第45話 聖奈VSアブノーマル10体
雑魚は任せろと啖呵を切ったものの、この数の異人を相手にするのは初めてだ。尻尾を出現させ、それをちらつかせながら威嚇する。
アブノーマルのうちの一体が飛びかかってきた。跳躍で私に喧嘩を売るなんて百年早い。尻尾をばねに、私も応戦する。
アブノーマルが落下に移行したところを、拳で迎撃する。それにより、上空へと打ち上げられる。更に、尻尾を伸ばし、やつの首に巻き付けた。空中で身をよじり、地上で佇んでいる個体へと投げつける。
隕石のごとく降下していくやつは、狙い通り自らの仲間と激突した。そして、巻き添えになった仲間と一緒に仲良く霧散する。一気に二体っと。
着地しようとする私を待ち構えているのか、アブノーマルの一体が手を伸ばす。空中で不安定なのを利用して引っ掴もうというのか。そうはさせるか、このスケベめ。
衝撃を弱めるために用意していた尻尾を、スケベな個体の頭部に叩き付ける。尻尾に落下の威力を逃がして着地しているので、この攻撃は一石二鳥というわけだ。これで三体目。
一気に三体も仲間を倒されて、さすがに動揺しているのだろう。「お前が行けよ」って、おもしろいダチョウさんのマネでもしているのか。そんなに躊躇しなくても、私の方から相手してやるよ。
グラビア界でいうところの雌豹のポーズをとり、尻尾を振り回す。逃げ遅れたやつがそれにより薙ぎ倒される。まだピクピクしてたんで、蹴り飛ばしてやった。あいつ、スカートの中は覗いてないよな。念のためスカートを押えておく。四体目っと。
えっと、後ろからなら私を倒せると思った? 残念。私のこの力は、むしろ背後からの襲撃に強いよのね。
不意打ちで攻撃しようとした卑怯者の顎を尻尾で弾く。そして、回し蹴りで追撃する。五体目。
ようやく半分か。額から流れる汗を拭う。蒸し暑いときに余計な運動させないでよね。汗臭くなりそうだから、帰ったらシャワー浴びないと。
しかし、そんな雑念を抱いていたのがまずかった。突然、後ろに体を引っ張られた。何事!?
単純な話だ。アブノーマルが私を羽交い絞めにしたのだ。背後から体を密着されては、尻尾の威力を十二分に発揮することができない。やつは気をよくしたのか、脇から差し入れている腕で、私の肩を締め付ける。しかもあんた、さりげなく横乳に触れてんじゃないわよ。
身動きが取れない私をタコ殴りにする気だろう。真正面から別の個体が迫ってくる。とはいえ、あんたら誤算を犯したね。上半身は封じられたかもしれないけど、肝心の部分は封じてないわよ。私の尻尾と並ぶ武器がね。
胸へとストレートを叩き込もうとしたやつを、私は逆に蹴り飛ばす。
それにしても、いつまで横乳触ってんの。そろそろお仕置きするわよ。拘束されつつも、股の間から密かに伸ばしていた尻尾を痴漢(そもそも、こいつはオスなの?)しているやつの後頭部に忍ばせる。そして、振り子の要領で、思い切り叩いた。
間抜けにも片手で叩かれた部分をさすったため、右手が自由になる。
「このドスケベがぁ!!」
やつの左手をつかみ、背負い投げをお見舞いした。「二ホンのジュード―はワンダホーです」と、最近柔道に興味を持ったボブさんから教えてもらったのだ。プロレスラーから総合格闘家へと転身するつもりかしら。
吹っ飛ばされた二体が同時に襲ってくる。私はバレリーナのように一回転する。その勢いで尻尾が突進してくるやつらを迎え撃った。正面衝突したやつらは、ふらふらとよろめく。そこを丁寧に足蹴りしてあげた。六体目と七体目ね。
人間だったらここまでされたらたじろぐだろうけど、やつらは懲りるということを知らないらしい。残り三体になってもなお、私に突進を仕掛けてくる。鬱陶しいから、一気に決めちゃおうかな。
屈伸し、尻尾にバネを利かせる。そして、思い切り躍進した。さて、どいつにしようか。見下しながら目標を定める。あいつにしよう。さっき、一番私の近くにいたやつだ。
必死に手を伸ばすという無駄な努力をしているやつめがけ、右足を突き出す。俗に言うバッタの改造人間の必殺技らしいけど、空中からの攻撃だとこれが威力が出やすいというのも確かなのよね。
やつの顔面を蹴りつけ、反動で宙へと舞い戻る。空中で一回転し、次の目標を新たに定める。尻尾でバランス調整しているからできる芸当であって、よいこはマネしちゃダメだぞ。
そして、次の個体にも、同じようにキックを炸裂させる。空襲をくらった二体はふらふらと倒れる。八体目と九体目。
汗を拭うと、隣ですさまじい爆音が轟いた。あいつら、何やらかしてんのよ。まさか、墓石をぶっ壊してないでしょうね。そうなら、後で相当面倒なことになるわよ。
さて、残るはあんただけね。あんたには、私のとっておきをお見舞いしてあげる。呼吸を整えると、私は奴に背を向けた。この局面で敵前逃亡かと不審がっているのだろう。そんな愚行を犯すわけがない。
急速に尻尾を伸ばし、やつの体に巻き付ける。そして、膝を曲げ、足元にありったけの力を入れる。この技は、脚に相当な負担がかかるのが難点。だから、滅多に使わない。これを拝めるだけありがたいと思いなさい。
私は、尻尾でやつを拘束したまま一気に飛び上がった。天空へとやつを拉致する。無理に束縛を解けば、そのまま真っ逆さまだ。もっとも、このままでも運命は変わらない。むしろ、もっと悲惨になるだけ。
最高到達点に達したところで、急に拘束を解いた。自由落下していくやつめがけ、私は尻尾を叩きつける。そのまま私も地上へと舞い戻る。
着地と墜落はほぼ同時であった。人間とほぼ同じ重さの個体を連れ去ったのだ。さすがに足が痺れる。でも、地面で大の字に伸びているあいつは、それどころではないだろう。やがて、その体は消滅していく。十体目完了。
まあ、ざっとこんなもんでしょう。冬子たちの手助けにでも行くかな。私は、別の戦場へと赴く。
しかし、もやが視線を遮った。そこからうっすらと冬子たちが視認できる。そして、とんでもないものがいたような気がする。明らかにこの世の生物を超過した化け物が。
そして、もやが晴れると、そこにいたはずの三人が消え失せていた。どういうこと。冬子たちはいったいどこに……。