表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第1部 出会い~エンカウンター~ 第2章 能力の発現
19/176

第19話 翼VS聖奈

 さっそくリングに上がり、聖奈と対峙する。練習試合とはいえ、人間相手に殴り合うのは初めての経験だ。小学校低学年ぐらいのときに、友人とふざけて喧嘩したことはあるが、それとは次元が違う。増して、相手は人間を超越した能力の持ち主だ。俺にもそんな能力が身についているかもしれないとはいえ、油断したら命が危ないかもしれない。

「練習試合といっても、格闘術とかやったことないですよ」

「難しく考えないで、聖奈さんと喧嘩すればいいんですよ。怪我しても救急箱は用意してあります」

 そういう問題かな。


「別に、本気で殺そうとしているわけじゃないから、気楽にかかってくればいいわよ」

 聖奈は右手で煽ってくる。これは先手を譲るということだろうか。ならば、お言葉に甘えさせてもらおう。俺はさっき貼りつけてもらった冷却シートをはがす。ちょうどその部分に穴が開いているので、シャツを着たままでもはがすことが可能なのだ。粘着力が発揮されているせいで小ダメージを受ける。戦う前に体力を減らすなんて不覚だ。

 すると、自然と二対の羽がその姿を現した。ボブが「オウ!」と感嘆の声を上げる。更には拍手までされている。そんなに期待されてもチップは出ませんよ。


 とりあえず、羽があるということは飛べるということだよな。事務所にいた時は勝手に低空飛行していたし。俺は軽く地面を蹴った。すると、翼がはためき、足元が地面を離れた。そのまま空気に流されるようにして上昇していく。こんなにあっさり飛行できるなんて、ライト兄弟がご存命なら泣いて悔しがるだろう。

「すげえ、俺、空飛んでるぜ」

「ああ、すごいわね」

 感動したのもつかの間だった。聖奈は尻尾を生やすと、屈伸した後、一気に飛び上がってきた。あっという間に俺の高度に追いつき、背中に掌底を打ち込む。まともにそれを受けた俺は急速落下する。

 初めての空中散歩は数秒で墜落という結果に終わった。初っ端から本気出しすぎじゃありませんか。

「実戦だったら、空中で遊んでいる間に異人に襲われてジ・エンドよ。もっと相手の動向に集中しなさい」

 着地しながら聖奈は俺に諭す。油断もくそも、飛行能力を試させてくれてもいいじゃないか。


 空を飛べるのは分かったら、次は身体能力が強化されているかどうかだ。女性を殴るのは気が引けるが、先に墜落させられたと思えば、まだ気は楽になる。俺は突進しつつ、聖奈の顔面めがけ、パンチを繰り出す。聖奈はあえて避けたりせず、腕で防御する。

 防がれはしたが、聖奈は体勢を崩し、リングネットに寄りかかる。大丈夫か。

「そんじょそこらの男のパンチよりはよっぽど効くわ。けれども、アブノーマルの攻撃程度ってところね」

「それってどうなんですか」

「私もこのくらいの威力なら出せるから、腕力はそこそこ強化されているみたい」

 微妙だな。少なくとも、アブノーマルとは互角に渡り合えそうだ。


 腕力がそこそこなら脚力はどうだ。俺はいったん距離をとり、左足を軸にして右足を振り上げる。だが、

「おっと、黙って攻撃を受けるほど私は甘くないよ」

 俺の蹴りが放たれる前に、聖奈は高速で一回転した。遠心力を味方につけた尻尾が俺の左足を捉え転倒させる。あの尻尾は鞭みたいに武器としても扱えるのか。接近戦をしかけるには、リーチがある聖奈の方に分がある。


 ならば、もしかしたら冬子みたいに炎を出すとかいう超能力があるかもしれない。そのためには時間稼ぎが必要だ。俺は足を曲げると、思い切りジャンプした。それに翼が呼応して、一気に天井近くまで飛び上がる。ビルの2階まで到達できる跳躍力があるとしても、そう簡単にここまで追ってこれまい。

 果たしてエネルギー弾でも出せるだろうか。冬子がやっていたように、聖奈に標準を合わせて手のひらを広げる。気分はまさに宇宙の戦闘民族だ。本気でか○はめ波みたいなものを出すつもりで気合を入れた。

 しかし、一向にエネルギー弾は発射されない。もしかして、ビームは出せないのか。

「なあ冬子、お前どうやって手から炎を出してるんだ」

 空から呼びかけると、冬子はあきれ顔で返答した。

「あれは、異人の中でもかなりの上位種が使える技なの。あんたに力を移したウィングはそんなに強くない個体。だから、炎なんて出せるわけないでしょ」

 ビームや炎は出せないのか。そうなると、空を飛んで殴り合うしか戦う方法がない。ひょっとして、異人の能力を手に入れたが、そんなに大したことなかったのでは。


「落胆しているところ悪いけど、せっかくだから私のもう一つの能力を見せてあげるよ」

 攻撃される。そう悟った俺は、アドバイスされた通り、聖奈を注視する。しかし、腕くみをしたままで、攻撃のそぶりはない。はったりだったのか。

 だが、全く予想だにしない部分から攻撃は放たれた。聖奈の尻尾がうねりだしたと思ったら、蛇行しながら伸びてきたのだ。それはまっすぐ俺へと向かってくる。その様はまさしく、孫悟空の如意棒。

 冗談じゃない、あんなのに捕まってたまるか。俺は天上すれすれを尻尾から逃れるように飛空した。だが、尻尾は意思を持っているかのように俺を追い回してくる。しかも意外と速い。翼もないのに飛んでいるミミズに追われている気分だ。

「跳躍力はおまけみたいなもんで、私の本来の能力はこの伸縮自在の尻尾なのよ」

 やがて尻尾は俺の脚に絡みついた。脱出しようにも強制的に押し戻される。聖奈によって、尻尾で凧揚げされているみたいだ。

 俺を捉えている尻尾が急速に引っこんでいく。当然、俺の体は地面へと一直線。聖奈の視線の位置まで引きずり落とされた時、ようやく尻尾から解放された。とはいえ、時すでに遅し。俺はそのままリングへと叩きつけられた。


 天井近くから落下したにも関わらず、かすり傷ひとつで済んだ。全体的に身体能力が向上しているのは嘘ではないようだ。俺は起き上がり翼を広げる。

「まだやれるみたいね。感心、感心」

「ここで引いたら男がすたるってね」

 しかし、勝機が見いだせないというのも事実であった。相手には尻尾という明確な武器がある。単純に殴りかかったのでは俺の方が不利だ。おまけに、空中に逃れても尻尾と跳躍力で容易に追いつかれてしまう。練習戦ではあるが、かなり相性の悪い相手と戦っているんじゃないか。

「圧倒的に私の方が有利っぽいからアドバイスしてあげる。あなたには飛行可能な翼があるわ。それでできることを考えてみなさい」

 翼でできること。空を飛ぶ。当たり前のことだ。だからどうだと言うんだ。そこから攻撃するとしても、あのウィングという異人がやっていた体当たり攻撃ぐらいしか思いつかない。

 いや、待て。さっき、上空から叩き付けられたとき、ものすごい勢いを感じた。急速落下しているから当然だが。けれども、これを攻撃に転じることができたのなら……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