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第4話 覇王との出会い

この話、次の話と一緒にして投稿しようか悩んだのですが、やはり字数の事を考えるとそれは出来ませんでした。

「何だありゃ? どこかの軍隊か?」


「恐らく。……砂塵の規模から推察するに結構な数だと思いますよ」



零治と亜弥は舞い上がる砂煙を見ながら言う。

舞い上がる砂塵は大規模で、その原因でもある騎馬隊らしき影の数も十や二十ではなく、相当数の部隊で編成されている。



「あれは恐らく、陳留の刺史の軍勢でしょうな」



と、星が零治達の疑問に答える。

しかし、この世界がとりあえず三国志の時代だという事は理解しているが、あくまでその程度でしかないし、何より零治は三国志の事も知ってはいるが一般の知識レベルと大差がない。

なので零治は星が口にした刺史についての捕捉を求める。



「しし? 亜弥。刺史って何の事だ?」


「確か監察官の事だったと思いますが」


「監察官か……」


「兄さん。どうしますか? あの速度だとすぐに接触しますよ」


「…………」


「零治殿。我々はこの場を去りますが、零治殿達はどうなさいますか?」


「お兄さん。よろしければご一緒しませんかー?」


「ん? それは一緒に来ないかという意味か?」


「はいー。風はお兄さんといろいろお話をしてみたいと思ってますのでー」


「ふむ。それはよい考えだな。何より零治殿がご一緒してくだされば、いつでも手合わせができますからな。ふふ……」


(やっぱコイツ厄介な奴だったわ……)



星は風の提案に同調しながら零治に意味深な視線を向け、含み笑いを漏らした。

まあ星の事とはひとまず置いておいてだ、風の提案は悪い話ではないだろう。

少なくとも彼女達は零治達に対して友好的な態度を取ってくれているし、何より今の零治達の現状は、行く当ても無ければ頼れる知り合いも居る訳ではない。

見知らぬ土地を当ても無く彷徨い歩くよりは、風の提案を受け入れる方がはるかにマシだろう。



「はぁ、もう。この二人はまた勝手に話を進めて……」



戯志才は星と風の言動に呆れ果てた表情を向けながら溜め息を吐く。

先程の零治との件もそうだったが、戯志才は過去にも星と風の二人には散々振り回されている経験があるのだ。

もういつもの事だと慣れているつもりではいるが、やはりそのせいで苦労が絶えないので彼女達のフリーダムっぷりは戯志才の頭痛の種でもあった。



「零治。ホントにどうします? あまり考えてる時間はありませんよ」


「いや……オレはここに残る」


「零治。私達みたいな人間が軍に接触するのは正直言って得策ではないと思うんですが……一応、理由は訊いておきましょうか」


「亜弥。オレ達は今、致命的な問題を抱えてるのに気づいてないのか?」


「致命的な問題?」


「オレ達……この国の金を持ってないだろ」


「「あっ……」」


「ん~?」



零治の言葉で亜弥と奈々瑠の表情が凍りつく。

臥々瑠は状況を理解してないようで首を傾げるだけだった。

お金が無い、おまけに見知らぬ土地で行く当ても無ければ、頼れる知り合いが居る訳でもない。

その事が別世界ではどれほど致命的な問題なのかなど想像するまでもなかった。



「だから金の稼ぎ口を確保する必要があるだろ。まさか盗賊紛いな事をする訳にもいかないじゃないか。それに……」


「それに?」



零治は星達にチラッと視線をやり、聞かれないように小声で話しかける。

この先の話は星達に聞かれる訳にはいかない。とりあえず彼女達は零治達の事を異国の旅人、という程度にしか認識していないだろうし、零治にとってもその方が好都合だ。

実は原因不明だが未来からやって来た、などと説明しても頭がおかしい奴としか思われないのがオチなのは考えるまでもない事だ。



「もし軍関係の仕事に就く事ができたら、元の世界に戻る方法の情報も集める事ができるかもしれないからな」


「なるほど。確かに」


「だからオレはここに残る。お前達はどうする?」


「そういう事なら、お付き合いしましょう」


「私は兄さんについて行くだけです」


「アタシも~♪」


「そういう訳だ。すまんが三人とはここでお別れだな」


「そうですかー。奈々瑠ちゃんと臥々瑠ちゃんには訊きたい事があったのですがー……残念ですねー」


(どうせ頭に付いてる犬耳と尻尾の事なんだろうなぁ)



