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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第1部 出会い~エンカウンター~ 第6章 ブラッドとの決戦
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第50話 ブラッドとの決着

今回は特別に、いつもより増量しています。

 作戦会議に痺れを切らしたブラッドが、血反吐の弾丸を連射する。二手に分かれてそれを回避したところで、ミッションスタートだ。

 まずは、お互いひたすら走って逃げる。両者別方向に逃げているせいで、ブラッドは目標を定められずにいる。出鱈目に爪で切り裂いたり、血反吐を吐き出したりする。こんな当てずっぽうなら、かわすのは楽勝だ。

 逃げ回っているように見せかけ、別の岩石の影で合流する。そこに集合したのを見破られ、すぐさま岩石が破壊される。だが、それはそれで構わない。この時に「あるもの」を冬子から受け取れば、作戦の第一段階が完了だ。


「こっちよ、ブラッド」

 俺がすぐさま岩石から離脱し、冬子はその場でブラッドに火の玉をぶつける。

「あんな戦う気もなく逃げ回っているやつを追いかけて楽しいわけ? それとも、あんな雑魚しか相手にできないのなら、あんたも大したことないわね」

 失礼すぎる挑発だが、なんとか目標は果たしたようだ。ブラッドは地上の冬子へと爪を振るう。俺とは別方向に冬子はダッシュする。


 火の玉で牽制しながらも、冬子にはある地点までブラッドを誘い出してもらう。俺は迂回しながらも、それとは別の地点まで飛空する。主に片翼しか使えないせいで、見当違いの方向に流されていってしまう。ただ、地上からあんなところに到達するには、これ以上の労力を要するはずだ。

 俺が目指しているのは、高さ数十メートルになろうかという岩壁の頂上。そして、ブラッドをおびき寄せたのは、その岩壁の真下だった。


 あと少しで頂上というところで、冬子が目的地に着いたようだ。そこで立ち止まった彼女を前に、ブラッドは「観念した」と判断したのだろうか。雄たけびをあげながら、体を大きく反らせる。すると、両腕が不自然に膨張した。手のひらの傷口から、こらえきれずに青色の血液がしたたり落ちている。

 この形態のブラッドもまたあの技を使うことができるとしたら、かなりのピンチだ。冬子を助けに行きたいが、それをやると自ら作戦をご破算にしてしまう。ここは、冬子を信じるしかない。


「あの技でも使うつもり。なら、私も最大火力で相手してあげる」

 そういうと、冬子は両手の親指を重ね合わせた。いつも片手で生成している火の玉が、両手によって生み出されようとしている。当然のことながら、その威力は単純計算で二倍といったところか。


 しかし、先手で技を発動していたブラッドに分があった。冬子が力を込め終るより先に、あの血流ビームが発射された。人間形態のブラッドと同じ技ではあるものの、心なしか威力が上がっているように感じる。やつが化け物になっているがゆえの先入観かもしれないが。


 なんとか頂上にたどり着いたものの、冬子のことが心配でならなかった。直撃を受けたら、作戦どころじゃない。

 だが、それは杞憂に終わりそうだった。正面から弾きかえすのは無理と判断した冬子は、岩壁を犠牲に、横跳びで逃れたのだ。すさまじい振動が俺を襲うが、どのみち、作戦の最終段階を実行するのは今しかない。俺はある一点を目指してダイブした。


 地面を蹴り、時間差で巨大な火の玉を投げつける冬子。ビーム発射後に硬直していたブラッドに難なく命中する。しかし、唸っただけで、致命傷には至らない。

 「それが全力かぁ」と詰るかのように、ブラッドは口角をあげる。が、全く同じ動作を冬子がお見舞いした。

「勘違いしてんじゃないわ。あの炎が私、いや、私たちの全力なわけないじゃない。あんたは、かの名言を知らないみたいね」

 冬子はブラッドの喉元を指差し、堂々と間違った名言を宣告した。


「炎がだめなら、氷を使えばいいじゃない」


 そう。俺のこの一撃こそが本命。あの岩壁から俺は「あるもの」を携えて飛び降りた。それは、冬子が作り出した氷のつらら。

 そして、俺が落下していっている先にあるのは、やつの心臓があるはずの胸元。気合の雄たけびを上げながら突撃していったため、ブラッドはさっと振り返る。それがむしろ吉と出た。


 俺の手にしたつららは、ブラッドの左胸を串刺しにし、そのまま縺れこむようにして、急速落下していった。


 冬子の全力の炎はあくまでカモフラージュ。本命は、岩壁から飛び降りた際の引力を味方につけた、俺の剣撃。やつがどんな化け物だろうと、直接心臓を傷つけられれば無事でいるはずがない。


