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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第4部 侵攻~インベーション~ 第4章 異の主
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第160話 異の主の能力

 俺は更にネイルを展開。切り裂こうとするや、異の主の姿が視界から消える。テレポーテーションなんて非科学的な現象が浮かんだが、深呼吸してアイを発動。どうやら、高速移動してかく乱しているようだ。

 冬子の技も難なく避けられる始末だ。停電しているため非常用電灯が作動しているが、あくまで避難用の応急でしかなく、薄暗いことには変わりない。そのせいで普段通りに動体視力が発揮できず、常人離れした速度で移動する異の主を捉えるのは困難となっている。備蓄電源が尽きたら目も当てられない。


 だが、そんな危惧は異の主が自ら解消した。背中から翼を広げると、天上へと飛び去った。俺も翼を使って後を追うが、やつは構わず飛行を続けている。

 そして、天井近くの壁にたどり着くや、腕の筋肉を強化。反撃に備えて身構えるが、異の主は俺ではなく、壁を思い切り殴った。


 爆音とともに壁が崩落する。そこから降り注ぐまばゆい太陽光。暗所に目を慣らしていたため、とっさに顔を覆う。こんな破壊行為に及び、あいつは何を考えているんだ。

「我としても、光がなければまともに物を見ることはできん。暗所ゆえに本気が出せんというふざけた条件ならば、とっとと解決するのみ」

 どうやら、光源を確保するためだけに壁を破壊したようだ。おかげで視界の心配をする必要はなくなったが、幾重の層があるコンクリートの壁を拳だけで風穴を開けるなんて狂気の沙汰でしかない。


 呆けていると、空中から異の主が滑空してきた。俺はそれに巻き込まれ、地上へと叩き付けられる。

 背中に激痛が走るが、とっさに受け身をとったおかげでそこまで痛手にはならなかった。異の主は方向転換し、ゆっくりと爪先から着地した。

「壁を破壊したのは剛腕アームストロング。さっきの体当たりはウィングによるもの。異の主は様々な異人の能力を駆使している」

 遠巻きについてきた百合がこっそりと囁く。以前戦った時もこのことが不可解だった。異の主は複数の異人の能力を持っているようだ。ただ、どれほどの能力があるかは推し量れない。

「剛腕に翼ね。あんた、どんだけ能力持ってるわけ」

 冬子が嫌味を込めて訊く。すると、異の主は鼻で笑い両手を広げた。


「わざわざ敵に手の内を明かすなど愚の骨頂だが、我の能力に関しては、知ったところでどうにもならないだろう。むしろ、あえて知らせることで、貴様らに絶望させることも可能かもしれん」

「もったいぶらないで、教える気があるならさっさと教えなさい」

 冬子の怒号にも怯むことなく、異の主は続ける。

「よかろう。ならば教えよう。我が持つ能力、それは……」

 その後の言葉に、俺たちは激しく後悔した。確かに、これは聞かなかった方が良かったかもしれない。なにせ、こんな能力を持つ相手に勝ちようがないのだ。

 だが、一度開きかけた口を塞ぐことなどできない。異の主の放った残酷な真実。それは、


「この世に存在する異人すべての能力を操ることだ」


 半ば想像のついていたことではあるが、まさに反則的な能力であった。

「異人たちを統括する存在ということで、我は異の主と呼ばれている。我としてもその都合から同じく異の主と自称している。しかし、それは我が本名ではない。我は、すべての異人の力をその身に受け継ぎ操る存在。それを象徴する真の名は『総合ジェネラル』」

「ジェネラルだって」

 すべてを司る者としてしっくりくる名前ではある。戦法の手数が多いというだけでも十分に脅威だ。しかし、本当の問題はそこではない。


「そなたらも異人の力を持っているのならば知っているだろう。異人の力を複数持つということがどうなるか」

「使える能力が増えるだけではなく、身体能力も強化される」

 冬子がそこまで口にし、そして愕然とする。そう、その通りだ。

「我は間違いなく、この世で最も多くの異人の力を有している。この意味が分からぬほど馬鹿ではあるまいな」

 下賤な笑みを浮かべる異の主。対して俺たちは突きつけられた真実に二の句も告げずにいた。


 身体能力だけで考えれば、一つの能力の持ち主よりも二つ以上の能力を持っている者の方が優れている。俺は現在五つの能力を持っているので、並大抵の相手よりも身体能力だけで勝っていることになる。

 しかし、異の主は「すべての異人の能力」という規格外の力を持つと明かした。これまでに出会ってきた異人たちを思い返し、やつらが持っていた能力を数えると軽く十は超える。つまり、俺よりも二倍以上の能力差があるということになる。

 いや、下手したらそれ以上かもしれない。俺たちが出会っていないだけで、未知の能力があるとしたら。そして、それさえも異の主は習得しているとするならば。


 そんな恐るべき可能性を具現化するかのように、異の主は手をこすり合わせた。そこから稲妻のようなものが垣間見える。そして、両手を広げるや、そこから青白い稲妻が走り、俺を貫いた。

 瞬間的に痛撃を感じ、俺は片膝をつく。この感触。もしかして静電気か。数日前にセーターを脱ごうとして上半身に喰らったことがある。だが、つい数秒前に感じたこれは、そんな生易しいものではなかった。バラエティの罰ゲームで高圧電流を受けるというものがあるが、それと同レベルの衝撃かもしれない。

稲妻スパーク。意図的に静電気を発生させる技だ。それも、その気になれば痺れで動くもままならなくなるほどの雷撃を作り出すのも可能」

 今まで戦った異人の中で、こんな能力を持つやつなんていなかった。やはり、異の主は俺たちの予想以上の数の能力を身につけている。ならば、最終的な身体能力差は……。もはや、想像するのも恐ろしかった。

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