零治は風が何を訊きたがっていたのか即座に察し、心の中で苦笑する。

それにこの先、奈々瑠と臥々瑠の犬耳と尻尾の事は間違いなく他の者達からも指摘を受けるだろう。

この世界では悪目立ちする二人の犬耳と尻尾についてこの先どう誤魔化すかも一つの課題だが、その事はひとまず置いておき、今は目先の問題を解決するのが先決である。



「まあ、零治殿がそう決めたのなら我々は何も言いませんよ。少し残念ではありますがな」


「まっ、今からやって来る刺史とやらが取るに足らない奴なら後から追いかけてやるよ」


「ふふ。左様ですか。なら少しは期待してもよろしいのでしょうな?」


「あまり期待されても困るんだが……」


「二人とも! 急がないと!」



戯志才が星達に早く来るように急かす。

彼女は目的があって旅をしているのだ。なので戯志才にとって今は軍の関係者と接触する状況は好ましくないのである。



「はいはいー。では皆さん、道中お気をつけてー」


「ああ。風も気をつけてな」


「皆さん。縁があればまた会いましょう」


「まったね~♪」


「皆さん。お元気で」


「零治殿!」


「ん?」



最後の最後で星が大声で呼びかけるので、零治は何事かと星の方に視線を向ける。

切迫している状況だというのに、まだ何かあるのかと言いたげな表情で零治は乾いた風が吹き付ける中、星と視線を交わした。



「零治殿……次に会う時は私が勝たせてもらいますぞ」


「フッ。悪いがそう簡単に勝ちを譲るつもりは無いぜ」


「ふふ。それでこそ私が認めたお方だ。では、ごめん!!」



星は零治と再戦の約束を交わし、意味深な笑みを浮かべなら先にこの場を立ち去った風と戯志才を待たせまいと、足早に二人の後を追い、颯爽とした様子でその場を立ち去って行った。



「おやおや。随分と星に好かれたようですね?」


「うるさい……」


「む~~……」



奈々瑠はその事が気に食わないのか、あからさまに不機嫌な表情で頬を膨らませた。零治に密かに恋心を抱いている奈々瑠にとって、これ以上不愉快な事など無いだろう。



「ん? どうした奈々瑠。何をむくれてるんだ?」


「別に。何でもありませんよ……」


「んー?」



奈々瑠は不機嫌な様子でプイッとそっぽを向きながら零治の疑問に対しても素っ気なく答え、零治は奈々瑠の心境を理解できないまま首を傾げていた。

その光景を傍らで見ていた亜弥は胸中で呆れたように呟く。



(やれやれ。こっちはこっちで不憫ですねぇ。まあ、彼の鈍感さは今に始まった事ではありませんが……)


「さて……お前ら、いつでも動けるようにはしとけよ。場合によっては逃げる事になるかもしれないからな」



零治の言葉に三人は黙って頷く。それからすぐに……。



「これはまた……」


「……コイツは予想以上の数だな」



零治達の前に騎馬隊の軍勢がやって来て、あっという間に取り囲まれてしまう。

しかも数が数だ。場合によっては逃げるつもりでいたのに、辺りには森なども存在していない開けた荒野であるため、仮に逃げたとしても振り切るのは難しいかもしれない。

そして零治達の前には、指揮官と思われる三人の女性が馬に跨ったまま姿を見せたのだ。



「華琳様! こやつらは……」


「……どうやら違うようね。連中はもっと年かさの、中年男だと聞いたわ」


「どうしましょう。連中の一味の可能性もありますし、引っ立てましょうか?」


「そうね……。けれど、逃げる様子もないという事は……連中とは関係ないのかしら?」


「我々に怯えてるのでしょう。そうに決まってます!」


「姉者。相手を過小評価するのはよくないぞ」


「あら? 秋蘭は違うと言うのかしら?」


「はっ。少なくともこの四人……特に、あの赤毛の男は油断ならぬ相手だと私は思っております……」


「ふぅん……」


(やれやれ……品定めされてるみたいで気に食わんな)



