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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第3部 凶暴~バーサーク~ 第5章 最悪の敵と最悪の結末
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第131話 第3部エピローグ

 テイルとの勝負には勝った。しかし、残されたのは最悪の結果だった。テイルであった孝は異の主によって殺され、おまけに渡までもが、敵の手に落ちてしまった。

「これが、これが異人のやり方だっていうの」

 泣きじゃくりながら悔しがる聖奈に、俺たちは返す言葉がなかった。これまでの戦いの中でも、やつらの非道な一面は幾度となく目の当たりにしてきた。けれども、異の主の所業はそれをはるかに超越していた。現世に降臨した邪神。そんな浮世離れした形容でしか、やつを捉えることができなかった。


「翼君、大丈夫でしたか」

 所長が心配そうな顔で駆け寄ってきた。工場内で爆音が連鎖したため、不安になってこっそり様子を見に来たという。

 そんな所長も、悲惨な現場を前に絶句するしかなかった。

「みんな、無事というわけではなさそうですね」

 俺たちは無言でうなずくしかない。もはや、まともに会話する気力さえ残っていなかった。


「この状況で忠告するのも酷ですが、ここから一刻も早く脱出した方が良さそうです。僕の旧知の仲で警察の関係者がいるのですが、住人たちの証言から不審な人物がこの工場にいるのではという情報が入り、近いうちに調査が行われるそうです。ここでたむろしていては、あらぬ疑いが掛けられてしまいます」

 失念しかけていたが、元々は、瞳が誘拐されたことに端を発して、この戦いへと発展したのだ。所長に促され、早々に引きあげようとするが、聖奈が声を上げた。

「待って。孝はどうする気」

「こんなことを言いたくはないのですが、事情が事情だけにこのまま放置するしかないでしょう。まさか、遺体を持ち帰って隠匿するわけにはいきませんし。そんなことをすれば、僕たちが重罪人になりかねません。

 それに、瞳さんの誘拐事件を最も穏便に解決させるためには、こうしておくしかないのです」

 それでもなお渋る聖奈だったが、所長の提案を聞き、やむなくここを後にすることに同意したようだ。俺とて、どうにか孝を救ってあげたかった。生きたまま、聖奈と孝の二人が添い遂げるってのがハッピーエンドには違いない。

 でも、異人による支配を受けていたとはいえ、孝は罪を重ねすぎた。少なくとも、瞳の誘拐の件は、全くの無実と言い張るのは無理がある。当人が無意識だったと主張しても、そんなのはまかり通らないだろう。

 あまりに理不尽な結末を生み出す。これが、異人との戦いなのか。やり場のない怒りをぶつけられず、俺は帰り際に勢いよく石ころを蹴飛ばすのであった。


 その後、所長が警察関係者に掛け合ったおかげもあり、事件はこのような形で幕を閉じた。夕刻に町を歩いていた瞳は孝によって誘拐される。孝は工場を根城にして、そのまま籠城を図る。しかし、ふとした拍子に機能停止していたと思われていた工場内の重機が誤作動を起こしてしまう。それに巻き込まれたことで孝は死亡。単独で逃げ出してきた瞳を所長が保護し、警察へと送り届けた。

 表向きには、容疑者死亡という形で処理されることになる。よもや、犯人は異世界からの侵略者だなんて説明するわけにはいかないだろう。信じてもらえないだろうし、「異人の存在を一般に知られてはならない」という掟に真っ向から背くことになってしまう。釈然としない部分は多々あるものの、事を荒立たせないためにはこうするしかないというのも事実だった。


 あの事件の後、事務所の一角には孝の写真とともに白菊が飾られるようになった。聖奈の携帯電話に残されていたあのデートの写真を加工し、孝が写っている部分だけ切り出したものだ。その写真に向かい、一心に拝んでいる聖奈を、俺は幾度となく目撃している。そんな時に、俺もまた静かに黙とうをささげるのであった。

「なあ、翼」

 今日もまた、拝礼していると、聖奈から声をかけられた。

「孝の弔いのためにも、異人は撲滅すべき。そうじゃない」

「ああ」

 反射的に応答してしまったが、俺は直後に自問する。あれだけのことをしでかす異人と共存だなんて、無理と断言してもいい。特に、異の主の残虐性は身に染みて分かった。

 けれども、心の奥底では、それでもなお共存を望む百合の言葉が引っかかるのだ。果たして、このまま異人を殲滅することが本当の解決法になるのか。


「まさかあんた、この機に及んで異人と共存だなんて考えてないでしょうね」

 俺の迷いを見透かしたかのように、冬子が指摘する。これには、二の句も告げなかった。

「さすがにあんたも分かったでしょうよ。異人は倒すべき相手だって」

 そう言って、冬子も孝へと哀悼を捧げるのだった。


 異人は倒すべきか否か。そんな悶着に悩んではいたが、事態は個人の思惑などはるかに超越するほど大きく動いてしまうのだった。

 そのきっかけは、あまりにも意外なところからもたらされた。

ご愛読ありがとうございます。これにて、第3部完結です。


かなり後味が悪い結末となってしまいましたが、異の主の残虐性を示すというのが大きな目的となっていますので。


次回から第4部となります。それに伴い、重要なお知らせもあるのですが、それは割烹なり、次回更新のあとがきなりでお伝えしようかと思います。

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