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第3話 狼と龍の対決

今思えば、やはりここと前の話の描写が原因だったのかもしれませんね。

残虐云々の指摘をされた原因は……。

それでも変える気は無かったのでそのままですがね。

良い事はたまにしか起こらないのに、悪い事は立て続けに起こるもの。

今の零治達の状況はまさにこの言葉が当てはまると言えるだろう。

これ以上、現地の人間に絡まれて事がややこしくされないためにと思い、零治は奈々瑠と臥々瑠に周囲を警戒しているように指示したのにこの有様だ。

零治達に声をかけてきたのは三人組の女性。恐らく後ろで自分達の事を見ていた者達なのだろう。

だが、今の零治にとってこの女性達が何者かなどはどうでもいい事。彼が今もっとも気にしているのはこの状況についてだ。

零治はジロリと奈々瑠と臥々瑠に鋭い視線を向け、どういう事だ言わんばかりに説明を求めた。



「奈々瑠、臥々瑠……」


「は、はい……」


「ひっ!」


「オレはお前達に周囲を警戒していろと言ったはずだが……これはどういう事だ……?」



零治に名を呼ばれるなり、奈々瑠と臥々瑠は鋭い視線に気圧され、二人揃ってビクリと肩を震わせた。

普段の零治ならこの二人にここまで険しい顔を向けたりはしないが、今は話が別だ。

ただでさえ訳の分からない状況に放り出されているというのに、更にはもっとも憎悪を抱く人種に絡まれて気が立っているのだ。

そして見ての通り、ここから更に状況はややこしくなってしまった。

いや、これに関しては零治本人にも少なからず原因はあるのだが。




「す、すみません。この男の態度の変わりぶりが面白かったものでつい……その……油断……してしまいました……」


「ご、ごめんなさい!」



だがそれでも、零治の指示に対して失態を演じてしまった事に変わりはない。

それに下手に言い訳をすれば零治の怒りの炎に油を注いでしまうのは眼に見えて分かる。

なので二人は素直に失敗を認め、奈々瑠はバツが悪そうに、臥々瑠は涙眼で頭を大きく下げた。



「ったく。お前達の訓練はもっと厳しくする必要があるようだな。……で、なんだ、お前達は?」


「零治、少しは丁寧に話せないんですか……?」


「おっと、これは失礼しましたね。お母様……」



零治は奈々瑠達から三人組の女性陣に視線を移し、声をかけはするものの、気が立っているせいもあるのだろうが、その口調があまりにも喧嘩腰なため、見かねた亜弥が口の利き方について注意をするが当の本人は反発的な態度を取る始末だ。



「はぁ……まったく。今日の貴方はやけに機嫌が悪いですね……」


「気のせいだろ? オレはいつも通りだ……」


「「絶対不機嫌だ……」」



零治はいつも通りと言い張るが、誰がどう見ても不機嫌にしか見えない。

奈々瑠と臥々瑠は零治に聞こえないように口を揃えてぼそりと呟く。



「よろしいですかな?」



三人組の中央に立つ、背の高いナースキャップにも似た帽子を被った、ショートカットでしっぽ髪のある青髪の女性が話しかける。



(……この女、すげぇ服装してるな。オレの世界じゃあり得ない格好だぞ、アレ……)



零治は無言でまじまじと青髪の女性の衣服を観察する。

白が基調になっている浴衣のような服を身に纏っていて、袖の部分にはアゲハチョウの羽のような模様もあしらわれている。

ここまでなら普通かもしれないが、服の丈がミニスカート並みに短い上にスリットが腰の所ギリギリまであるため、かなり過激な格好をしている。

零治は改めてここが自分達が居た世界とは完全に別世界なのだと痛感する。



「……どうなさいました? 私の顔に何か付いていますかな?」


「ん? あぁ、悪かったな。で、お前達は何者だ?」


「何。ただの通りすがりの旅の者ですよ」


「その通りすがりの旅人が一体なんの用だ? まさか……コイツの知り合いって訳じゃないだろうなぁ……?」


「いえー。そういう訳じゃないですよー」



零治の問いに頭に人形? のような物を乗せペロペロキャンディーをくわえ、ウェーブのかかった金髪の少女が間延びした口調で代わりに答える。



「あ?」



零治は女の子の頭部に有る人形らしき物を見て、間の抜けた声を出してしまう。

なぜ頭に人形を乗せているのだ、なぜ手で持たないのだ。

零治の頭の中にはその事に対する疑問が浮かび上がると同時に、この世界の人間の感覚に対して理解に苦しんだ。



「どうかしましたかー?」


「いや……別に……」



まあ、今はその事を気にするのはやめておこうと思い、零治は当たり障りのない返事をして少女の問いを誤魔化しはしたが。



(なんだ。頭に乗せてるあの人形は……?)



零治は少女の頭に乗ってる人形に疑問を抱き。



(この時代に……ペロペロキャンディー!?)