部隊の総大将と思われる金髪でカールのかかったツインテールの髪型をした少女が自分達の事を品定めするかのような視線で観察してくるため、零治は若干の苛立ちを覚える。

その時だった。何か重要な事を伝えたいのか、亜弥はさり気なく零治の隣まで近寄り、耳打ちをしてきた。



「零治、ちょっと……」


「ん? 何だよ?」


「零治。あの旗、牙門旗を見てください」


「牙門旗?」



亜弥がえらく真剣な表情で牙門旗を見ろと促すので、零治は騎馬隊内で掲げられ、風になびきながらひるがえっている旗に視線をやるが別に変わった所など何も無い。



「アレがどうかしたのか? 別に変った所はないが……」


「そうじゃありませんよ! 旗に書かれてる字ですよ……」


「旗の字?」



旗の字を見ろと亜弥は言ってきたので、零治は眼を凝らし、もう一度風になびいている旗を観察する。

最初は強くなびいてるせいで旗に書かれてる字が分からなかったが、すぐに風は穏やかになり、旗の揺らめき具合も緩やかになったので全体を見やすくなり、零治は改めて旗をよく見つめる。その旗に書かれていた字は……。



「……『曹』に……『夏侯』の字が二つ……という事はコイツら……」


「ええ。確証はありませんが、曹操、夏侯惇、夏侯淵の可能性が高いですよ……」


「って事はオレ達、とんでもない人物に出くわしたって事か?」


「ええ。ただ、相変わらず性別は女性になってるみたいですが……」


「まあその話はとりあえず置いといて、話をしてみるか。会話の内容から察するに人を捜してるみたいだしな」



とりあえずいつまでも黙ったままという訳にはいかないだろう。

下手をしたら誤解を招き、犯罪者扱いされる可能性も否定できない。

向こうが話しかけてこないのなら、こちらが話しかける以外に手段は無いのだ。



「なあ……」


「何?」



少女は零治を威圧するような視線を向けてきた。

しかし、零治からすればこの程度の視線など大した事ではなかった。

いま目の前に居る少女よりも、遥かに威圧的な存在感を放つ人物を零治は知っているのだから。



「ひょっとして、人をお捜しか?」


「あら、なぜそう思うのかしら?」


「いや。会話の内容からそう思っただけだ。それともオレの見当違いか?」


「へえ……。貴方、なかなか出来る男みたいね。名は何と言うのかしら?」


「人に名を訪ねるなら、まず自分から名乗るのが礼儀だと思うが……まあいいだろう。オレは音無零治だ」


「音無……そう。……ええ。貴方の言ってる通り、私達はある賊を捜してるのよ。何か知ってるのなら聞かせてもらえるかしら?」


「華琳様! こんな奴の話を信用するおつもりですか!?」


「春蘭。今は少しでも情報が必要なのよ。それに信用するか否かは話を聞いてから判断すれば済む話よ」


「むう……華琳様がそう仰るのなら……」


「続けてもいいか?」


「ええ。構わないわよ」


「その捜してる賊の特徴は?」


「そうね……背は貴方より少し低くて、中年のヒゲ面の男なんだけれど」


「背がオレより少し低くて……」


「中年のヒゲ面……」



零治と亜弥は少女に特徴を聞かされ、考えるように……と言うより何か思い当たる節があるように賊の特徴を口にする。



「……他に特徴は?」



だが今の情報だけでは判断するのは難しいだろう。身長もさる事ながら、ヒゲ面をした中年の男など捜せばどこにでも居るはずだから。

零治はもう少し情報を得ようとさらに質問を投げかけ、その問いに今度は片眼が前髪で隠れた青髪の女性が答える。



「他には特に無いな。強いて言うなら、背の低い鼻が尖った小男と、背の高いやたら太った大男を連れ立ってるぐらいだな。どういう訳か、その二人はすぐ向こうで何者かに殺されていたのだが……」


