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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第3部 凶暴~バーサーク~ 第4章 テイルとの決戦
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第123話 聖奈の提案

 それと同時に、ろくに介入できなかった自分を悔やんだ。テイルが能力を駆使して巧みに防いでいたというのもあるかもしれない。でも、そんなのは言い訳に過ぎない。俺は、マスタッシュたちから異人についての話を聞き、やつらと本気で戦うことに萎縮していたんだ。

 冬子が手を抜いていたとは思えない。そんな彼女が敗れ去ったのだ。今更認識することではないが、やつらは本気でこちらを殺そうとしている。

 暴走している渡は本能のままに戦っているだけだろう。だが、自我がはっきりしているテイルは、その殺意を微塵も隠そうとはしていない。正直、情けなんかかけている余裕がない。少しでも手を抜いたら、即刻死につながりかねない。


 殺意を剥き出しにしている相手を前に、俺は全身を震わせる。恐怖が全くないわけではない。しかし、それ以上にある感情が昂っていた。身体がうずいて仕方ない。

 だが、俺より先に真っ向からテイルに飛びかかる人物がいた。それは、未だ暴走状態にある渡だった。破壊衝動に突き動かされている彼が冬子を倒した今、次の標的に定めたのは、すぐ近くにいるテイルといったところか。


 不意打ちにもかかわらず、テイルは表情一つ変えることはない。軽くあしらうように、渡に尻尾を叩きつける。みぞおちを打たれた渡は、呻いて片膝をつく。

「俺に協力的かと思ったが、やはり単に自我を失っているだけか。ならば、下手に動き回られるよりも、眠っていた方がマシだな」

 そう吐き捨てるや、額の角で渡の顎を掬い上げ、天上へと弾き飛ばした。渡が落下してくるタイミングに合わせ、遠心力を味方にした尻尾をお見舞いする。


 ろくに防御姿勢をとらなかった渡は、呆気なく壁へと激突する。戦闘において躊躇することがなくなった分、実力以上の能力を発揮できるようになったが、基礎的な身体能力の差は覆すことができなかったということか。


 とはいえ、今は達観している場合ではない。冬子に続いて渡も失ってしまった。聖奈は戦意を喪失しているため、実質戦えるのは俺だけということだ。反面、テイルも孤立無援状態だ。やつにはまだ手駒があるかもしれないが。

「おあつらえ向きにお前と一騎打ちになったじゃないか。安心しろ、これ以上仲間は用意してねえよ」

 俺の危惧を先取りしてか、そんなことを暴露してきた。あるいは、独力でも俺を倒せるとの自信の表れか。


 こうなれば、腹をくくるしかない。俺は精いっぱい翼を広げる。それに応じるように、テイルも尻尾を持ち上げる。出し惜しみなんかしていられない。俺はアイの能力も解放し、テイルの動向を凝視する。基礎的な身体能力で劣っていると判明しているのなら、相手の力を利用するしかない。カウンター戦法なんて器用な真似ができるとは思えないが、あいつに勝つのならそれしか勝機はないのだ。


 互いに腹の探り合いをしている最中、聖奈が無言のまま前に出る。

「なんだ、女。まずはお前から殺されたいのか」

 怒号を浴びせられるが、聖奈はゆっくりと首を振る。さっきまでは喚き、暴れ出していたのに、なぜだか妙に落ち着いている。

「ねえ、孝。本当に私が分からない」

「くどいぞ。孝なぞ知らん。俺は最上位種異人のテイルだ」

 あくまでそう主張するテイル。けれども、聖奈は引き下がらなかった。

「嘘でしょ。あなたは操られているだけなんだわ」

「いい加減にしろ、クソアマ!!」

 問答無用で振るわれる尻尾。「危ない」と声をかける間もなく、それは聖奈にヒットした。


 その勢いで数メートル飛ばされ、そのまま崩れ落ちる。俺は慌てて聖奈へと駆け寄った。

「この程度で吹っ飛ばされるなんて、大したことないな。大方、能力を一つしか持っていないだろう。そんなやつには興味はない。さっさと尻尾を丸めて逃げ帰れ」

 嘲笑するテイルだったが、それは俺たちの耳にはろくに届いていなかった。聖奈は握り拳で地面を叩いている。口惜しそうに歯をくいしばる彼女を前に、俺はその肩に触れることしかできなかった。


「なあ、翼。頼みがあるんだ」

 唐突に聖奈がそんなことを呟く。胸元をまさぐり、あるものを取り出した。それをそのまま俺に手の中に握らせる。俺は手の中にあったものを目にし、思わず息をのんだ。

「聖奈、お前まさか、これ」

「本来なら、私があいつの目を覚まさせてやりたいんだけど、私じゃ到底あいつには敵わない。だから翼、あんたにこいつを託しておく」

「でも待てよ。俺だってあいつに勝てるとは限らないぜ」

「今のままならそうね。でも、ひとつだけ、あいつに勝てるかもしれない方法があるわ」

 あるのか、そんな方法が。

「それには、あんたの同意が必要となるわ。正直、一か八かの賭けになるから」

 表情を曇らせる聖奈。もはや化け物と化したあいつを倒せるとしたら、常識外れの方法しかない。それがあるのなら、躊躇するわけにはいかないじゃないか。


「一か八かでもやってみるしかない。どんな方法なんだ」

 聖奈は俺の顔をまじまじと見つめ、一呼吸おいて言い放った。

「私が翼に細胞注射するのよ」

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