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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第1部 出会い~エンカウンター~ 第4章 異人な日常
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第25話 バターナイフ損壊事件

 異人の力を手に入れてから3日後。今度こそ単独で異人を退治しようと意気込むも、一切遭遇することなく、以前と変わらぬ毎日を過ごしている。あれは夢だったかと思うときもあるが、風呂場で気を抜いたときに羽を生やしてしまった時は、嫌でも夢でなかったと思い知らされた。冷却シートを貼ったまま風呂に入るわけにはいかないので、ずっと羽を出すのを我慢したまま湯船につかる羽目になったのだ。正直、全くくつろげない。

 その日の朝食は食パンに目玉焼きというオーソドックスなフレンチだった。朝食は洋食派ということではなく、ご飯に味噌汁という日もある。すべては母さんの気分次第だ。

 ちょうどよい具合に焼きあがったパンにマーガリンを塗ろうと、バターナイフを手に取る。だが、そこで事件が起こった。冷蔵庫で長時間保存してあったせいか、マーガリンがカチコチに固まっていたのだ。この状態のマーガリンを掘り起こすには多少力を入れる必要がある。なんとかバターナイフの先端を突き刺し、俺はそのままてこの原理で押し出そうとした。


 バキッ。


 嫌な音が食卓に響いた。しかも、一般家庭の朝食ではまず発せられることがないはずの音だ。何事かと思い、俺は手にしているバターナイフに視線を落とす。


 そのバターナイフは真っ二つに寸断されていた。


「翼、あんたそれどうしたのよ」

 逆に俺が訊きたい。いくら力を入れていたとはいえ、バターナイフをへし折るなんて、余程の馬鹿力だ。これを再現できるとしたら、びっくり人間特集に怪力自慢で出演している人ぐらいだろう。

「これ、もともと壊れてたんじゃないか。前から使ってたと思うし」

「それにしても、こんなにきれいに折れるなんてね」

 両親は不思議そうにバターナイフを観察している。苦し紛れの俺の言い訳も通じなかったか。これ以上追及されたら答えようがない。

「まさか、翼がユリゲラーみたいなことをやらかしたわけでもないよな」

「私たちの息子が超能力者なわけないでしょ。それに、翼はユリゲラーなんて分からないわよ」

「それもそうか。それに、あの人はスプーンを捻じ曲げるんだったな」

 超能力者ではないにしても、それに近いような力を手に入れたなんて打ち明けられなかった。それに、ユリゲラーって誰だよ。新種のポケモンか。ともあれ、微妙に話が逸れたことで、どうにかごまかせそうな希望が出てきた。ユリゲラーとかいう人には感謝しておこう。

「ほら、早く食べないと、あなたも翼も遅刻するわよ」

 母さんに促されて、俺はトッピングされていない食パンを噛み千切った。俺の超能力疑惑も、朝の喧騒によってうやむやにされたようだ。あれが折れた時には、本気でどうしようかと思ったぞ。


 けれども、どうしたことだろう。本当にバターナイフが壊れかけていたとしても、それを真っ二つにへし折るなんて、明らかに尋常ではない。俺はいつからこんな怪力になったんだ。思い当たる節はあるが。

 そして、この俺に降りかかった異常はこれだけに留まらなかった。


 その日の三時間目は体育だった。その後に控える四時間目は運動の後でかつ昼食前という最悪のコンディションで受けることになる、嫌がらせとしか思えない時間帯に行われる授業だ。

「校庭で野球か。女子はいいよな、体育館でバレーボールだってよ」

 現役バレーボール部員の篠原が嘆く。彼としてはバレーボールをやりたいだけだと思うが、曲解すると変な意味になりかねない。わざわざ指摘するほどじゃないが。


 体育ということで、当然体操着に着替えることになる。カッターシャツを脱いだところで、俺はある懸念に気が付いた。背中に冷却シートを貼ったまんまだった。羽を隠すために、取るわけにはいかない。さて、どうごまかそうか。

「そういえば、また迷惑花火野郎が出たって知ってるか」

「そ、そうなのか」

 背中について思案していたところ、篠原がパンツ一丁で話題を振ってきた。数日前に冬子の似たような姿を目に焼き付けてしまったがために、幻滅具合が半端ない。

 いや、それよりも、迷惑花火野郎だ。もしかして、冬子のことじゃないよな。

「土曜日の朝だっけな。牧野台の神社の雑木林で、打ち上げ花火を鳴らした奴がいるらしいぞ。前のは爆竹だったんじゃないかって説も出てるけど、今度のは十中八九打ち上げ花火で間違いないみたいだ」

 間違いないな。あれは汚い花火だった。いや、便乗している場合ではない。完全に、冬子が空中でアブノーマルに火の玉をぶつけた時のことじゃないか。まさか、これも噂になっているとは思わなかった。

「へ、へぇ。ここって変な奴がいるみたいだな」

「そうそう。そして、この迷惑花火野郎よりもすごい奴も出たんだ」

 パンツ一丁のまま身を乗り出してくる篠原。むさくるしいからやめろ。しかし、続く言葉に、俺は激しく動揺する羽目になった。

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