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異人~こととびと~  作者: 橋比呂コー
第3部 凶暴~バーサーク~ 第1章 聖奈の過去と共存論争
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第101話 プレゼントと遭遇

 一番人気のアトラクションだけあり、待ち時間だけで数時間は消費してしまう。ようやく乗り終わった時には昼過ぎになってしまっていた。そこから更に待ち時間を経て昼ご飯を食べ終わると、ろくに遊べるような時間は残されていない。なので、作戦を変えて、待ち時間が少なそうなアトラクションを狙って遊びつくした。

「最初にガラガラ・スネークに乗っちまうと、残りのアトラクションがチンケに見えるよな」

「そりゃ仕方ないわよ。あのコースターだけはかなり本格的だったから。あくまでここでは雰囲気を楽しまなくちゃ。あ、あそこにいるのムッコロじゃない」

 なんだかんだで、私の方が孝を連れまわしていた。腰が曲がっている彼を強引に連れ出して、カマキリをデフォルメしたムッコロ・マンティスと対面させた。ムッコロはひょうきんな顔で、ムッキーに続いて人気のキャラだ。

「そうだ。せっかくだから写真撮ろうよ」

 渋る孝を並ばせ、スタッフのお姉さんにカメラを渡す。嫌そうな彼だったけど、いざレンズを向けられると、ノリノリでピースを繰り出した。まったく、まんざらでもなかったじゃないか。


 日も暮れかけたところで、私たちはお土産屋に入った。定番の樹液クッキーやムッキー人形を買ったところで、孝があるものを突き付けてきた。

「これさっき買ったんだけど、お前に片方やるよ」

「え、でも、これって」

 それは、太陽と月のネックレスだった。「プリンセスサン&プリンスムーン」というアニメ映画の主人公たちが身に着けていたもので、パーク内にもこの映画をモチーフにしたアトラクションがある。

 このネックレスは、ある噂があるために、お土産の中では屈指の人気を誇っていた。それは、「太陽のネックレスを持った女性と月のネックレスを持った男性は生涯仲睦まじく暮らせる」というもの。映画に出てくる姫と王子になぞらえただけではあるが、このせいか、これを買い求めるカップルが続出しているという。

 そう、カップルがこぞって買いあさっているのだ。そんなものを私に渡してくるなんて。

「あんた、もしかして……」

「こ、こっぱずかしいこと俺の口から言わせるな」

 まともに私の方を注視できておらず、あさっての方を向いたままだ。周囲の人々は、お土産選びに夢中で、私たちの様子に気が付いていないものの、なんとなく気恥ずかしい。素早くぶんどってやろうかと思ったけど、丁寧に太陽のネックレスをその手に収める。

「ありがとう、大切にするよ」

 満面の笑みをふりまくと、孝は赤面しながら「お、おう」とたじろいだ。


 こうして、私たちの楽しい一日が何事もなく終わる。そう思っていたけど、悲劇はあまりにも突然訪れた。

 すっかり日も暮れてしまい、私たちは千木市内でご飯を食べてから帰ることにした。

「そうだ。千木で知る人ぞ知る名店があるんだ。ここまで来たんだから、食べにいかないか」

 名店といっても、ラーメン屋らしい。孝め、どんだけラーメン好きなのよ。


 知る人ぞ知るというだけあり、表通りから外れて、人通りの少ない路地へと踏み入れていく。中心市街地にこんなうっすらとしたところがあったなんて意外だった。十八歳以下入店厳禁のいかがわしい店を想像してしまったが、あいにく彼はそういうことには無頓着みたいだ。女だったら色気より食い気を地で行くタイプだからな。

「あれ、こっちだっけ」

 ふと立ち止まり、携帯電話を操作する。どうやら、店の場所はうろ覚えだったらしい。

「おいおい、ちゃんと案内してくれよ。大学生にもなって迷子になったなんて冗談じゃないわ」

「いくらなんでも、そんな間抜けは犯さないって。たぶん、この近くだと思うんだが」

 私たちが立ち往生しているのは、シャッターが閉め切った商店街だった。昼間なら多少は人通りがあるだろうが、夜も更けてしまっては深夜営業している繁華街に人が流れるのは当然だ。足がすくみだし、知らずのうちに孝の体に密着する。孝は胡乱にこちらを覗いたが、構わず携帯を操作し続ける。


 その時、ふと全身に悪寒が駆け巡った。次の瞬間、道端に放置されていたゴミ箱がひっくり返された。

「誰かいるのか」

 孝が声を上げる。それに応えるかのように、ぬったりとそれは姿を現した。


 それを目にするや、私たちは絶句した。人間ではないと一瞥で判別できる、あまりにも異様な存在。マネキン人形だが、その顔には目や口がない。そして、特異なのは尻から伸びる細長い物体。認めたくはないが、意思を持っているかに揺れるそれは、尻尾としか思えなかった。

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