亜弥は少女がくわえてるペロキャンの存在に驚き。



(随分ノロノロと喋る子ね。あんな喋り方をするなんて、変わった子)



奈々瑠は少女の喋り方が独特なので首を傾げながら興味深げな視線を向ける。



「…………」


「ん? 臥々瑠、どうしたの?」



が、ただ一人、臥々瑠だけは無言で少女の事を凝視していたので、奈々瑠がどうしたのかと問いかけるが、臥々瑠には聞こえておらず、奈々瑠の言葉を無視してそのままツカツカと少女の方へ歩み寄って行った。



「じーー……」


「んー? なんですかー?」


「飴を凝視してるな……」


「ひょっとして欲しいんでしょうか?」


「多分そうじゃないかと。あの子、食い意地が張ってますから……」


「ねえ……」


「はいー?」


「その飴ってどこで売ってるの?」


「「予想通り……」」


「はぁ……」



零治と亜弥は自身の考えが的中したので口を揃えて同じセリフを言い、奈々瑠は自分達の置かれている事の重大性を全く理解せずにマイペースな振る舞いをする妹の様を見て、呆れたように頭を抱えながら溜め息を一つ吐く。



「おおっ! そのような質問をされるとは予想外でしたねー」


「ん? 何が?」


「いえいえー。お気になさらずー。それとこの飴の事ですがー、残念ながら風の口から教える事はできないのです」


「へえ~、君の名前って……」


「っ!? 臥々瑠っ!」


「んぐぅっ!?」



危うく臥々瑠が少女の名前を口にしそうになったので、奈々瑠は素早く近づき、背後から臥々瑠の口を即座に塞いでそのままズルズルと引きずって少女から引き剥がした。



「ぷはぁっ! 何するのさ! 奈々瑠っ!」


「何をやってるのアンタは! あの男のさっきの話を聞いてなかったの!?」


「え? アイツ何か言ってたっけ?」


「はぁ……もういい。奈々瑠、とりあえずお前は臥々瑠が余計な事を言わないように黙らせとけ」


「はい。すみません、兄さん……」


「風、貴方もよ。このままでは話が先に進まないわ」



と、眼鏡をかけた女の子が風と名前らしき言葉を口にした少女の行動をたしなめる。

見た所彼女には零治に話がある様子はないが、恐らく青髪の女性に仕方なく付き合ってるといった所なのかもしれない。



「おおっ。それは失礼いたしましたー」


「やれやれ……。で? オレ達に何の用だ?」


「いえ、大した用ではないのですが……ただ、貴殿の口から何やら聞き捨てならぬ言葉が聞こえたもので……」


「あぁ? 亜弥、オレなんか言ったか?」


「零治……貴方、分かって言ってるでしょう……」



青髪の女性の言葉に対して、零治はワザとらしい態度を取りながら亜弥に視線を移して何の事かと問いかける。

その姿に亜弥は心底呆れたと言わんばかりに零治にジト眼を向けた。



「フッ、一体なんの事だかさっぱり分からんな。……あぁ、そっちの用に関しては、こっちの用件が片付くまで待ってもらえるか?」


「いいでしょう」


「亜弥。コイツから他に訊く事はあるか?」


「いえ、もう特には。とりあえず場所に関しては分かりましたし……」


「だそうだ……」



と、零治は言ってアニキに向き直った。

だがその視線には相変わらず殺気が籠っており、解放しようとする様子が一切感じられなかった。



「ほっ。じ、じゃあ……もう、解放……してもらえるんですか……?」


「……オレの質問に答えられたらだな。それで『終わり』にしてやるよ」


「ひっ! ま、まだあるんですか……っ!?」


「そう怯えるな。これは個人的な質問だ。すぐに済む。だから正直に答えろよ……」


「は、はいっ!」


「では一つ目の質問だ。さっきの言動や行動から察するに、お前は盗賊か何かか?」


「そ、それは……」


「……どうなんだ?」


「ひっ! は、はい! そうです!!」


「そうか……ちゃんと正直に答えられたな。では、二つ目だ。さっきのは初犯か? そんな訳ないよなぁ? 過去に何度も同じ事を繰り返してきたんじゃないのか?」


「はい! し、してき、き、きました!」



その様子は完全に捕虜に対する尋問であり、アニキは助かりたい一心で零治の問いにガタガタと身体を小刻みに震わせながら正直に答えていた。

これが済めば助かる、アニキはそう思い込んでいるのだろうが、付き合いの長い亜弥は理解していた。

これが済んだ後、零治が次にどのような行動を取るのかを。



(おーおー。バカ正直に答えてますねぇ。まっ、いくら正直に答えた所で彼の『結末』は変わらないんですがね……)


「次だ。お前は今まで襲ってきた奴は全員殺してきたのか?」


「い、いいえ……。い、一部の連中は……その、ど、奴隷商人に……う、売り飛ばしたり……」


「売られた連中は一生奴隷生活か。それでは死んだも同然だな……。では、次の質問だ。お前さっき命乞いをしたな? ひょっとして今まで殺してきた連中も同じように、お前に命乞いをしたんじゃないのか?」


