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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第1部 出会い~エンカウンター~ 第3章 異人との初対戦
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第23話 初めての空中戦

話の区切りの都合上、この回と次回はちょっと短めです。

 俺はさっそく翼をはためかせ、大空へと舞い上がる。数秒で、眼下に樹木を望む位置にまで上昇する。初飛行は地下のプロレスリングだったが、こうして本当に大空を飛んでいるとかなり心地いい。異人と戦っているのでなければ、このままゆったりと浮かんでいたいぐらいだ。

 まあ、このままここでゆったりしていても支障はないと思う。アブノーマルには飛行能力がなかったはず。つまり、ここに居る限りは攻撃される心配がない。反面、下降しないと攻撃できないが。

 そんな算段をつけていたのだが、相手は想像以上に化け物じみていた。ある一点の樹木が激しく揺さぶられている。クワガタムシを取るつもりか。それにしては揺れ方が異常だ。台風で煽られているかのようである。

 すると、頂点の木の枝の間からあのすっぴんが顔をのぞかせたのだ。冗談だろ。あいつ、木登りしてここまで追いついてきたのか。

 驚く俺をよそに、アブノーマルは木の枝を踏み台にして、一気に飛び上がってきたのだ。聖奈の跳躍力には至らないが、油断して高度を下げていた俺を捉えるには十分だった。アブノーマルは俺の足を掴んだまま、地上へと降下していく。この高さから落下して無事という保証はない。いくらアブノーマルが桁外れの身体能力を有していてもだ。いや、俺を道連れにしようというつもりか。


 そんな真似させるかよ。俺は、地球の引力に逆らうがごとく、翼を羽ばたかせた。段々と落下速度が落ちていく。アブノーマルという余計なものがぶら下がっているせいで、体が異様に重い。大人を持ち上げようとしていると言えば、その苦労が分かってもらえるだろうか。

 それでも、なんとか滞空するまでには持ち込めた。ただ、顔のすぐそばに葉っぱがあるせいで、振り向くとそれにあたってくすぐったい。少しでも力を緩めると奈落の底なだけあり、非常に邪魔くさい。

 それに、アブノーマルも、両手で俺の足を掴むや、上半身に向かって登ってきたのだ。今や、腹と胸を握られている。こいつ、気色悪いことしてんじゃねえ。

 俺はアブノーマルを振り落そうと、振り子運動を試みる。余計なものが引っ付いているせいで、体を揺らす度、見当違いの方向に流される。大気の影響をもろにうけているせいもあるが。ただ、アブノーマルの妨害には成功しているようで、やつも俺の体にしがみつくのに精いっぱいのようだった。


 とりあえず、こいつを引きはがさないとお話にならない。俺は自由になっている両手で、アブノーマルの頭部を殴る。すると、やつはより力を込めて俺を握り返してきた。やめろ、バランスが崩れる。とはいえ、殴った瞬間、やつは確実に呻いた。つまりは痛いと感じているのだろうか。この化け物の痛覚を発動させられるということは、聖奈たちが言う通り、腕力等が上がっている証拠だろうな。

 なおも殴り続けるが、その度に胸に激痛が走る。このまま根競べしていても埒が明かない。他に攻撃方法はないものか。

 ふと、思い立ったことがあった。押してダメなら引いてみな。まさか、こんなのが効くとは思えないが。


 俺は、アブノーマルの首筋をくすぐってみた。


 すると、アブノーマルは体を震わせた。俺を握っていた馬鹿力が薄れていく。意表を突いたってことになるだろうが、本当にこんなのが効果ありとは思わなかった。


 真っ逆さまに墜落していくアブノーマル。すかさず後を追う。上昇しているときと違って、降下していくとなるとどうしても恐怖心が生じる。翼のおかげで地面に叩き付けられることはないが、完全に目を開けていることはできなかった。心臓もものすごい勢いで高鳴っている。次からは調子に乗ってあまり高いところまでは飛ばないようにしよう。


 地上へと舞い戻ると、案の定アブノーマルが地面に激突して伸びていた。そのすぐそばで、冬子がご立腹で待ち構えていた。

「空からアブノーマルが降ってきたから何事かと思ったけど、やっぱりあんたの仕業だったのね」

「上空で掴まれたら振り落すしかないだろ」

 どうやら、偶然にも冬子が戦っていた位置に落としてしまったようだ。彼女に当てていたら大事故になっていたところだ。もちろん、彼女が無事だった場合、俺の方が大事故になっていたことは言うまでもない。


 この一件で思いついたのだが、敵を抱えて上空まで飛んで、そこから落とすだけでも十分な攻撃になるのではないか。聖奈が言う「能力を活かした攻撃」とはこういうことか。ただ、主力攻撃にするにはあまりにも地味すぎる。余裕があったら、落下していく相手に飛び蹴りをかましたいが、それをやると、本格的に某バッタの改造人間っぽくなってしまう。


 地面に伏しているアブノーマルを取り囲む俺と冬子。あれ、ちょっとおかしいぞ。アブノーマルってもう1体いなかったか。もしかしたら、どこかに隠れていて、また逆立ちでサプライズを仕掛ける気か。俺は警戒するように首を動かす。

「もしかして、こいつとは別のアブノーマルを探してる」

 冬子が俺の考えを見透かしているように言った。なぜ、分かった。

「そうそう。あの野郎、どこに消えたのやら」

「それなら、とっくの昔に私が倒したわよ」

「もうやられてるのかい」

 冬子のことだから、瞬殺していてもおかしくはない。しかも、「こんな雑木林の中だから、氷漬けにして、その後炎で融解してやったわ」と物騒な報告をされた。それをまともにくらったなら、間違いなくご愁傷様だ。

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