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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第4部 侵攻~インベーション~ 第3章 渡とブラッド
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第156話 翼の新能力

 俺とブラッドが戦闘している最中、冬子と渡もまた熱戦を展開していた。渡は「俊足ファストラン」による高速移動から、牙での一撃で仕留めようとする近距離主体の戦法に出ていた。それとは対照的に、冬子は主に氷の玉を駆使し、遠距離で牽制しつつ着実にダメージを与えていく。いわば、塵も積もれば山となるという寸法だ。

 渡は遠距離での攻撃方法に乏しいというか皆無なので、このまま氷の玉の連撃を受け続けてしまってはそのうち尽き果てるのがオチ。ただ、あの二本の牙は相手を一撃で再起不能にするまでの威力を秘めている。まして、華奢で防御系統の能力を持たない冬子であればなおさらだ。傍目からすると一方的に攻撃している冬子が有利のように思えたが、実際はギリギリのシーソーゲームをしているようである。


 冬子が氷の玉主体で戦っているのは、相手が渡であるという配慮からだろう。口ぶりからすると、異人に心を売ったように思えるが、まだその確証がついていない。

「そんなちんけな技なんか通じへんで」

 渡は連射される球体を避けるどころか、あえて受けつつ間合いを確保している。強引に突撃してくるせいか、冬子は攻勢を維持し続けられず、やむなく退避を繰り返している。


 渡が強引に攻めることのできるカラクリはおそらく、新能力の「甲殻シエル」だろう。氷が着弾しそうになると、手の甲や腕を膨張、硬化させ、それで防いでいる。防御専門の能力ではあるが、撤退を考えずにひたすら前進できるという点で、近距離主体の渡とは相性がいい能力であった。


 合流してから客観的に二人の戦いを分析してみたはいいが、あまりに激しい攻防が続いているせいで介入できる余地がない。俺の仲間内でも、特に戦意が高い者同士だけに、互いに容赦なんかどこ吹く風という勢いだ。

 しかし、共に戦ったはずの仲間なのに、こうまで遠慮がないなんて。ドライな部分のある冬子はともかく、渡は公然と冬子に対して好意を持っていたはずだ。愛しているが故、ぶちのめすなんて壊れた神経の持ち主じゃないはずだし。渡、お前は本当に異人の洗脳を受けているのか。


 やがて、両者は呼吸を整えるため、一旦間合いを取る。両手を握ったり広げたりして技の調整をしている冬子に対し、渡は牙を解除し脱力する。

「裏切り者の娘やから、けったいな実力者やと思うたが、案外大したことあらへんな」

「とぼけたこと言ってるんじゃないわよ。あんた、その調子じゃ冗談抜きで異人に心を売ったみたいね」

「当たり前やんか。わいが信仰しとるんは、主だけやで」

 胸を張る渡。これを機に、俺は冬子に話しかける。

「大丈夫か、冬子」

「あんたに心配されなくても平気よ。それよりも、ブラッドはどうしたの。逃げ帰ったわけじゃないでしょうね」

「そんなダサいことするか。あいつは倒したよ」

 怪訝な目をしていた冬子だが、この言葉を聞き瞠目した。おいおい、本気で意外そうな顔してるんじゃない。


 そんな失礼なことを思っていたのは、渡も同じだったようだ。

「ブラッドがやられたやって。あんさん、どんなカラクリ使ったんや」

「インチキなんか使ってねえよ」

 最後の一撃は正々堂々と言えるか微妙だが。それよりも、こいつらの中での俺の評価低すぎるだろ。


「まあ、弱者は消えるのみってのが異人の掟やったからな。せっかくやから、翼もまとめて始末したるわ」

 そう言うや、突如俊足を発動。油断していた俺の眼前まで急速接近した。


 そして、大顎を開き、俺の腕に噛みついた。腕の髄までめりこんでくる両牙。激痛が走り、顔を歪ませる。アイを使っていたらどうにか回避できたかもしれないが、とにかく不意を突かれたのがまずかった。それよか、先ほどまでの戦いで、常人の動体視力では捉えるのが困難な動きからの攻撃を回避し続けられるなんて。改めて冬子の運動能力の非凡さが露呈された形となった。


 冬子に感心している場合ではなく、腕を噛み千切らんとするこいつをどうにかしなくてはならない。こうなれば、さっき手に入れたこの力を試してみよう。俺は左手に力を入れる。

 すると、その手がうずき、指先が震える。過たずして、五本の指すべてから、鋭利な爪が伸長してきたのだ。


 突然の変化に、渡は牙を離してバックステップをとる。

「翼、どうしたのよ、それ」

「ブラッドから受け継いだんだ。あいつも持っていた『ネイル』さ」

 動転している冬子に説明してやる。これだけでも驚嘆に値するのだろうが、お楽しみはこれからだぜ。


 おあつらえ向きに、渡に噛みつかれた箇所から流血している。普通なら歓迎しうる事態である。しかし、この能力を使うのならむしろ好都合だ。俺は、とめどなく流出する紅の液体を止めようとするどころか垂れ流しにする。常識であれば不可解な行動だろうが、この能力の前では、ほんの準備運動に過ぎない。

 やがて、液体だったはずのその血流は急激に凝固していった。腕より生えた紅のサーベル。俺はネイルでその根元を砕き、フリーになっている右手でそれを握りしめる。

「ここまでやられたら、ブラッドが倒されたというのは認めるしかあらへんな。あんさん、それ、鮮血ブラッドの能力やろ」

「ご明察」

 合点がいった渡を、俺は微笑で讃える。

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