「は、はい!!」


「そいつらはこう言ってなかったか? 『助けてくれ』、『死にたくない』、『殺さないでくれ』……と」


「はい! い、い、言ってましたっ!」


「そうか。では、最後の質問だ。お前は一度でも……その頼みを聞き入れてやったのか?」


「そ、それは……その……」



アニキは言い淀む。その時点で答えは分かりきってるのだが、それでも零治は厳しく問い詰めた。



「答えろっ!」


「い、いいえ! き、聞き入れてません!」


「そうか……」



零治はアニキの答えを聞き終えるなり静かに一言呟き、何かを考えるように視線を落とす。

そこへ、アニキがおずおずと話しかけてくる。



「そ、それで……その……」


「ん? あぁ、そうだったな。おい。奈々瑠、臥々瑠」



零治は後ろに控えている奈々瑠達に呼びかけ、二人は黙ったまま零治に視線を向けた。

もちろん奈々瑠と臥々瑠も零治が何のために自分達に声をかけたのか、そしてこれから何をしようとしているのかを理解していた。

そして、零治は頭に浮かべている考えを実行に移したのだ。



「コイツが逃げないように両腕を押さえてろ……」


「へっ?」



アニキは状況が理解できないまま奈々瑠達に両腕を左右に引っ張られる形で拘束されてしまい、二人が腕を掴んだのを確認した零治はアニキの胸ぐらから手を離し、二、三歩後ろに離れる。



「ちょっ、ちょっと! 何をする気だよ!?」


「何って? 貴様の処刑だが?」



零治の口から告げられる死の宣告。

それを聞いたアニキの顔が絶望の色に染まる。



「そ、そんな! 質問に答えたら助けてくれるって言ったじゃないか!!」


「貴様、何か勘違いしてるんじゃないか? 質問に答えたら『終わり』にしてやるとは言ったが、『助けてやる』とは一言も言ってないぞ……」


「ひっ! い、嫌だーっ! やめてくれ! くそっ! コイツ、は、離しやがれ!!」



アニキは二人を振り解こうと身体を揺さぶって抵抗するが、ただの人間が戦闘獣人バイオロイドの怪力に敵う訳がなかった。



「おい、あまり暴れるな。手元が狂う……」


「お、お願いします! 殺さないで! もう盗賊からは足を洗います! だから、助けてください!!」


「貴様は今まで殺してきた連中から何度そのセリフを聞いてきた。それに……貴様のような奴を生かして帰すほど、オレはお人好しじゃないんでな……」



零治はゆっくりと居合いの構えを取り、アニキの死へのカウントダウンは刻一刻と迫り来る。

逃げる術など無い。アニキに残された道は座して死を待つのみ。



「安心しろ、すぐには殺さん。貴様には、貴様の犯した罪の重さを身を以って知る必要があるからな……」


「嫌だーーっ! やめてくれえぇぇぇ!!」


「聞こえんな……」



零治は無情の言葉を言い放ち、同時に素早くしゃがみ込んで叢雲を抜刀し、アニキの足に目がけて横一文字に薙ぎ払う。



「斬っ!」



叢雲を振り抜いた零治は薙ぎ払い時の勢いに身を任せながら身体をグルリと百八十度回転させ、アニキに背を向ける形で動きを止めた。

辺りが静寂に包まれ、乾いた風が吹き付ける中、アニキと事の成り行きを見守っていた三人組の女性陣は何が起こったのか理解できず、キョトンとしていた。



「奈々瑠、臥々瑠、ご苦労だったな。もう離していいぞ」



零治はその場からゆっくりと立ち上がり、アニキに背を向けながら奈々瑠達に開放するように指示を出し、奈々瑠と臥々瑠は言われた通りにアニキの腕を離し、無言で零治の方へと足を進めていった。

アニキはパチクリと眼を瞬かせ、軽く両腕を上げながら全身を見回すが、傷らしき物はどこにも無いし、痛みも感じない。両手を握ったり開いたりを繰り返せば感覚もちゃんと伝わる。少なくとも死んでいる様子はどこにも無かった。



「へっ? ……あれ? 生き……てる? へ、へっへっへ。なんだよ。なんともねぇじゃねぇか! 脅かしやがって! このバカが!」


「フッ。遺言はそれだけか……?」


「へっ?」



自分が生きている事を理解するなり、アニキは零治の背に向かって馬鹿にした態度を取りながら怒鳴り散らすが、零治は口の端を吊り上げながら冷笑し、右手にある叢雲を軽くブンッと振って刀身に付着している何かを振り落としたのか、零治の足元からピチャッと軽い水温が響く。