「「あっ……」」



奈々瑠と臥々瑠が何かを思い出したように揃って声を出す。

いま聞かされた情報から零治達が考えている内容は確定だ。

彼女達が捜している賊とは、間違いなく先程殺した輩達の事を指しているのだろう。



「どうしたの? 何か知ってるのかしら?」


「あー……アンタらの捜してる賊って……アレの事か?」



零治は身体を少し横にずらし、女性達にも死体が見えるように仕向け、後ろ手で右手の親指を使ってアニキの死体を指さした。



「「「……っ!?」」」



三人の女性はアニキの死体を見て、一瞬言葉を失う。

それはそうだろう。何しろ殺され方がチビやデブに比べれば明らかに尋常ではないのだから。



「誰か! すぐにあの死体を調べてきなさい!」


「はっ!」



すぐに我に返った金髪の少女が近くの兵士に指示を出す。

指示を受けた一人の兵士がアニキの死体に駆け寄り、何かを捜すかのように懐などを探って調べるが、すぐに少女の下に戻って来た。



「どう?」


「いえ。あの男は持っていませんでした。ただ、奴の背中にこんな物が刺さっていたのですが……」


「これは……短剣かしら?」



兵士が少女に手渡した物、それは零治がアニキに投げつけた投擲用のナイフである。

兵士から零治のナイフを受け取った少女は、クルクルと角度を変えたりしながら、初めて見るナイフを興味津々の視線で見ていた。



「多分そうだと思いますが、なにぶん見た事もない形をしてますし、随分と小さいので何とも言えませんが……」


「そう……。いいわ、下がりなさい」


「はっ」


「……あの男が持っていないと言う事は、他の仲間が持ち去ったと言う事かしら?」


「華琳様。もしや、この四人の誰かが……!」



黒髪の女性が殺気の籠った視線を零治達に向けてきた。

状況から見て彼女達が何か物を捜しているのは間違い無いだろうし、状況証拠からこの黒髪の女性は零治達が犯人だと思っているのだろうが、零治達からすれば迷惑な話である。



「確かにその可能性が無いとは言えないけれど、それは彼らを引っ立てて調べれば済む話。それよりも。……貴方達に訊きたい事があるのだけれど」


「何だよ?」


「あの男をあんな風に殺したのは誰なの」


「オレだが……それがどうかしたのか?」


「そう……春蘭」


「はっ」


「貴方、人の手足をあんな風に切断する事は出来るかしら?」



金髪の少女はアニキの死体を見ながら黒髪の女性に問いかける。

そして彼女の視線は、綺麗に切断されたアニキの両足に向けられていた。



「はあ……。切断は出来るかもしれませんが、あそこまで綺麗に切り落とすのは流石に……」


「うむ。いくら姉者の剣の腕でも、あそこまで綺麗に切断は出来ないだろうな……」


「そう……。音無と言ったわね」


「ああ」


「あれは、その腰に下げてる剣でやったのかしら?」


「そうだが……?」


「そう。その剣、見せてもらえないかしら?」


「これをか?」


「ええ」


「別に構わんが、アンタに『触る』事が出来るのかな?」


「それはどういう意味かしら?」



零治の意味深な言葉を耳にし、少女は零治をジロリと睨み付けるが、零治はその視線をさらりと受け流し、当たり障りのない返答をしてその場を誤魔化した。



「いや、こっちの話だ。まあ、見たいんなら…………ほらよ」



零治は腰の専用ベルトから叢雲を鞘ごと引き抜き、無造作に少女の方に放り投げた。

少女は慌てて両手を使って放り投げられた叢雲を受け止める。



「きゃっ!? ……貴方ねぇ、手渡すのならもう少しマシな……って何よ、触れるじゃない」


「ほお……。叢雲が『触る』事を『許可』するとはな……」


「ええ。珍しい事もあるものですね」


「しかし……『抜く』事は出来るかな?」


「さっきから何を訳の分からない事を言ってるの? 抜く事が出来ない訳……」



少女はそう言いながら叢雲を鞘から引き抜こうとするが……。



「……えっ? あれ?」


「華琳様? いかがなさいました?」



黒髪の女性が問いかけるが、少女はそれに構わず、叢雲を鞘から引き抜こうと更に手に力を込める。



「どういう事? 剣が……抜けない?」



だが、どれだけ手に力を入れて引っ張っても叢雲は微動だにせず、まるで鞘と柄の境目で強力な接着剤でも使ってくっついているのではないかと思ってしまうほどで、抜ける気配は全く無かった。



