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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第1部 出会い~エンカウンター~ 第1章 異人との邂逅
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第3話 化け物との遭遇

 それを「者」と言ったのは、人間のようで、人間でない存在だからである。二本足で直立し、日本の腕があり、丸い顔もある。大雑把にとらえれば、それは間違いなく「人」である。

 だが、素っ裸で全身に体毛がなく、顔ものっぺらぼうであった。顔がないマネキン人形と言った方が分かりやすいか。

 いったいどこで視覚情報を得ているのか知らないが、そいつは目のない顔で、まっすぐに俺を捉えている。そして、手足を通常では曲がるはずがない不自然な方向に曲げながら、よたよたと近寄ってくるのだ。


 学校帰りの子供を狙う変質者なら、いくらでも対処の仕方があったかもしれない。だが、こんなものはどう対処しろというのだ。あまりにも現実離れしすぎた存在を前に、俺の脳はフリーズしていた。

 俺が無抵抗でいるのをいいことに、そいつはますます接近してくる。もはや、手を伸ばせば触れられる位置にまで迫ってきていた。


 ここでようやく俺は、逃げるという選択肢を選ぶに至った。再度体を反転させ、あの細道へと全力で突っ込む。脇目もふらずに、俺は一心不乱に走り続けた。追いかけてくる気配はない。あのまま立ち往生してくれているのか。それならそれでありがたい。俺はこのまま大通りまで突っ切って逃げ切るのみだ。


 だが、急に、俺の体が後方へと引っ張られた。俺の意思とは関係なく、体が引き戻されていく。前に進もうにも、その場で足踏みするばかり。下りエスカレーターに逆らって登っていくみたいだ。

 ふと、首筋に生暖かい感触を受けた。どうやら、襟を掴まれて引っ張られているようだ。首が引きつけられて、若干息苦しい。こんなことをしでかす輩は、一人しか思い浮かばない。いや、一人と認定すらしたくもない。


 俺はゆっくりと振り返る。段々と視界に、見たくもないものが映り込んでくる。表情すら存在しないのっぺらぼうな顔。狭い押し入れに無理やり突っ込まれた人形のごとく不自然な体勢で、腕だけこちらへ伸ばしている。その腕は、俺の襟をしっかりとつかみ、空地の方に手繰り寄せている。あそこは単なる空地のはずなのに、今や冥府への入り口のように思えて仕方なかった。

 とにかく、腕から振り切ろうと、俺は全力で大通りへとダッシュしようとする。それにも関わらず、体は空地へと吸い込まれていく。あの化け物、どんだけばか力を誇っているんだよ。


 やがて、走りつかれて足が鉛のようになってきた。抵抗するのを辞めた途端、一気に体が引っ張られる。

 空地へと引き戻された俺は、化け物とにらめっこすることとなった。もの珍しそうに俺を観察しているようだ。このままいつまでも掴まれているわけにはいかない。幸い、手足は自由なので、俺は一か八か化け物にエルボーを叩き込んだ。


 呆気なく不意打ちが決まり、化け物はあっさりと手を離した。もしかしてこいつ、見かけの割に大して強くないのか。

 と、油断したのがまずかった。化け物はすぐさま手を伸ばしてきて、今度は俺の胴体を握りしめた。しかも、律儀に両手を使って、上半身を封じ込めている。抱っこされている気分だが、込められている力は異様に強い。こいつ、まさか俺を握りつぶす気じゃないだろうな。

 その嫌な予感は的中したようで、両腕に激痛が走る。経験したことはないが、電車のドアに挟まれ、無理やり閉じられそうになっていると、こんな気分になるのだろうか。このまま圧迫され続けられたら、両腕骨折は免れない。いや、骨折はまだぬるいか。下手したらこのままぺちゃんこだ。

 しかも、あごの部分が変化していき、注射針の形をとった。その切っ先は、俺の喉を狙っている。ひねりつぶすに飽き足らず、喉を切り裂いて確実に殺そうとしているのか。


 ああ、まさか、ほんのちょっと寄り道しただけで、俺の人生は終わってしまうとは。おまけに、こんな訳の分からない怪物に潰されたなんて、なんともみじめな最期だろうか。俺は祈るように瞼を閉じた。


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