そして音がした場所には、何者かの血が飛び散っていたのだ。



「では、生き地獄を味わいながら……死ね……」



零治は叢雲を右手の中でクルンと一回転させ、切っ先を鞘に押し込み、そのままゆっくりと中へ納めていく。

そして、零治が叢雲を鞘に納め終え、パチンという音が辺りに響いた次の瞬間。



「えっ……?」



アニキは仰向けに地面の上に倒れた。なぜ自分は地面に倒れたのか、アニキは理解できなった。

疑問に思ったアニキは上半身を地面から起こし、自分が立っていた場所を確認する。その視線の先には……。



「っ!?」



切断された自分の足だけがそこには残っていたのだ。



「ぎゃああああああああ!!」



脚が切断された事を理解した瞬間、アニキの両脚の断面から身体中に激痛が走り、悲痛の叫び声を上げながら地面をのた打ち回る。

そしてそれに呼応するように切断面からは大量の血が、まるで噴水のような勢いで噴き出し、辺りに血の海を作り出したのだ。



「あ、足がっ! オレの足があぁぁぁぁ! 痛てぇ! 痛てぇよぉぉぉぉ! うあああああああああ!!」


「……フンっ!」



激痛で地面をのた打ち回るアニキに零治は表情に影を落とし、まるで道端に転がっている石ころでも見つめるかのように見下した侮蔑の視線を向け、忌々しげに鼻を鳴らした。



「零治、流石にこれはやり過ぎ……っていうかアレうるさいんですけど……」


「どうせすぐに死んで静かになるさ……」



いつの間にか辺りが静かになっていたので、零治と亜弥はアニキの方に視線を向ける。

その先には零治の言う通り、アニキは激しい痛みと大量の失血のショックで絶命していた。



「ほらな……」


「まったく貴方は……あそこまでする必要があったんですか?」


「あの人種を生かして帰した所で、どうせよそで同じ事を繰り返すだけだ。ならば、ここで息の根を止めておいた方が世のためだろ……」


「それはそうかもしれませんが……」


「ならこの話は終わりだ。それより、コイツらの用件を済ませなければな。……待たせたな」



必要な情報を手に入れ、アニキを文字通り処分し終えた零治はゆっくりと女性人達の方へ向き直り声をかけるが、三人の女性達は零治の取った行動を前にして唖然としていた。

ここが三国志の時代の世界ならば、これは別に珍しい光景ではない。むしろ日常茶飯事と言っていいくらいだ。事実、彼女達は人死にには慣れている。

ならなぜ彼女達はここまで唖然としているのか。それは言わずもがな、零治の殺し方が異常すぎるからだ。

先程零治はすぐには殺さないと確かに言っていたし、彼女達もその言葉を耳にしていた。だが本当にやるとは思っていなかったのだ。

戦時中に捕縛した捕虜を拷問にかけて情報を訊き出すためとか特別な理由があってしたわけでもなく、ただ単に言った事を実行した。零治にとってはそれだけの事だが、この女性達からすれば、理由も無く意図的にすぐに死なないように殺すという零治の行動が理解できず、底知れない恐怖を感じていたのだ。



「どうした。何か用があったんじゃないのか……?」


「……えっ!? あ、あぁ、そうでしたな」


「ちょっ!? ちょっと、星殿っ!」


「どうした? 稟」



目の前で起こった光景で思考が停止した状態の所を零治に声をかけられ、我に返った青髪の女性は話を改めて始めようとしたが、眼鏡をかけた女の子が止めるように女性の着物の裾を引っ張り、小声で耳打ちしてきたので青髪の女性もそれに習って小声で返事をした。



「どうした、じゃありませんよ! この男に関わるのは危険だと私は思うのですが……」


「なぜだ?」


「なぜって、いくら相手が賊とはいえ、あんな残酷な殺し方を平然とするような男ですよ! どう考えても異常としか思えませんよ!」


「確かに私も眼を疑ったが……だが、そういう訳にもいかんのだよ。あの男が先程言った言葉を私は黙って見過ごす事ができんのでな……」


「ですが……」



青髪の女性は眼鏡をかけた女の子の意見に同意こそするが、首を縦に振ろうとはしなかった。

彼女も青髪の女性が言いたい事は理解している。だがそれでもこのまま進んで零治に関わろうとするのには賛成できなかった。

眼鏡をかけた女の子は旅先で培った経験から零治に対する警告音を発しているので、何とか青髪の女性に考え直してもらおうと説得の言葉を探していたが、その時、それまで無言だった金髪の少女が口を挟んできたのだ。



「稟ちゃん」


「風?」


「稟ちゃん。ここは一つ星ちゃんに付き合ってあげませんかー? 星ちゃんはこう見えて頑固な所がありますしねー」


「…………」


「それに風もこのお兄さん達の事が少々気になりますのでー」


「はぁ……もう、分かりましたよ。好きにしてください……」



眼鏡をかけた女の子はとうとう観念したように両手を軽く上げ、呆れ果てた表情で嘆息して首をやれやれと言わんばかりに横に振った。

彼女は旅を通してこの二人の事はよく理解している。こうなっては何を言っても無駄なのだと。



「すまないな、二人とも」


「いえいえー」


「さっきから何をコソコソと話をしている。用が無いんなら行かせてもらうぞ……」


「あぁ、これは失礼」



零治は三人のコソコソした態度に苛立ってるのか、足で地面を一定のリズムで叩きながら訝しげな表情を向けていたので、青髪の女性は軽く会釈をして詫びの言葉を述べ、二、三歩前へと進み出た。