「華琳様。私が代わりに抜きましょうか?」


「え、ええ……」



金髪の少女は困惑の表情を浮かべながら叢雲を受け渡すために黒髪の女性にそれを差し出す。

黒髪の女性は何気なく叢雲に右手を伸ばすが……。



「痛っ!?」



黒髪の女性が叢雲に触れた瞬間、苦悶の表情を浮かべながら声を上げ、慌てて右手を引っ込めたのだ。



「ちょっと!? どうしたの、春蘭!」


「わ、分かりません。その剣に触った瞬間、何やら手に衝撃が走って……」


「どういう事……。貴方! この剣に一体なにをしたの!?」



黒髪の女性が右手の甲をさすっていたので、叢雲に何か仕込んでいたのではないかと少女は思い、キッと零治を鋭い視線で睨み付けるが、零治は落ち着いた態度で少女の疑問に答える。



「落ち着けよ。オレは何もしてないぜ。オレはな……。ただな、その剣は普通の剣とは違うんだよ」


「それはどういう意味なの?」


「その剣にはな、意思のようなものが宿ってるのさ。その剣に認められなければ、抜く事はおろか触る事すら出来ないんだよ……」


「剣に意思が宿ってるだと? ハン! 貴様、頭がおかしいんじゃないのか?」



まるでおとぎ話のような内容の話を聞かされ、黒髪の女性はいかにもバカにしたかのような視線を零治に向けてきた。

もちろん零治も相手がこう出る事は予測済みだ。いきなりこんな話を信じろと言われても無理だろうが、これ以外に説明のしようが無いのだ。

しかし、金髪の少女はそのような態度は見せず、真剣な表情で零治の話に耳を傾けていたのだ。



「春蘭。黙りなさい」


「ですが華琳様」


「春蘭……」


「は、はい……」


「ふむ……仮に貴方の話が本当だとして、なぜ私は触る事ができたのかしら?」


「さあな? その剣、叢雲がアンタの中に眠る何かの素質を見出したから触る事を許可したんじゃないのか? ただ、そいつの所有権は現時点ではオレにあるから抜く事までは許可しなかったみたいだがな……」


「ふぅん……」



少女はジッと右手に持っている叢雲を興味深げな視線で見つめる。

今の話しを信じているかは分からないが、少なくとも零治から聞かされた話を前にして、ますます叢雲に興味がわいたのは見て分かる。



「まだ気になるのか?」


「ええ」


「はあ……。ならそいつを貸せ。オレが代わりに抜いてやるよ」


「貴様ぁ! そんな事を言って、この場で華琳様を亡き者にするつもりだろ!」


「おいおい。この状況でそんな気を起こすバカがどこに居るんだ? だいたい、そういう時のためにアンタらがついてるんだろうが。腰に下げているその剣は飾りか?」


「何だと!?」



零治の言葉に黒髪の女性は激昂し、自身の持ってる剣の柄に手をかける。

その怒り狂う姿から今にも斬りかかりそうな勢いなのが見て取れる。



「姉者!」


「止めるな! 秋蘭!」


「やめないか、姉者。確かに言い方は気に入らないかもしれないが、その男が言ってる事は正論だぞ」


「むう……」


「零治。貴方もですよ。もう少し言葉を選んで下さい」


「へいへい……」



青髪の女性が間に入ってくれたおかげで、黒髪の女性は不満げながらも落ち着きを取り戻してくれたので剣の柄から手を離し、何とか流血沙汰は回避する事が出来た。

しかし、零治の言い方にも問題はあっただろう。亜弥はその事を咎めるが、当の本人には反省の色が全く見受けられなかったが。



「まあ、私に抜く事が出来ないのなら、貴方に頼むしかないわね。それじゃあ、お願いできるかしら?」


「はいよ」


「くっ! 貴様、妙な真似をしたら命は無いと思えよ!」


「お~。怖い怖い」



まだ零治の事を信用していない黒髪の女性は自分の剣の柄に手をかけながら警戒の眼差しを向けながら警告するが、零治はそのセリフをどこ吹く風と受け流し、少女から受け取った叢雲をおもむろに鞘から引き抜いてみせた。



