三岐鉄道北勢線
鉄道王国日本。しかしながらその多くは地方を走るローカル線です。そのローカル線に乗ってこそ、見えてくる旅がある。そんな旅への一助になれば幸いです。
三重県桑名市。名古屋から電車で30分も掛からず到着できるこの街。ハマグリが特産品として有名だが、今回はそんなものにも目もくれず、とあるローカル線の旅を紹介していこう。
桑名駅は近鉄名古屋線、養老鉄道、JR関西線のジャンクション。特急列車も停車する基幹駅だ。名古屋からでも、大阪からでも行き易い場所にある。
そんな桑名駅東口を一端出て、バスターミナルを抜けた場所にあるのが、今回の旅の始発駅である三岐鉄道西桑名駅。三岐鉄道北勢線の起点駅である。
上下とも昼間は30分に1本の間隔で、列車が出る。ただし、この内終点の阿下喜まで直通するのは一本だけなので、要注意。
まずはフリー乗車券を買おう。このフリー乗車券は三岐鉄道の鉄道線が前線1日乗り放題で1000円と言うお得な切符だ。他にも終点の阿下喜にある温泉施設の入場券とセットになった割引券などもあるから、切符を買うときは用途に応じて使い分けよう。
なお北勢線は終点阿下喜まで乗りとおすと1時間近く掛かる。食料の確保や食事をしておくなら、桑名駅周辺で済ませておくのも手である。ここにはコンビニや、少し歩けば牛丼屋などもある。
さて、切符も買って必要物資も手に入れて、いよいよ乗車だ。西桑名駅は1面1線の駅で、入ってきた列車がそのまま折り返し、阿下喜行きもしくは楚原行きとなる。
入ってくる列車は、桑名駅で見たJRや近鉄の車両よりも二回りも小さい、まるで玩具のような電車だ。
それもその筈。北勢線はレール幅762mmの特殊狭軌の路線だ。かつて規格が小さく、各地で建設ラッシュが起きた小さな鉄道が全国にあったが、現在この線路幅で残っている路線は北勢線と、同じく三重県四日市を走る近鉄内部・八王子線、そして富山県の黒部峡谷鉄道だけだ。
そして、軌間762mm、1067mm、1435mmの鉄道が一同に会するのは全国でもここだけである。桑名駅南よりにある踏み切りは、その三つの期間を跨げる貴重な場所となっている。
さあ、入ってきた列車に乗り込もう。黄色とオレンジを主体に塗装された三岐カラーの電車は、見るからに明るい、近代的な印象を醸し出しているが、乗り込んでみると意外と使い込まれている電車だとわかる。
それもその筈、この路線で走っている電車は一番若い車両でも既に竣工から20年以上経過しているのだ。中には1950年代に製造された古豪さえある。
そんな列車たちが黄色とオレンジを主体とした塗装で厚化粧をし、さらには床置き式ながらクーラーを搭載し、現代の電車に近づこうとしている姿は、滑稽でありながら中々愛着の湧く光景だ。
北勢線の電車には全車両冷房付き、編成中一部の車両のみ冷房つき、冷房無し編成とバラつきがあるので、乗る時に要注意だ。
なお北勢線は平成15年に累積赤字のために、近鉄から三岐鉄道に経営移管されているが、昭和40年に近鉄に合併されるまでは、三重県のバスで御馴染みの三重交通(正確にはその分社の三重電気鉄道)の路線であった。さらにこの三重交通へは戦時統合によって編入されたもので、大正3年の開業から昭和15年までは最初の母体である北勢鉄道と言う、歴史を辿っている。
西桑名駅を出た電車は近鉄とJRと並走するように走るが、すぐに急勾配を上がり、急カーブを曲がって両路線をオーバークロスする。この部分の橋脚がJR関西線の複線化の妨げになっているとも言われているが、それはさて置きここから北勢線はJRと近鉄に別れを告げて、桑名の市街地へと入っていく。
特殊狭軌の車両は、その構造の性格上、現在電車の主流となっているカルダン駆動を採用するのは難しく、北勢線で走る全ての車両が、昔懐かしい吊りかけ駆動の車両となっている。
ゴーと言う昔懐かしいモーター音が聴けるのも、この路線の醍醐味だ。