「で? 用件は何だ?」


「何、貴殿が先程言っていた言葉の件について……ですよ」


「…………」



零治は黙ったままおもむろにコートの内側をゴソゴソと漁ってタバコを一本取り出し、女性達に見えないように手で隠してながらジッポライターで火を点けて煙をくゆらせ、その煙は揺らめきながら風に乗って亜弥達の居る方へ流れていく。



「フーー……」


「零治……」


「なんだ?」


「私達の置かれている状況、本当に理解しているんですか……?」


「もちろん理解しているさ」


「だったらタバコを吸うのはやめてもらえるとありがたいんですがねぇ。それだけでも充分に目立つ行動ですから。それに……」


「あん?」


「ココナッツミルクの甘ったるい匂いが風に乗ってこちらに流れてきますので……」


「はいはい、なら火を消せばいいんでしょう? お母様。……フーー……」



零治はこれ以上亜弥に口うるさく言われたくないと思い、さっさと残りのタバコを一気に吸い、コートのポケットから携帯灰皿を取出し、蓋を開いて吸殻を捨てて灰皿を閉じ、再びポケットの中に納めた。



「まったく。ブラックデビルのどこがいいんですか? 私には理解できませんね」


「タバコその物が真っ黒でイカしてるじゃないか。だいたい甘ったるい云々に関してはチェリー味のブラックストーンを吸ってるお前には言われたくないんだがな」


「いいじゃないですか。好きで吸ってるんですから」


((どっちもどっちだと思うんだけど……))


「……続けてもよろしいですかな?」


「ん? あぁ、悪かったな」



完全に放置され、自分達だけで勝手に話を進めていたので、青髪の女性は零治に呆れた視線を向けながら声をかけてきたので、零治は謝りこそしたものの、その姿には悪びれている様子が一切感じられなかった。

そんなやり取りを少し後ろで見ていた女の子二人組みは零治が吸っていたタバコに興味心を抱く。



「何なんでしょうねー? さっきお兄さんが口にくわえていた物はー?」


「さあ? 何やら煙が出ていたようだったけど、火を使ったって事? でも、どうやって火を点けたのかしら? 火打石を使ったようには見えなかったし……それに聞き慣れない言葉を使っていたのも気になるわね……」


「そうですねー。ますますお兄さん達に興味がわきましたのですよー」


「はぁ……この子ったら……」


「気になると言えばー」


「ん?」


「あの二人も気になりますねー」



と、言いながら金髪の少女は奈々瑠と臥々瑠の二人に視線を向けるので、眼鏡をかけた女の子もその視線の先を追い、二人に視線を向けた。



「あの二人がどうかしたの? 確かに先程の賊を倒した手際は見事だったけど、別に気になるような事は……まあ、確かに服装はかなり変わってるけど、それ以外に気になる事は……」


「いやいやー。風が言ってるのは服装の事ではなくてですねー」


「え? じゃあ何が気になるって言うの?」


「稟ちゃんには見えませんかー? あの二人の頭に付いてる犬のような耳がー」


「犬のような耳?」



眼鏡をかけた女の子はその言葉の真偽を確認するように、かけている眼鏡のツルを右手で摘まみながら奈々瑠と臥々瑠の頭を注視し、それからすぐに二人の頭に付いているとんがった犬耳を確認できた。



「あっ! 確かに犬耳のような物が付いてるわね。……でも、あれってなんなのかしら? 付け耳?」


「むむむー。付け耳にしてはよく出来てますねー。ちょっと触ってみたいのです。それにあの二人、何やら尻尾のような物も付いてるみたいですしねー」


「尻尾?」


「はいー。羽織ってる外套のせいで分かりにくいですが、腰の辺りから何やら髪の毛とは別の毛が垂れ下がってるのが見えるでしょうー?」


「ん~……? た、確かにそれらしき物があるわね……」



今度は奈々瑠達の腰付近を注視すれば、脚の間からは髪の毛とは別のフサフサした毛が垂れ下がっているので尻尾の存在も確認できた。

これにより眼鏡をかけた女の子も少しだけ零治達の存在が気になりだしたが、いま一番気にするべき事はそこではない。

二人は零治達の会話の行く末を後ろから無言で見守った。



「オレがさっき言った言葉の件ねぇ。……それはひょっとして、『真名』って風習を下らないと言った事か?」


「ええ。そうですよ」


「で、オレにどうしろと?」


「何。貴殿が『下らない』と言った事を訂正していただきたいと思いましてな……」


「…………」


「我らにとって真名は己の生き様のような物。故に我らは己の真名を誇りに思い神聖視している。そうであるように真名と言う風習その物も尊い物だと思っている。直接我らの真名を呼ばれた訳ではありませんが、風習その物を下らないと称されるのはいささか我慢ならんのですよ」



