目を開ける。それで、ここが霊園ではないということははっきりと分かった。そもそも、室外ですらなかった。青空教室を開いているんじゃあるまいし、屋外に机なんてあるわけないだろう。それも、学校の教室にあるような机ではなく、事務所の来客室に設置されているような、ご立派な代物だ。
いつの間にか、俺は上着を羽織らされていた。戦闘中は上半身裸であったはずだ。おそらく、ここまで運んできた人が、裸のまま移動させるのはまずいってことで、着せてくれたのだろう。そういう親切を施してくれそうな人は大方見当がつく。
それにより、ここがどこかも想像がついた。奇しくも、あの時と似たような状況に置かれているわけだ。そう、俺がウィングに襲われ、異人の能力を植え付けられたあの時と。
俺が受けている傷は、あの時とは比較にならないが、気を失って事務所まで運ばれるという流れは、まさしくあの時と同じだ。時間が巻き戻ったわけはないよな。異空間移動を経験している以上、時間旅行をしていたなんて明かされても、さほど驚かない自信がある。
ふと、俺はある可能性を思いついた。あの時と酷似した状況下に置かれているなら、この先に起こる展開まで同じってことはないよな。いや、まさか、それはないだろう。あんなことがあったのだから、さすがに冬子も学習しているはずだ。うん、そうだ。
頭がぼんやりとするが、それでも上半身を起こす。うっすらと俺の視線が捉えた先。
そこでは、下着姿の夏木冬子が佇んでいた。
「またかよ」
唖然として見つめあう両者。何なの、このデジャブ。時間旅行してないよね。視線を逸らし、カレンダーを探す。6月。うん、時間は巻き戻っていない。
かなり気まずい沈黙が流れる。冬子は完全に固まっているようだ。いや、これは本当に時間旅行してないよな。だって、身に着けている下着の色まで、あの時と同じ白だぜ。
「えっと、冬子さん。なぜに、そんな恰好をしてらっしゃるのですか」
「あいつとの戦いで服がズタボロになったから着替えてるだけよ。それにしても、あんたも相当しぶといわね。今度こそ完全に息絶えたかと思って油断したわ」
だから、勝手に人を亡き者にするんじゃありません。そう簡単に死んでたまるかよ。でもまあ、冬子は相変わらずのようでよかった。
「っていうか」
破廉恥な姿のまま、般若の形相で迫ってくる。ど、どうした、何をする気だ。
「いつまで見てんのよ、この変態!!」
せっかく覚醒したのに、張り手をもろにくらって、また夢の世界に旅立つことになった。殺生すぎるだろ。
意識の混沌へと沈んでいく中、膨れ面の彼女がこんなことを呟いた気がした。
「助けてくれてありがと」
これもまた、俺の妄想かもしれない。でも、彼女を守るのに後悔はない。そんなことを考えつつ、俺はまた目を閉じるのであった。
ご愛読ありがとうございました。これにて、第1部が終了です。
次回から第2部に突入します。冬子と並ぶ、重要なヒロインが登場するので乞うご期待。
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