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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第3部 凶暴~バーサーク~ 第3章 誘拐された瞳
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第118話 もう一つの作戦

「正気を取り戻した私は、翼君たちについての情報を洩らすまいと必死でした。携帯電話から着信が幾度となくあったのは分かっていますが、それを利用すれば、翼君たちに連絡をとらされることは目に見えて明らかだったので、使いたくても使えない状態となっていました。

 けれども、頑な口を閉ざす私に対し、テイルは、『このまま口を割らないなら、そこらの人間を片っ端に襲ってもいいんだぜ』などと脅迫してきました。それでも飽き足りないのか、ついには私に直接的に攻撃を振るってきたのです」

 それを示すかのように、瞳の洋服は所々が破れ、生々しい傷跡が顕わになっている。


 やがて瞳は目に涙を浮かべ、嗚咽混じりで吐露し始めた。

「尻尾で叩かれ続けるうちに、私自身も身の危険を感じ始めました。このままだんまりを続けていては冗談抜きで殺される。だから……」

 それ以上を彼女の口から話させるのはさすがに酷である。攻撃を止めさせる代わりに、俺へと連絡した。おおよそ、そんなところだろう。

 自分の身の可愛さのために、俺たちを売った。曲解すれば、瞳の行動はそのようにも捉えられる。だが、この局面で、そのことについて責めるのはとんだへそ曲がりというものだ。そもそも、諸悪の根源は、俺への復讐という一点のみのために、こんな大事を起こした異人最上位種。瞳の必死の白露を前にしても、悪びれることなく尻尾をちらつかしているテイルに他ならない。


「おしゃべりはこれくらいでいいだろう。そろそろ、当初の目的を果たさせてもらう」

「あんさん、余裕こいてますけどな、こっちは異人の協力者含めて六人もおるんや。数から言えば圧倒的に優位なのはわいらってことを忘れんといてーな」

「それはどうかな。実は、僕たちの目的は翼だけってわけじゃないんだよな」

 思わせぶりにノウズは頭の後ろで手を組む。俺を誘い出すだけが目的じゃないって、どういうことだ。


 そして、その答えはすぐさま露呈することになった。

「異人の気配」

 冬子が叫び、ある一点へと顔を向ける。その先は、マスタッシュと百合の背後であった。彼らは異人ではあるが、今更気配もへったくれもないような……。

 否。俺たちの視線が集まったのとほぼ同時に、彼らの背後にあのもやが出現した。そこから細い腕が伸ばされ、がっちりと百合の肩を掴んだのだ。


 百合は必至に振りほどこうとするが、案外強く握られているのか、一向に手は離されない。

「油断したわね」

 もやから不気味にほほ笑む女の顔が出現した。そいつの全身が顕わになるにつれ、俺と渡は声をあげた。

「お前は」

「ヘアーやと」

 そう。その女の正体は、冬子からの罰ゲームでお使いに行った帰りに遭遇した、異人最上位種ヘアーだったのだ。


 ヘアーへ挑みかかろうとするマスタッシュだったが、飛び跳ねるようにノウズが接近し、がっちりと顎鬚を握りしめた。

「小童、どういうつもりじゃ」

「これも僕たちの作戦のうちさ」

「むしろ、私たちにとってはこっちが主な目的だったりするのよね」

 助けに入ろうとするが、それを遮るようにテイルの尻尾が伸ばされる。それが規制線の役割を果たしており、大きく迂回しないと百合たちのところにたどり着けない。だが、そんなことをしている間にも、二人はもやの中へと消えゆかんとしている。


「君たちは訳が分かっていないだろうから、教えとくよ。僕たちはテイルに協力するってのとは別に、主からこんな命令も受けてたんだよね。『翼に協力した異人であるブランクとマスタッシュを捕獲せよ』ってね」

「こいつらは主にその身を引き渡した後、処刑されるでしょうね。翼に協力し、異の世界でお尋ね者になっているとあれば、当然翼と接触して行動を共にしていると考えるのが筋。そもそも、私の場合は便宜上テイルに力を貸していただけであって、本当の目的はこいつらの捕縛なのよ」

「じゃあ、あの時に俺を探していたっていうのは」

「あんたを見つければ、その近くにブランクたちもいるって目算をつけていたからよ。まあ、あんたも一緒に捕まえられればめっけもんですけど、私はそこまで欲張りじゃないからね」

「そうそう。ミッションは確実に一つずつこなしていくのがベターってわけさ」

 会話の間中百合とマスタッシュはもがき続けるが、その抵抗もむなしく、大部分がもやへと吸い込まれていっている。

「じゃあテイル。後の奴らの始末は任せたよ」

 その言葉を最後に、二人はノウズやヘアーと一緒に異の世界へと幽閉されてしまったのだ。

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