青髪の女性は顎に手を添えながら優雅な笑みを浮かべつつ丁寧に言う。

決して気に障るような物言いではなかったが、零治は黙ったままだった。

そこへ不穏な空気を感じ取ったのか、亜弥が小声で釘を刺すように話しかけてくる。



「零治。頼みますから、これ以上事をややこしくする真似はしないでくださいよ」



只でさえ今は状況が厄介なのだ。ならばこれ以上事態をややこしくしても何の意味も無い。それどころか悪くなるだけなのは眼に見えて分かる。

ここは素直に自分の非を認め、謝ればいい。それで事は丸く収まるのだ。

亜弥はそういう意味合いも兼ねて零治に懇願するが、無情にもそれはバッサリと斬り捨てられてしまう事になった。



「……断る」


「なっ!?」


「ちょっ!? 零治っ!」


「お前の言ってる事も分からん訳ではないが、だからと言って『はい、そうですか』と自分の言った事を簡単に覆すほどオレは意志の弱い人間ではない」


「ほお……」



青髪の女性は眼スゥッと細めて零治を睨み付ける。

しかし、女性のそんな心情など気にも留めない零治はさらに言葉を続ける。



「それにだ、その風習のおかげで下手に相手の名を呼ぶ事もできない。どこの誰が考えたか知らないが面倒な事この上ない。しかも許可無く呼んだら殺されても文句は言えないだぁ? 確かに死人に口無しとは言うが、それじゃ墓が幾つ有っても足りやしないぜ」


「なるほど。そういう態度をお取りになるか……」


「納得のいかないって顔だな……」


「当然でしょう」


「フッ……このままでは埒があかんな。どうするか……ん?」



自分のセリフで話がややこしくなったというのに、零治は女性の反応を楽しむように不敵な笑みを浮かべながら解決策を探そうと思考を巡らせるが、その時不意に零治の視線が女性の持っている、二又に分かれた深紅の穂先が特徴的な槍に止まった。



「お前、槍を持ってるという事は武術の心得があるのか?」


「ええ。それが何か?」


「……なら勝負で白黒つけるのはどうだ?」


「勝負ですと?」


「そうだ。その槍でオレを負かす事ができたら、さっきの言葉を取り消してやる……どうだ?」


「ほお、面白い。……では、そちらが勝った場合は?」


「別にどうもしない。興味も無いしな……」


「それでは張り合いが無い気がするが……まあ、いいでしょう」



零治は亜弥達には有無を言わさずに青髪の女性と二人で話をどんどん先へ進めてしまい、決闘話にまで発展してしまった。

ただ謝れば済むだけの話だったのに、事態は一番最悪のパターンに入ってしまった。流石に零治もこれだけの事で相手を殺すような真似はしないだろうが、それでも不安要素がある事に変わりはない。



「姉さん……止めなくていいんですか?」


「無茶言わないで下さい。もう私の手には負えませんよ……」


「うわ~♪ 何だか面白い事になってきたね!」


「「はあ……」」


「ほえ? 二人ともどうしたの?」



状況を理解出来ていない臥々瑠の言葉に、亜弥と奈々瑠は盛大な溜め息を吐くが、臥々瑠はなんの事かと首を傾げる。

そもそも子供っぽい性格をしている臥々瑠にこの状況の重大性を理解しろという方が無理な話なのである。



「おやおやー。何やら面白い展開になりましたねー」


「ちょっ!? 風、何を呑気な事を言ってるの!」



対する青髪の女性の連れの金髪の少女もこの展開に興味深げな反応を示すが、眼鏡をかけた女の子は対照的に血相を変えた表情だ。

これは訓練なのではない。刃を潰していない得物での勝負がどれだけ危険なのかは誰もが分かる事だというのに、金髪の少女は相変わらず落ち着いた様子を保ち、眼鏡をかけている女の子に自身の考えを聞かせる。



「まあまあ、稟ちゃん。これは面白い事ですよー」


「面白いって……一体どこが!?」


「あのお兄さんですが、先程の賊との立ち振る舞いを見る限りかなりの武の使い手だと思います。それは稟ちゃんも分かりますよねー?」


「え、えぇ……」


「そして星ちゃんの武も相当の腕前です。風の見た所、互角かあるいはそれ以上の闘いが見られるでしょうねー。風達の後々の事を考えると、これは見ておいて損は無いと思いますよー」


