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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第3部 凶暴~バーサーク~ 第1章 聖奈の過去と共存論争
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第104話 異人共存討論

「今更甘いこと言ってるんじゃないわよ」

 うろたえる俺を冬子が一喝した。咳き込みつつも、強い口調は崩さない。

「異人と戦うっていうのは、そういうことになるのは承知の上よ。それに、アブノーマルを元は人間だったなんて同情する必要はないわ。なにせ、あんな姿になったら、もう元に戻ることはない。そうでしょ」

「元には戻れないって、そうなのか」

 一同の注目がマスタッシュに集まる。逆の発想をすれば、人間から異人を生み出したのなら、異人を人間に戻すことができるはずだ。


 しかし、マスタッシュは今度は首を横に振った。

「もしかしたら、そんな方法もあるかもしれんのう。しかし、一度細胞注射を受けたが最後。元には戻れんと考えておいた方がよい」

「要するに、異人っちゅーのは、ゾンビと似たようなもんや。あんさん、仮にゾンビと出くわしたとして、元は人間だから殺せんとかぬかさへんやろ」

 現実にはありえない仮定ではあるが、同意せざるを得ない。ゾンビと戦ってきたというのなら少しは気がまぎれるが、それでも胸のざわめきを鎮静化させるには至らなかった。


「それで、話は変わるけど、そこのマスタッシュと百合と言ったかしら、あんたらは、人間と異人とで共存したいとか考えているわけよね」

 そうだ。一番大切なことを打ち明けようとして、ずっと機会を失っていた。異の世界の出来事を話す中で軽く「マスタッシュと百合は人間と共存したいと考えている」と触れたが、その時はそのまま流されてしまった。そもそも、今回協力してもらう条件として、「人間との共存を考えている」と冬子たちに話して協力を求めるということになっていたのだ。

「まさにその通りじゃ。異人たちの間で、人間と共同生活を送ったブリザードは多大な影響を及ぼしておる。異の主は、倒すべき相手とつるむなど言語道断という考えで、それに同調するものたちがほとんどじゃ。しかし、わしやブランクのように、一部の異人たちは、ブリザードの例により、人間と共存ができるのではないかと思うようになった」

「私の母がきっかけだったというの」

 冬子は言葉を失った。人間である冬子の父と結婚したブリザードは、実質上共存を果たしたということになる。この点をうまく使えば、冬子を説得できるかもしれない。


「俺も、異人はそんなに悪いやつばかりじゃないと思うんだ。現に、ここにいるマスタッシュさんや百合は俺に協力して絶対零水を手に入れるための手助けをしてくれたんだし。それに、本当に敵意があるんだったら、孤立無援で異の世界に飛び込んだ俺を、躊躇なく倒していたはずだ」

「私からもお願いします。百合と触れ合っていて感じたのですが、彼女は記憶があまりにも持続しないということを除けば、ほとんど普通の人間みたいなものです。それに、異世界へと渡る術なんて、本当に敵対している相手に易々と教えるとは思えません。

 私自身も、できることなら争うのではなくて、分かりあうことができたらと日ごろ考えていました。皆さんには、そのきっかけを作ってもらいたいのです」

 俺と瞳の主張を前に、冬子たちは思案しているようだった。しばらく沈黙が流れたが、それを破ったのは渡だった。


「あんさんらの主張も一理ありそうやな。翼はんと戦った時、そこの百合はんが身を呈してわいの攻撃を受け止めたことがあったんや。人間倒そうとしとるもんが、そんなことするとは思えへん」

 分かってくれたのか、渡。これで、多数決ならかなり優位に立つことができる。

 しかし、そこから一変して、より強く渡は言い放った。

「けれどもや。それですんなり仲良くしましょうとは決断できへん。異人は、無理やり人間をさらって、化け物に変えてきとるんやで。そんなん、ほぼ人殺しと同じちゃいますか。そいつらと和解なんて、到底できそうもないやろが」

「すんなり和解できないという点は私も同意するな」

 渡に便乗して、聖奈も意見する。

「さっき話したけど、異人は私の恋人を無理やり異世界に連れ去った張本人なのよ。そいつらと和解しようだなんて無理に決まっているじゃない。もっとも、孝が戻ってくるというのなら、考えてあげてもいいけど」

 あんな体験談を聞かされた後だから、ぶっきらぼうな物言いに誰も反論できなかった。そして、とどめとばかりに冬子が開口する。

「私は当然のごとく、異人との共存は無理と断言するわ。私の両親がその成功例というのは分からなくはないけれども、その両親を殺したのは紛れもなく異人なのよ。異人は滅ぼすべき存在であって、相いれるなんてことはありえない。あなたたちがいくら頭を下げようが、その考えに変わりはない」

 彼女が難攻不落だというのは分かったつもりではいたけれども、その決意を突きつけられると、その確固たる意志の強さがまざまざと思い知らされる。

 結局、和解について肯定派と否定派で平行線になってしまった。こうなるとは予想していたけれども、牙城を切り崩すのは並大抵ではないことを突きつけられた形となる。

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