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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第4部 侵攻~インベーション~ 第1章 学校襲撃
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第145話 テレビ塔陥落! 千木市制圧宣言

「この時間は予定を変更しまして、先ほど入ってきましたテレビ塔襲撃事件の速報をお送りしております」

 テレビ塔襲撃だって。アニメやドラマの世界じゃあるまいし、そんな仰々しいことをやらかす輩がいるのか。直後映し出された鉄塔の映像に、一同は釘づけとなった。


 それは、千木市内にあるテレビ塔だったのである。


 この清川から十五駅先、県内最大の都市千木。その中心街にそびえ立っているのが、地方テレビ「千木テレビ」を発信しているテレビ塔だ。俺としては、夕方にやっている昔のアニメの再放送しか見たことがない局だが、それでもマスコミ機関が襲撃されたというのは重大事件には違いない。固唾をのんで、続報を見守る。


「今朝九時ごろ、千木市内にある千木テレビのスタジオ内に異人こととびとと名乗る謎の集団が出現。生放送中の朝の情報番組『おはよう千木』の収録スタジオを襲撃したとのことです。

 主犯格と思われるのは、金髪で身長百八十センチぐらいの三十台前半と思われる男。それに、共犯者である二人の男がいる模様です。また、現在インターネットを中心に話題となっているマネキン人形のような怪生物も多数出現したとの情報もあります。

 警視庁では、現場の情報収集に努めていますが、詳しい被害状況などはまだ分かっていません。しかし、襲撃の際に抵抗した番組スタッフを始め、多数の負傷者が出たとの情報もあります」

 映像は、千木市内の資料映像が繰り返された後、テレビ塔付近の中継映像になった。すでに機動隊が入り口を取り囲んでおり、物々しい雰囲気が漂っている。

 他のチャンネルも似たような内容を放映していた。一旦別のニュースに移ったりする局もあったが、すぐにこの襲撃事件を取り扱っている。


 決定的なのは、襲撃されたとされる千木テレビだった。この時間帯なら、まだ生放送の情報番組が放映されているはずだが、画面には砂嵐が表示されるばかりだ。カメラが壊されたのか、意図的に放送ができないようにしてあるのか、真意は分からない。


 やがて、とある民放局が新規の映像を流し始めた。

「現在、私はテレビ塔襲撃事件が発生した千木市内に来ています。別事件での取材で偶然この付近を通りかかったところ、この事件を受けまして、緊急で取材を続けております」

 警察が交通規制をかけているのをバックに、遠巻きで女性アナウンサーが実況レポートをしている。テレビ塔へと殺到しようとしているやじ馬を警官が必死で押し留めているようだ。現在のところ、テレビ塔内部にしか被害が及んでいないらしく、興味本位で火事の現場を覗きにいこうとしているような連中だろう。

 町中は大きな変化はなく、襲撃事件なんて嘘っぱちじゃないかと思われるほど、平穏としていた。矢継ぎ早に到着する警察関連車両が異質に思われるぐらいだ。


 しかし、そんな雰囲気はまさに現在進行形で破られることとなってしまった。アナウンサーが事件の概要を説明していたところ、突然人々の悲鳴が上がったのだ。そこに混じる警察官の怒号。画面が大揺れになり、テレビ塔方面へとスクロールする。


 すると、そこには信じがたい光景が広がっていた。テレビ塔入口へと続く大型駐車場に、十数体のアブノーマルが出現していたのだ。そのうちの一体が、機動隊が構える盾を掴み上げると、隊員ごと宙に持ち上げる。そして、ゴミでも捨てるかのように投げ飛ばしたのだ。

 突然湧いて出た現実離れした存在に、機動隊は思考停止してしまっていた。だが、隊員が攻撃されたという事実を受け、すぐさま発砲命令が下る。


 アブノーマルたちに弾丸の集中砲火が襲い来る。意外にも効果があるらしく、銃撃を受けた個体は仰向けに倒れる。それを機に、一斉射撃による掃討作戦が開始された。

「今お伝えしております映像は、決して映画撮影ではございません。現実にこの場で繰り広げられております、未知の生物との銃撃戦。怪物たちがまさに倒されようとし……」

 そこで突然画面が乱れた。めまぐるしく、建物やら地面やらが映り、絶えず悲鳴のようなものが流される。そして、最後に大きくのっぺらぼうの顔が表示されたところで、完全に番組は途切れた。


