表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第4部 侵攻~インベーション~ 第2章 ヘアーとノウズ
149/176

第149話 ヘアー強化

 一旦髪の毛を収束させていったのを機に、私とボブは並んで体勢を立て直す。単独の能力しか持っていないはずだけど、本気を出しているだけあって一筋縄ではいきそうにないみたい。

「ボブさん、別々に戦っていては勝ち目がなさそうだわ。ここは協力しない」

「ナイスアイデアです、ミス聖奈」

 目配せした後、私は数歩前へと進み出る。そして、尻尾をちらつかせて挑発をかける。

「小娘、まずはお前から死にたいか」

 もはや、声までもがしわがれ、老女のそれみたいになっている。そんなヘアーは、髪の毛を硬化させると、今度はバルカン砲のように連射してきた。発射したその直後に、すぐさま新しい毛が生えてくるので、無尽蔵に球数がある弾丸を相手にしているようなものだ。

 私は、尻尾で髪の毛を振り払いつつも、必死で腕を交差させて耐え凌ぐ。豪雨のように降り注ぐ弾幕は尻尾単独で防ぎきれるものではなく、こぼれ球が容赦なく全身を貫いてくるのだ。それにより、着ているコートやミニスカートのあちこちに亀裂が走る。こいつ、このコーデけっこう高かったんだぞ。


 相手は、私が為すすべなく防戦一方だと思っているのだろう。調子に乗って、更に髪の毛の勢いを増してくる。そろそろきつくなってきたな。でも、そろそろのはずだ。

 ふと、弾丸に間隙が生じた。よく目を凝らすと、ヘアーの視線が横にそれているようだった。どうやら気が付いたようね。でも、遅いわよ。


 ヘアーの真横まで接近していたボブが、剛腕アームストロングで強化した拳をお見舞いする。クリーンヒットし、ヘアーはその場に薙ぎ倒される。あの変貌で体は痩せ細っていったから、もしかしてと思ったんだ。あの形態は、髪の毛に体力を集中させて、攻撃特化になる。その反面、防御は疎かになるんじゃないかってね。

 こんな単純な手に嵌るかどうか賭けだったけど、意外にもうまくいったみたい。作戦はどうということはない。私がやつの髪の毛の囮となっている間にボブが接近。拳で一気に勝負を決めるってものだ。元々虚弱体質っぽかったのに、そこから更に防御を削っているんだもの。抜きんでた破壊力を持つボブの一撃は効果覿面こうかてきめんのはずだ。


 ヘアーが倒れてから過たずして、私も両膝をつく。私自身も、そんなに打たれ強いわけじゃない。あいつの本気の攻撃に野ざらしになっていたから、体中が悲鳴をあげている。

「大丈夫ですか、ミス聖奈」

「ちょっと無茶しすぎたみたい。でも、少し休めば平気よ」

 そう、あれでもまだ完全にあいつをやっつけたわけじゃなかった。


 ヘアーは髪の毛を地面に突き刺し、それを支えに立ち上がる。

「オノレエエエエエ」

 呪詛を込めた不気味な咆哮を発する。小心者ならそれだけですくみ上るだろう。互いに、長期戦をやりあうだけの体力は残されていないはずだ。ならば、ここで勝負を決める。


 しかし、ヘアーは予想外の行動に出た。ふらつく足元で向かったのは、私ではなく、瞳とノウズの方。あいつ、こんな局面で奴らに何の用だ。

「ヘアー、どうしたんだい、そんなに……」

 声をかけたノウズだったが、それは途切れることとなった。


 ヘアーが髪の毛を伸ばし、ノウズを包み込んだのだ。


 それはやがて、ノウズの手足を縛りあげ、空中で磔にする。

「く、苦しいよ、ヘアー。どうしたってんだい」

 首まで絞められているのか、ノウズはむせ返りつつ問いかける。

「ノウズよ。主への忠誠を示すため、我が力となりなさい」

「ま、まさか、そんなの嫌だ」

 拒否するノウズにお構いなしに、ヘアーは彼の体を密着するまでに手繰り寄せた。そして、自身の顔の前に、ノウズの顔を固定させる。そこまでして、あいつがしようとしていることが理解できた。あの野郎、させないわよ。


 私とボブは同時に飛びかかる。しかし、こん棒並にまとまった髪の毛により、それぞれ弾き返されてしまう。

「邪魔はさせないわよ。さあ、分かっているわよね、ノウズ」

「ね、ねえ、ヘアー。こんなことしなくても、あいつらはそこまで悪くなさそうだよ」

「お黙りなさい。人間は一人残らず懐柔させるか、さもなくば殺戮するのみよ。そのための糧として、あんたを利用させてもらうだけ。さあ、大人しくしなさい。さもなくば、反逆者とみなして、このままぶっ殺すわよ」

 それは脅しではないと主張するかのように、ヘアーは更にきつくノウズの体を締め付ける。あいつ、仲間にこんな容赦ないことをするなんて。立ち上がろうとするものの、激痛が走り、すぐに腰を落としてしまう。


 ようやく大人しくなったノウズの顔に、ヘアーは自身の唇を押し当てた。それはただの接吻ではないことは百も承知だ。現に、ノウズの瞳からは一筋の雫がこぼれ落ちていたのだから。


 投げ飛ばすようにしてノウズを解放すると、ヘアーの髪が更に伸び広がった。地にひれ伏しそうになりそうなほどの圧巻。あいつ、無理やりノウズに細胞注射させて、更にパワーアップしやがった。


「大丈夫ですか、ノウズ」

「う、うん。ちょっと苦しかっただけさ」

 すぐさま瞳がノウズの介抱に向かう。瞳の膝に横たわりながら、ノウズは咳き込んでいる。


 一方で、ヘアーは扇状に髪の毛を広げながら高笑いしていた。

「素晴らしいぞ。まさか、ここまでの力を得るとはな。感謝するぞ、ノウズ。これだけの力があれば、愚かなる人間どもを蹂躙するなぞ容易い」

 そう言って背後より出現したものに、私は声を上げた。そんな、あいつ、あの能力まで吸収したのか。


 細長くうねる、サルのそれを連想させる器官。やつは、尻尾まで入手してしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