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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第4部 侵攻~インベーション~ 第1章 学校襲撃
134/176

第134話 撮影されたアブノーマル

 それは、いつもと変わらない朝のことであった。ニュース番組を見ながら朝食のパンにかぶりつく。学校に行くときに乗る電車の時間まではまだ余裕がある。だから、咀嚼がおざなりになりつつも、俺はテレビを眺めていたのだった。

 スポーツや芸能のニュースを一通り放送し終えた後、ネット上で話題になっている出来事を紹介するコーナーへと移った。ツブヤイタ―によるつぶやきの数から、ランキング形式で出来事を解説していく。篠原に誘われ、俺もまたツブヤイタ―を利用している。もっとも、教えてもいないのに所長からすぐにIDを特定され、「翼君もツブヤイタ―を始めたのですね」とダイレクトメッセージが送られたのには面食ったものだ。


 アニメキャラとコラボして話題になった喫茶店や、動画投稿サイトで人気を博している曲芸する猫など、バカバカしいものや興味深いものまで玉石混合といったところだ。異人が出現しないときは暇つぶしに携帯電話をいじくっているから、すでに知っている情報も含まれているんだよな。


 今日も特に目ぼしいニュースはないかと肩を落とし、コーヒーを口に含む。番組では一位となったニュースを紹介していた。なんでも、清川周辺に謎の怪生物が出現したというのだ。清川って、俺が通う高校があるあの清川だよな。そこに怪生物なんていたっけ。


 どうやら、ツブヤイタ―上で「清川高校から帰る途中に、こんな化け物と出会った。最近、変な事件が続いているから、もしかしたらこいつの仕業じゃないかと思っている」と書かれたメッセージとともに、添付されている画像が話題となっているという。アナウンサーが「話題となっているという写真がこちら」と煽り、画面いっぱいに映し出されたものを前に、俺はコーヒーを口から発射した。


「翼、あんた何やってんのよ」

 母親が迷惑そうに机を拭くが、俺はそれどころではなかった。冗談にしてはたちが悪すぎる。なんで、こいつが写真に撮られているんだ。


 そいつは今にも撮影者に覆いかぶさらんとする、のっぺらぼうのマネキン人形だったのだ。


 それに対するコメントは「どうせ作り物じゃね」「映画撮影乙」という冷めたものがほとんどだった。しかし、少なからず「俺もこいつと似たようなの見た」「友人がマネキン人形に襲われたって話しているけど、もしかしてこいつじゃね」と存在を肯定するような内容も含まれていた。

 番組は「この怪生物が実在するかどうか議論が交わされているが、真意の程は分かっていない」と幕が下ろされた。


 ホラー映画のためのまがいものだと俺も思いたかった。しかし、そいつは、俺が散々戦ってきたあいつとあまりにも酷似していたのだ。なので、嫌が上でもこの事実は認めざるを得ない。


 アブノーマルが何者かによって撮影された。


 これはかなり由々しき事態になってきた。現在のところは、模造品かどうかで議論されているレベルだ。けれども、人間を襲う新種の怪生物が存在していると、大々的に拡散していってしまったら……。いつの間にかコーヒーが垂れ流しになってしまっていたが、俺はそれに気が付くことはなかった。


 ニュース番組で取り上げたうえ、そいつが出現したのが清川周辺というのが拍車をかけたようだ。俺が教室に着くと、皆一様にアブノーマルを話題にしていた。


「ここらでいつの間に映画なんか撮ってたんだ」

「いや、ロケ地にするほど目玉があるわけないだろ。俺は、本当にいると思うな」

「あんな変なマネキン人形みたいなのがいるわけないじゃない」

「そうとも限らないわよ。花火野郎とか、天使とかもいるって噂だし」


 どうやら、アブノーマルと共に、以前話題になった花火野郎や天使の噂も再加熱しているようだ。後者は心当たりがあるが、アブノーマル撮影に関しては出どころが完全に不明なだけに、ただただ驚愕するしかなかった。もちろん、俺が戦闘中に撮影するなんて愚行を犯すはずがない。冬子や瞳だってそんなことはしないだろう。考えられるのは、清川周辺に住んでいる人が偶然アブノーマルに出会い、そいつを写真に収めたということだ。

「篠原、これは一体どうなってるんだ」

 たまらず、このことを話題にしていた篠原に声をかける。

「お、翼か。どうもこうも、お前も知ってるだろ。この高校の近くで謎の生物が出たっていうんだよ」

「マネキン人形が動くなんて非科学的だよな。翼もそう思うだろ」

 篠原の隣にいた木村から同意を求められ、俺はあいまいに頷く。一般論からすれば非科学的だろうが、俺は嫌というほど動くマネキン人形をぶちのめしているんだがな。


 顔をひきつらせていると、篠原がそっと耳打ちしてきた。

「翼。ちょっと相談したいことあるから、放課後いいか」

 いつものおちゃらけた調子とは一転して、低い声音だった。軒並みならぬ様相に、俺は真顔で「ああ」と応答する。


「変なマネキンなんているわけないじゃない」

「そうよね」

 このことは、女子のリーダー核である榊も当然のように議論していた。そのすぐそばで、関心がなさそうに、冬子が単行本を読んでいる。この前の席替えで、あろうことか榊の近くの席を引き当ててしまっていたのだ。両者共に積極的に関わろうとしないので、今のところは衝突が起きていないが。

 だが、この状況は危なっかしい。冬子が榊たちの議論に反応でもしてしまったら。そんな不埒なことを考えていたのだが、それがよもや現実化してしまうとは、思いもよらなかった。

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