 あまりに現実離れしている映像の連続で、民放各社が手を組んでドッキリでも仕掛けているのではないかと思われるくらいだった。だが、つい先ほどまで未知の怪物による襲撃を受けた身としては、これが絵空事だとは到底思えなかった。

 そして、別の番組で、とどめともいえる内容が放送されていた。


「ここで最新情報が入ってきました。千木テレビ周辺の市街地で、謎の生命体が機動隊に対して攻撃を開始。その直前、今回の襲撃の主犯格と思われる男より、犯行声明が発表されたそうです。

 この声明文は、千木テレビのスタジオを介し伝えられており、現在も千木テレビではこの声明文が繰り返し放送されている模様。では、実際の映像をご覧ください」

 報道フロアから、別のスタジオに画面が切り替わる。そこは、千木テレビで放映されているニュース番組で使われるスタジオだった。原稿を置く長机に、背後の「千木テレビ」というロゴが飾られた質素なものだが、そこで、とんでもない人物が屹立していたのだ。


「異の主だと」


 俺たちは思わず叫んだ。金色の長髪をした白装束の長身。鋭い細めのその男は、忘れもしない、仇敵異の主であったのだ。


「愚かなる人間諸君。我々異人は、かつて汝らの迫害により、この世界から追放された。今生のそなたらは、その事実は忘却の彼方へと追いやられていることだろう。だが、我らはその事実を決して忘れはしなかった。

 この報復は、本来であれば、時期尚早であった。だが、我々の存在が知れ渡っているならば、やむを得まい。これより、我々は貴様らに対する報復を宣言する。

 命乞いをし、我らが軍門に下るというのなら、大人しく細胞注射を受け入れよ。さすれば、同朋として迎えよう。だが、抵抗するのであれば容赦はせん。過去に我らが受けた屈辱の報復として、その命を捧げるがいい」


 この声明が発表された直後、テレビ塔直近の駐車場での襲撃が開始されたという。もうここまでやらかされたら、やつの思惑は明らかだ。異人たちは、千木テレビを拠点とし、千木市内全域を陥落させようとしている。


「もうこれ以上は、ニュースを見るまでもないでしょう。あの化け物たちはまさに今、千木市内を襲っています。このままだと、この清川に侵攻されるのも時間の問題でしょう」

 機動隊により、アブノーマルレベルならなんとか相手はできるものの、上位種レベルが本気で攻めてきたら危うく壊滅させられかねない。それに、被害を拡大させないためにも、早々にやつらの中心戦力を黙らせなければならないのだ。


「みんな、聞いてくれ。千木が危機に瀕しているってのは分かってくれたと思う。正直、機動部隊では防ぎきるには限界がある。あいつらを止めるには、この力を使うしかないんだ」

 そのことに対しては、疑問を呈する者はいなかった。俺たちが怪物退治をしたのを目の当たりにしているので、当たり前だろ。

 反応できずにいる生徒たち。そんな中、口を開いたのは、俺の担任の先生だった。


「本来なら、こんなことは容認できないのだが、この危機を救えるのは東雲、お前たちだけだってことだろう。ならば、担任として気が進まんが、こう決断する他ない。千木市への遠征を許可する」

「先生」

「ただし、決して命は粗末にするなよ」

 一昔前のアニメのようなやりとりではあったが、力強い後押しには変わりなかった。


 事態は一刻を争うため、名残惜しさもほどほどに、俺たちは、ボブたちが待機しているという大型バンへと乗り込むこととなった。無論、これまで隠れていた百合も一緒だ。声援が響き渡る中、ひときわ大きく、篠原の声が届いた。


「翼、絶対に帰って来いよ」


 俺はサムズアップで応え、一路千木市内を目指すのであった。

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