「ほら……」



零治は叢雲を横倒しにして水平に持ちながら女性達の前に突き出し、三人の女性はマジマジと陽光を煌めかせる叢雲の刃を見つめる。



「むう……随分と細い剣だな」


「うむ、確かに。しかし、こんな形の剣は今まで見た事もないな」


「ええ。そうね。その上、刃は恐ろしいほど鋭く出来ているわ。これなら確かに、あの男の足をあそこまで綺麗に切断できたのも頷けるわね……」


「……もういいか?」


「ええ。ありがとう」



少女は納得してくれたようなので、零治は叢雲を鞘に納め、そのまま専用ベルトに戻す。

その時、零治はふと思い出したように顔を上げた。まだ回収していない物があるのだ。



「あぁ、そうそう。その短剣も返してくれるとありがたいんだが」


「あら? これも貴方の物なの?」


「ああ」


「フン! 貴様の物だという証拠でもあるのか?」


「証拠ならあるぞ……ほら」



零治は纏っているコートを開き、下に縫い付けている鞘から一本ナイフを取出して自分の物だという証拠を提示してみせる。



「なっ? 同じ物だろ?」


「……ふむ。確かに同じ形をしているから嘘ではなさそうね。なら、お返しするわ」


「どうも」



零治は少女からナイフを受け取り、軽く振って刀身に付着している血を振り落とし、残った血はハンカチで綺麗に拭き取ってそれをコートの下の鞘に収納した。



「さて、華琳様。この者達の処遇はいかがいたしましょうか?」



と、青髪の女性が金髪の少女に尋ねる。

彼女達が捜している物は見つからなかったが、それを奪った賊とは接触をしていたのだ。

少なくとも今の彼女達にとって零治達は貴重な情報源という事になる。



「そうね……。気になる事もあるし、とりあえず街まで連れて行くわ」


「御意」


「まだ連中の手掛かりがあるかもしれないわ。半数は辺りを捜索。残りは一時帰還するわよ」


「はっ!」


「そういう訳だから貴方達、悪いけど一緒に来てもらうわよ」


「……どうせ拒否権は無いんだろ?」


「あら。分かってるんじゃない。なら、さっさと歩きなさい」



零治達は騎馬隊の軍勢に連行される形で移動を始める。

そんな中、零治は懐に手を入れタバコを取り出そうとするが、亜弥に小声で止められた。



「零治。私がさっき言った事を忘れたんですか……」


「……別に問題ないだろ」


「大ありですよっ! この世界にタバコは存在しないし、彼女達は軍隊なんですよ。この状況でタバコに火を点けるとこを見られて、変な疑惑を持たれたらどうするんですか。勘弁してくださいよ……」


「はいはい……」


「ん? さっきから何をブツブツ言ってるの?」


「何でもありません……」



とりあえず逃げるような事態にはならずに済んだが、この先、自分達がどのような扱いを受けるかは分からないのだ。

見知らぬ世界に放り出された今の零治にとってはタバコだけが唯一の楽しみなのだが、亜弥の言ってる事も一理ある。

仕方なく零治はタバコを吸うのは我慢し、心の中で大きな溜息を吐くのだった。

作者「…………」


零治「……ん? おい、どうした?」


亜弥「何か喋りなさいよ」


作者「ネタが尽きそうだ。どうしよう……」


臥々瑠「小説の?」


作者「いんや。この後書きでの話題が」


奈々瑠「はぁ……。何かと思えば……実にアホらしいですね」


作者「悪かったな」


零治「おっ。今回は早い段階で認めたな、『アホ』だと」


亜弥「ええ。良い兆候ですね。『アホ』と自覚できたことは」


作者「そこっ! いちいちアホを強調するなっ!」

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