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Run away! 1

子は親に似る。

作者: 貴幸




父は優しかった。

休みの日は弟と休んでくれたし、俺ともあそんでくれた。

母は優しかった。

いつも俺や弟が父と遊んでいるのを眺めていた。

ただ、その目は決して我が子を見るような目ではなかった。


我が子を見るような目ではなかった。





高梨ハルト、中学一年生。





これまで何も気にする事なんてなかった。

親の顔なんて、よく見えなかった。

背が伸びたからだろうか、親の顔が見えるようになった。

笑ってなどいない母の顔が。

夜更かしをするようになったからだろうか。

親の本音が聞こえるようになったのは。




「私、もう疲れたの」




夜中、母の叫び声がきこえた。

父の慰める声が聞こえた。

母を慰める為のベッドの軋む音が聞こえた。


たえられない。


たえられない。




弟は何も知らない。

つい最近までの俺みたいな顔をしている。

俺と似た顔だ。

俺と似た声だ。

父に似た、白髪よりの銀髪だ。


「ムカつく。」


親に似た弟がムカつく。

親に似た俺がムカつく。


全部、嫌いだ。




「母さん、母さんは俺の事を愛してますか。」




母は目を見開いてこっちを見た。

あっちこっちに目線がむいて、言い訳を探してるみたいで。


「も、もちろんじゃない…」


その態度が酷くイラっときた。


「目を見て言えクソババア!!!!」


母のあんな顔、初めて見た。



「私が好きなのはお父さんなの!!!!アンタじゃないのよ!!偽物!!!!」



最悪だ。





深夜、母の言葉を聞いた。



「私、二人を殺すわ。」



は?



ゾッとした。

その声のトーンは本気で、何処か俺のケンカしている時の声に似ていた。

父の止めようとする声は母には届いていなかった。




明日俺と弟は殺される。










「秋人はお母さんとお父さん、好き?」




「うん…まぁ、普通。」




その親は明日お前を殺しに行くんだぞ。









生きたい。













怖くて眠れない。


冗談なわけが無い。


弟が心配になり、俺は弟が生きているか確認しに行く事にした。




今夜はなんて静かなんだ。




ふと、足音が聞こえている事に気づいた。


反射的に息をひそめる。


なんで、父は止めに入らないんだ?


寝たのか?


母の、ドアを開ける音がきこえた。





「母さん。」





まだ、信じたくないけど、その人間の名前をよんだ。



「ハルト、どうしたの。」



手には薬を持っていた。


「それは何?」


「よく眠れる薬よ。」


嘘をいえ。


「秋人に何をする気だ。」


「お父さんと一緒に寝かせてあげるのよ。」




は?




「母さん…父さんは?」


「殺したわ。」


狂っている。


「なんでこんな事…するんだよ!」






「愛してるからよ。」






薬を手放すと母は真っ先に机の上にあるシャーペンを掴んだ。


何のためらいもなく、俺の頬にそれを刺した。


「うあああああ!!!!うああああ!!!!!」



肉に刺さった。

頬を触ると血が手についた。


アレを脳に刺されたら重症は逃れない。


でも、母は昔より衰えてて、よけれないはやさではなかった。


荒れ狂った母を押し倒し、手を床に押し当てる。


掴んだ手に力を込めるとミシミシといい母は涙を目に浮かべた。



俺の目からも涙が出そうだ。



でも、俺は知っているから。

あなたが人を殺せる人だってこと、知っているから。





子は親に似るって誰かが言ってたんだ。





「母さん、俺こんなに大きくなったんだよ。」



俺はそう言って床に散らばった薬を五六粒つかみ無理やり飲ませた。




寝ているハズのベッドを見ると、そこには目を見開いて光景を眺める弟がいた。





「人殺し…」





違う、俺はお前に死んでほしくなかったから。

なんて言い訳も通用しない。





そのあと、死んだ父と母の遺体が引き取られた。

自殺用の薬だったため、子を育てる余裕がなく自殺した、と言う死亡原因が作られた。

頬の傷は、親の自殺を止めようとした時についたとされた。

弟は俺の事を冷たい目で見るようになった。










俺は、初めて人を殺した。







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