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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第1部 出会い~エンカウンター~ 第5章 冬子の過去
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第31話 冬子の正体

「そこまでよ」


 救世主様は突然にして現れた。ブラッドが胡乱げに、声をした方を見やる。そこにいたのはぐるぐる眼鏡の小柄な少女。そう、夏木冬子だ。


「嫌な予感が当たったわね。しかも、被害者はよりにもよってあんたなわけ」

「見るからにピンチなんだから、慰めてくれてもいいだろ」

「おーよしよし、こわかったですね」

「なんで棒読みで、なおかつ赤ちゃん語なんだよ」

 こいつに正義の味方の振る舞いを期待した俺がバカでした。


「へぇ。こいつぁおもしれぇことになった。まさか、おめぇが出てくるとはな。おめぇを倒したとありゃ、俺の株も急上昇だぜぇ」

 ブラッドはあっさりとサーベルを退け、代わりに冬子に標的を変更した。

「異人の分際で調子に乗るんじゃないわよ。とはいえ、最上位種が相手ならば、そう簡単にはいきそうにないわね」

 冬子はぐるぐる眼鏡を外し、オッドアイを顕わにする。そして、有無を言わさず炎の玉を投げつけた。おいおい、遠慮なしかよ。

 しかし、ブラッドは慌てる様子もなく、サーベルで炎の玉を切り崩した。太刀筋によって発生する風圧で吹き消したというところだが、それを難なくやってのけるあたり、こいつも化け物じみている。


「おめぇもちゃんちゃらおかしな野郎だな。おめぇは本来、オレたちに敵対する意味がねぇ。まあ、あんなことがあった後だ。誰もおめぇを仲間とは受け入れないだろうよ」

「私も、あんたらと手を組むなんて御免よ」

「生意気言うんじゃねぇよ。オレたちと同類のくせして」

 その言葉に、冬子の表情が曇った。ブラッドと同類だと。少なくとも、冬子は異人が化けの皮を被ったとか、そんな奴じゃないはず。

 しかし、冬子は歯噛みするばかりで、反論することがない。不審に思った俺は声をかける。

「おい、冬子。同類ってどういうことだよ。お前も俺と同じく、異人によって能力を植え付けられたから、こうやって異人と戦ってるんだよな」


 すると、なぜかブラッドが腹を抱えて笑い出した。このセリフのどこにおかしな要素があるのか、全く分からない。それに、冬子も押し黙ったままだ。

「翼だっけなぁ。おめぇ、その女が人間だと本気で信じてるのかぁ。だったら、とんだ笑い種だぜ」

「いや、冬子は人間だろ。そりゃ、異人の力はあるけどさ」

「どうやら、こいつに本当のことを教えてなかったらしいなぁ。まあ、あんなこと、おめぇの口からまともに話せるわけもねぇ。けれども、オレは親切だ。こいつに、本当のことを教えといてやる」

「やめて!!」

 冬子が悲鳴を上げた。そして、氷の玉を投げつける。だが、簡単に振り払われる。

「そうやってすぐ暴力するのは、オレたちの仲間って証拠だぜぇ」

 いったい何を言おうとしている。冬子はただただ「やめて」と繰り返すだけ。


 ブラッドは地面に伏す俺に言い聞かすように片膝をついた。

「あの女はな、オレたちの裏切り者の娘なんだ。その裏切り者はあろうことか、おめぇと同じ人間と恋に落ちた」

「やめて」

「そして、子供を産んだ」

「やめて」


 まさか。信じたくはないが、ブラッドが言いたいことの予想がついた。否定しようと、必死に叫ぶ冬子。だが、ブラッドはついに、決定的な事実を告げようとしていた。


「よって、その女、冬子は人間じゃねぇ」

「やめて」

「その女はなぁ」


「やめてぇぇえぇえぇええぇぇx!!!」

 冬子が絶叫する。しかし、すでに遅かった。


「俺たちと同じ異人なんだよ」


 その場に崩れ落ちる冬子。その頬を一筋の涙が流れ落ちる。嘘だろ。冬子は人間じゃなかったとでもいうのか。

「正確には、人間と異人の間に産まれた子供ってことになるなぁ。そんな半端ものだから、その名は、オレたちの間じゃ知れ渡ってるぜ。まあ、半分でも異人は異人だ。翼、おめぇ、オレたちのことを化け物みたいに扱っただろ。けれどもよ、そこにいる女も、オレたちと同じような存在。つまり、おめぇのいう化け物なんだぜ」

 冬子が異人だって。確かに、情報が漏れるのを防ぐためとはいえ、俺を本気で殺しに来たりした。その思想が化け物だとなじったこともあった。けれども、彼女は俺たちと同じ人間であると疑いもしなかった。

 じゃあまさか、あのブラッドと同じく、俺たちの世界への侵攻を企んでいたとでもいうのか。異人を倒すとか言っておきながら、目的は別にあって、俺たちをだまそうとしていたんじゃないだろうな。


「冬子、答えてくれ。お前は本当に、異人なのか」

 冬子はただ、涙を流すばかりで、答えようとはしない。こんな事実、ひた隠しにしたいという気持ちは分からないでもない。けれども、今は許せなかった。

「答えろよ、冬子。お前、わざとこんなこと隠してたんじゃないだろうな」

 本当につらいのは彼女だったはず。それでも、隠ぺいしていたという事実が許せなくって、俺は冬子に吐き捨てた。答えろ、答えろよ、夏木冬子。お前も、あの化け物と同類だったのかよ。

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