「くたばれぇぇ!!」

 叫びながら、ブラッドを叩きつけるようにして、俺は地面へと撃墜した。


 砂埃が舞い上がる。どうなった。砂塵と激痛でまともに瞼を開けていられない。

「翼!」

 冬子が駆け寄ってくる。そんな足音がしただけだが、この状況下、俺へと接近するとしたら、冬子ぐらいだろう。

 俺は、砕け散ってわずかな破片しか残っていないつららを支えにし、ゆっくりと体を起こす。なんとか視界が回復してきた。うっすらとしか彼女を捉えられない。それでも、震える体で、俺はブイサインをしてみせる。

「バカ」

 なじりつつも、冬子は嬉しそうにほほ笑んだ。


「おめぇら、やりやがったな」

 横たわっていた悪魔がその身を痙攣させる。嘘だろ。俺は、冬子に肩を借りながら、そこから退く。

 つららの破片を左胸に残したまま、ブラッドが立ち上がった。胸を串刺しにされて無事って、まさに化け物だ。

「正直、こいつは効いたぜぇ。あと少し下にずれてたら、確実にお陀仏だったかもなぁ」

 どうやら、俺の一撃は心臓よりも上を突き刺していたらしい。こうなってしまったら、万策尽きたと認めるしかない。俺はもちろん、冬子にもまともに戦うことのできる力は残っていないだろう。これ以上、やつの攻撃を防ぐのはまず不可能だ。


 だが、そんな心配をする必要もないようだ。ブラッドは胸のつららを押さえると片膝をついた。

「畜生。なんだか、意識が朦朧としてきたぜぇ。力を使いすぎたせいか」

 血反吐を吐くが、硬化することなく、気色悪い青い液体がしたたり落ちるだけだった。やつの特殊能力が発動していない。もしかして、もう戦う力が残っていないってことか。


 それを証明するように、ブラッドはうつぶせに倒れた。刺突していたつららが砕け散る。やったのか。正直、フェイクじゃないかと心配になる。

 すると、冬子は無言のままブラッドまで歩を進め、やつの前でかかんだ。そして、非常にも顎を掴むと、無理やり顔を上げさせた。

「気絶するのは勝手だけど、あんたに聞いておきたいことがあるの。まだ、質問には答えられるわよね」

 冬子さん、それ、正義の味方がやることじゃないから。そもそも、そんなつもりで戦っていない彼女に、そんなことを説いても無駄ではあるが。

「おいおい、このまま眠らせてくれよぉ。すげぇ気分が悪いからよぉ、手短に頼むぜぇ」

 ブラッドも迷惑そうだった。そりゃそうだろう。


「なら、単刀直入に言うわ。私の両親を殺した金髪の男の異人。あいつは何者なの」

 金髪の男の異人。昨日、冬子が語った過去の話に出てきたあいつか。確かに、異人の中でもかなりの実力を誇るこいつであれば、その情報を握っているかもしれない。それに、言葉による意思疎通が可能という点で、やつの口を割らせたい。冬子の無茶振りはそういうことだろう。


 ブラッドの返答を固唾をのんで見守る。いくらなんでも、そう簡単に暴露しないだろう。そう悲観的になっていたのだが、

「そんなに知りたきゃ、教えてやってもいいぜぇ」

 あっさりと明かしてくれるようだ。


「おめぇの母親、ブリザードだっけなぁ、そいつを殺したのは、オレたちのあるじだぁ」

 主。ブラッドが幾度となく口にしていた存在。主というからには、やつらを統率している大ボス。RPGに例えるなら、最後に待ち構えるラスボスということか。

「はっきり言って、主の強さは異常だぁ。おめぇらが束になったところで、勝てるとは思えねぇ」

「その主とやらは、今どこに」

 その質問に答えられることはなかった。突然、俺たちの視界を白いもやが覆い隠したのだ。そして、あの超高速移動が待ち受ける。


 異人たちの世界へと強制的に送還された時と同じ感覚。それがまた発生しているということは、その逆が俺たちの身に降りかかっているということだろう。つまりは、人間の世界への帰還。

 どうして、急にそんなことが起こったか。ブラッドは、元の世界へ戻る条件として、こんなことを口にしていなかったか。


「もしくは、オレが気絶するかだぁ」


 冬子は口惜しそうな顔をしているだろうが、ともあれ、勝利をもぎ取ったことは間違いない。

 満身創痍の身に、物理法則無視の超高速移動は酷だ。元の霊園へと帰還した時には、足元がおぼつかなかった。

「冬子、翼」

 俺たち二人は仲好く、聖奈の方へと倒れこんだ。そこで、俺の意識は途切れていく。

本日中にもう1話更新する予定です。

次回更新分で、第1部が完結します。

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