北勢線の途中駅は11駅で、終端の2駅を併せて合計13駅。全線20kmを乗りとおすと1時間弱掛かる。発車してすぐに停車する馬道、西別所はかつての経営母体であった近鉄時代の面影を良く残しているのが特徴である。
ただし、近鉄時代の特徴であった交換駅での右側通行は、その後通常の左側通行へと改正されてしまい、現在では思い出の風景となっている。
平成15年に三岐鉄道は近鉄から経営移管を受けたが、その際に経営の上下分離と共に、地元自治体からの補助を受けつつ、様々な近代化施策を開始している。
それまでの北勢線は、車両の近代化こそある程度進められていたが、駅設備の陳腐化や、全列車非冷房などサービス面では、員弁川を挟んで対岸を走る三岐鉄道三岐線に大きく水を開けられてしまっていた。
パーク&ライドなども進んでおらず、乗客は右肩下がりであった。
しかし平成15年の経営移管と共に、この状況は大きく変貌した。その目玉と言えたのが、高速化事業で、これは車両の高速化対応改造、曲線の改良、駅の統廃合など多岐に渡り、わずか10年で北勢線は見違えるほどに変わった。
特に大きく目を引いたのが、駅の統廃合や既存駅の改良、そして車両の改良であった。
こうした施策が成功して、乗客の減少になんとか歯止めが掛かり、緩やかではあるが上昇傾向にある。しかしながら、現在に至るも赤字経営は解消されておらず、また地元自体の補助に関しても永続できる見込みはなく、今後のさらなる乗客増に期待を掛けたい所だ。
3番目の停車駅である蓮花寺駅は、近鉄時代から設置されている駅だが、先述した改良事業によって平成21年に130m阿下喜方に移転している。この移転に伴い、駅前広場が整備され無料駐車場も設置された。コミュニティバスの乗り入れも開始され、乗客が大幅に増加した。
4番目の停車駅である在良は近鉄時代そのままの駅であるが、こちらも駅舎などの改築が行なわれている。東名阪自動車道の真下にあるのが、なんとも言えない雰囲気を醸し出している。
島式1面を持つ駅で、列車の交換も可能であるが、北勢線の交換可能駅には安全側線を有している駅と有してない駅があり、この駅は有していないため、上下の列車が同時に構内進入が出来ない。
5番目の停車駅である星川駅は、北勢線の高速化事業でそれまで存在した坂井橋駅が阿下喜よりに500m移転して設置された駅だ。移転扱いだが、実質新設された駅だ。
駅の前にはスーパーマーケットや大型の書店があり、また大規模なパーク&ライド型の駐車場も併設され、乗降客も非常に多い駅となっている。もしフリー乗車券で乗車し、時間に余裕があるのなら、ここで下車するのも悪くはないだろう。
なお三岐鉄道の路線で三岐線の方は、以前からの営業ポリシーで無人駅を極力少なくすると言う方針のため、無人駅はたったの2つしかない。それに対して北勢線に関しては、高速化事業と並んで駅集中管理方式がとられ、多くの駅が無人駅かつ自動券売機と自動改札機を備えた駅となっている。
6つ目の停車駅である七和駅は、西桑名から7km地点にあり、この辺りから市街地から郊外へと風景画変わってくる。
7つ目の停車駅である穴太駅は、近鉄時代からの駅で位置も変わっていないが、三岐鉄道譲渡後にホームがちょうど線路を挟んで反対側に移設されている。これに伴い駅舎の新設や駐車場、駅前広場の新設がなされ、利便性が大幅にアップした。
既存駅ならびに新設駅のこうした意欲的な改装を見ると、三岐鉄道や沿線自治体のやる気と言うものを実感させられるだろう。
実際にこうした策が効を奏して、乗客の減少にはなんとか歯止めが掛かっている。その一方で、未だに赤字経営からの脱却は出来ておらず、以前から出ている存廃問題が何時ぶり返してもおかしくないとも言えよう。
そうしたこの路線の将来に関して想いを馳せるのも、また一興だろう。
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