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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第3部 凶暴~バーサーク~ 第5章 最悪の敵と最悪の結末
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第127話 謎の異人

 まさに奇跡というほかない。一時的なのか完全なのかははっきりしないが、今のテイルは異人と称するにはあまりにも覇気がなさすぎる。それに、決定的なのは、あいつからあの悪寒が感ぜられないのだ。

「俺は一体どうしたんだ。それに、どうしてこんなところにいる」

「どうしてって、覚えていないの」

「不思議な世界に連れてこられたのは覚えている。けれども、そこから先は記憶が曖昧なんだ。途切れ途切れには思い出せるのだが、なんというか脈絡がなさすぎてごちゃごちゃしているというか」

 そう言いながら頭をかきむしる。異人最上位種テイルとして活動している間、人間としての意識が全くなかったわけではなさそうだ。でも、異人としての人格に支配されて、そのせいで記憶がバラバラになっている。テイル、いや、孝の話からするとそういうことだろう。


「それにしても驚いたぜ。いきなりあんなことするなんて、聖奈、お前いつから痴女になったんだ」

 茶化されて、聖奈は思わず赤面する。俺にも同じようなことしていたけど、さっきのはもろに唇に接触していたからな。同様の行為でも別格というかなんというか。

「ば、バカ! そんなの追及しなくていいわよ」

 聖奈は孝を軽く小突き、孝は笑いながら為すがままにされている。その姿はまさしく、恋人の戯れといったところだ。ちょっぴり羨ましくもある。ともあれ、この調子であれば、テイルが再び襲ってくるという可能性は皆無だろう。


「ところで、本題に戻るんだが、どうして俺はこんなところに」

「それなんだけどさ」

 真顔に戻った孝に、聖奈はこれまでの経緯を説明した。記憶にないとはいえ、誘拐事件を起こしたうえ、俺の仲間を二人も再起不能にしてしまったのだ。その事実を告げられるや、孝から血の気が引いていった。


「……そうか、俺はそんな化け物じみたことをしてしまっていたのか」

 意気消沈しながらも、孝はふらつきながら瞳の眼前に立つ。瞳はというと、身を縮ませながらも、鋭い眼光を飛ばしている。すぐそばにいるのは、自身を誘拐した犯人なのだ。改心している可能性が高いとはいえ、実直には受け入れがたい。そんな心境なのだろう。俺だって、誘拐犯がいきなり態度を変えたところで、それを素直に受け取ることができるほど器量よしじゃないさ。


 そんな瞳の様子を察したのか、孝はいきなり頭を下げた。

「すまなかった。異人とかいう化け物として活動している間は、本当に無意識だったんだ。けれども、君やその仲間にひどいことをしてしまったのは事実だ。そう簡単には償い切れないだろうけど、すぐにできること言えば、こうして謝るしかない」

「あ、あの。確かに、すんなりと許すかといえば、そうはいきませんけど、けれども、事情が事情ですし。その、もう人間を襲ったりしないっていうのなら、私は深くは望みませんよ」

 面食ってたどたどしくなりながらも、瞳は必至でなだめようとする。それに対し、孝はただただ頭を垂れ続けるのみであった。


「とにかく、このままここに留まり続けるのは色々とまずい。瞳を探して警察も動いているだろうし、私たちが一緒にいたんじゃ、話がややこしくなりそうだからな」

 所長が裏で手を引いている可能性もあるが、それでも、一切手掛かりを得ていないというのは考えにくい。最悪と仮定しては不謹慎だが、瞳がここにいると把握していることもありうるのだ。もし、機動隊を伴って強制突入でもされたら、一緒にいる俺たちがあらぬ嫌疑をかけられてしまう。ここは早々に脱出して、所長さんに頼んで隠ぺい工作を働いてもらうしかない。


 しかし、このまますんなりと帰らせてはくれそうになかった。脱出を図るため、気を失っている冬子を背負おうとした瞬間、並々ならぬ悪寒が全身を駆け巡ったのだ。まさか、こんな時に新手の異人か。冗談じゃない、こっちはまともに戦えそうにないのに。

 いや、なんだこの気配は。俺はふと、聖奈に目配せをする。彼女もまた、この不穏な気配を察知しているらしく、体を丸めている。そんな彼女の肩を抱き寄せる孝であったが、彼もまた険しい表情をしていた。


 どこからともなく発せられるこの気配。これまでに戦ってきた異人の比ではないのだ。本能的に対峙してはいけないとまで告げられているかのような圧迫感。

 やがて、例のもやが発生し、一人の男がその姿を現した。白装束を纏い、金色の長髪をなびかせた長身の男。細く鋭い眼光はまっすぐに孝を捉えている。


 軒並みならぬ悪寒から、こいつもまた異人であることには間違いがない。それに、こいつが出現してから、孝はわなわなと体を震わせている。

「馬鹿な。なぜ……」

 口ぶりからして、この異人と何らかの関係があったみたいだ。それに、彼が抱いている感情は明らかに畏怖であった。一体こいつは何者なんだ。

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