「確かに風の言ってる事も分からなくはないけど……でも、だからってっ!」


「じゃあ稟ちゃんはあの二人を止める事ができますかー?」


「……無理」



もはやこの状況、誰が見ても止める事など不可能である。

そうこうしてる間に女性が槍を構え零治に対峙するが、対する零治は棒立ちのままである。



「ん? お主、なぜ剣を抜かない?」


「抜く? それは冗談のつもりか?」


「何?」


「お前の相手など素手で充分だ……」


「ほぉ……大言壮語とはよく言ったものですな」


「言いたい事はそれだけか? さっさとかかって来い……」



零治は右手を突き出し手招きをして、早く来いと言わんばかりに女性を挑発する。



「フッ、ならば我が槍の神速の一撃……受けてみよ!!」



女性は低姿勢で地面を蹴って零治に向かって一直線に突進し、距離が目と鼻の先まで縮まった所で高速の突きの一撃を放つ。

神速と語るのは伊達では無いようで、確かに速い攻撃である。



「せいっ!」


「フッ……」



しかし、それは相手が常人ならばの話である。

零治にとってはその一撃は大した事も無いようで、身体を捻ってヒラリと躱し、槍の穂先を右手で掴み取ってみせた。



「何っ!?」


「これで神速を語るとはな……止まって見えたぞ」


「くっ……!」



女性は零治の手から槍を引き抜こうと両手に力を入れて引っ張るが、まったくビクともしなかった。



「どうした。もう終わりか……?」


「フッ、まさか。今のはほんの小手調べですよ」


「ほお……オレも舐められたものだな」


(とは言ったものの、こやつ間違いなく強い! さて、どうしたものか……)


「やはりこんなものか……」


「おっとっ!?」



零治はしばらく様子を見たが、失望したように一言呟いて不意に槍から手を離す。

急に零治が槍の穂先から手を離したため、女性は思わずバランスを崩し転びそうになるが、寸での所で踏み止まり、零治から距離を取った。



「時間の無駄だな。これで終わりにしてやる……」



今ので女性の力量を把握した零治は時間を無駄にしたくないという思いから、さっさとこの勝負に決着をつけるべく、居合の構えを取ったので、青髪の女性は零治がその気になってくれたのだと思い、槍を構え直して改めて零治に対峙した。



「フッ……ようやくその気になりましたか」


「そう思いたければそう思ってろ。真の神速がどういうものか、今から教えてやる……」


「フッ、面白い。なら、見せていただきましょうか」



辺りに静寂と緊迫した空気が張り詰め、亜弥達と青髪の女性の連れである二人の女性達は二人の勝負の行く末を固唾を飲んで見守る。そしてその刹那……。



「フッ!!」



零治は居合の構えを維持したまま低姿勢で地面を蹴り、女性が見せた突進とは比べ物にならない速度で距離を詰めてきた。



「クッ! 速い!?」



零治の速度が予想以上だったため、女性は反応しきれずに咄嗟に防御の構えを取ったが……。



「遅いっ!!」



女性との距離はもう目と鼻の先

自身の間合いに捉えた零治は叢雲を抜刀し、その鋭い一撃を女性が持っている槍の柄に向かって打ち込んだ。



「なっ!?」



女性は零治の一撃の衝撃を受け止めきれずに槍を弾き飛ばされた。

槍はそのまま空中でクルクルと回転しながら落下して地面に深々と突き刺さり、零治はここぞとばかりに女性の喉元に叢雲の切っ先を突き付けた。



「勝負ありだな」


「くっ……私の負けですな」



打つ手を無くした女性は悔しげな表情で両手を軽く上げ、零治に降参の意を示した。



「流石は兄さんですね」


「まっ、当然の結果ですね」


「兄さん、すっご~い!!」



亜弥と奈々瑠はこうなるのが当然のような反応をし、臥々瑠はその場でピョンピョンと飛び跳ねながら大はしゃぎしていた。



「あの星殿が……負けた?」


「いやはやー。上には上が居るものなんですねー。あの星ちゃんが手も足も出せずに一瞬で勝負がつくとは思いませんでしたよー」



眼鏡をかけた女の子は信じられないというような表情で二人を見つめ、金髪の少女も賞賛の言葉を漏らす。

零治は周りの反応など気にも留めず、槍を地面から引き抜き女性に手渡した。



「ほらよ」


「これはどうも。しかし、先程の一撃は見事でしたな」


「あの程度の事で褒められてもなぁ……」


「ほお。ではまだ上があると?」



零治は女性の賞賛の言葉に素っ気ない反応をするので、女性は即座に理解した。

先程の零治は本気を出していなかった事に。その結果、女性は零治に興味津々な視線を向けていた。



「少なくとも本気を出したつもりは無い」


「ふふ。ならいつか、その本気とやらを見せていただきたいものですな」


「機会があればな……。で? まだ続けるとか言ったりしないだろうな?」


「いや、ここは潔く負けを認めましょう。ですが、貴方の言った事を認めたわけではありませんぞ」


「フッ……それで構わんさ」


「星ちゃん、お疲れ様でしたー」


「星殿、怪我はありませんか?」


「ああ、二人とも。見ての通り、私は傷一つ負っておらんよ」


とりあえず二人の勝負はついたので、もう近寄っても大丈夫だろうと思い、双方のメンバーが零治達の所に集まりだす。

金髪の少女と眼鏡をかけた女の子は青髪の女性に労いと気遣いの言葉をかける。

一方、零治達の方はというと……。



「零治っ!」


「な、なんだよ……?」


「どうして貴方はいつも事を荒立てる方向にしか持っていかないんですか! 少しは穏便に済ませる考えは無いんですか!?」


「はいはい、オレが悪うございました。分かったから耳元で怒鳴るなよ……タバコでも吸うか?」


「結構です!」



耳元で怒鳴り散らす亜弥に対し、零治は悪びれるような様子もなく、ワザとらしく耳を両手で塞ぎ適当にあしらう。あまりにも対照的な光景だった。



「いやはや。にぎやかですな」


「そうか? 単に口うるさいだけだぞ」


「誰のせいだと思ってるんですか……」


「そういえばまだ名を伺っていませんでしたな。見た所この国の者ではないようですが……」


「人に名前を尋ねる時は、まず自分が名乗るのが礼儀だと思うんだが……」


「あぁ、これは失礼致しました。我が名は趙雲、字は子龍と申します」


「「……えっ?」」



趙雲と名乗った女性は、右手を胸に当てながら丁寧なお辞儀をし零治達に挨拶をするが、対する零治と亜弥は女性の口から予想だにしない名前が出てきたため思わず素っ頓狂な声を出してしまった。



「どうかなさいましたか?」


「いや……別に……。えぇっと、趙雲。ちょっと失礼していいか……?」


「ええ。どうぞ」



零治は趙雲から少し距離を取り亜弥と小声で話し合う。

というのも、やはり信じられないからだ。彼女の名前が趙雲だという事に。

とりあえずこの世界が三国志の時代だという事は把握したから、趙雲が居ること自体は別に不思議でもなんでもないと思っている。

零治達が気にしているのは、いま目の前に居る趙雲と名乗った人物が女性だという事を気にしているのだ。



「おい、亜弥。アイツ今、趙雲って名乗ったか?」


「ええ。この耳で確かにそう聞きましたよ……」


「……趙雲って女だったのか?」


「いえ、私の知る限り男性と記憶してますが……」


「なあ。お前はどう思う? あの女がマジで……あの趙雲だと思うか……?」


「どうでしょう……。しかし見た所、嘘を言っているようには見えませんが……」


「どうかしたんですか? 兄さん」


「なになに~? なんか面白い話~?」


「お前達には後で話してやる」


「はあ……」


「ブ~。ケチ……」



話の内容が気になったのか、奈々瑠と臥々瑠が会話に参加してくるが、今は事の真偽を確かめるのが先なので、零治は右手をヒラヒラと振りながら二人を適当にあしらった。



「どうしたのです? さっきからコソコソして」


「あ、あぁ……何でもない。気にしないでくれ」


「はぁ……」


「えーと、アンタの名は趙雲ね。……じゃあ、そっちの二人は?」



零治はとりあえずその場を誤魔化す事にして、趙雲の連れである残りの二人の女性にも名前を尋ねる事にする。

この状況だと、この二人も三国志の登場人物の名前を名乗る可能性が極めて高いだろう。



「風は程立と申しますー」


「今は戯志才と名乗っております」


「…………」



零治は戯志才と名乗った女の子に、何かを言いたげにジッと見る。

それはそうだろう。戯志才の名乗り方に違和感を感じたのだから。



「な、何です? 私の顔に何か付いてますか……?」


「いや……偽名で名乗るんならもう少し言葉は選んだ方がいいぞ」


「えっ!?」


「名乗る時、『今は』って言っただろ? その名乗り方だと偽名を使ってますって自白してるのと同じだぞ。次からは注意しな」


「えっと……その……」


「まあ、偽名で名乗るのは理由があっての事だろ? 深くは訊かんよ」


「すみません。そうしていただけると助かります」


(『趙雲』、『程立』、『戯志才』。どれも三国志の登場人物の名前ですね。しかしなぜ性別が女性に? 平行世界? それとも我々の世界の歴史の記録が間違っていたのでしょうか?)


「さて、こちらは名乗り終えたのですから、次はそちらの番ですぞ」


「あぁ、そうだな。オレは音無零治だ」


「神威亜弥です」


「奈々瑠といいます」


「アタシは臥々瑠♪ よろしくね」


「ふむ。姓が音、名が無、字が零治ですかな?」


「違う。姓が音無、名が零治だ。字は無い」


「字が無い? 変わってますな」


「そちら側からすればそうなんだろうな。加えて言うとだ、そちらで言う真名も無い。強いて言うなら下の名前の零治が真名に該当するが……」


「えっ!?」


「なんと!?」


「おやおやー」



趙雲達は零治の言葉を聞き驚きの表情を浮かべる。

約一名、程立は本当に驚いてるのか疑問だが……。



「まさか、会って間もないのに真名を預けられるとは……という事はそちらの御三方も?」


「ええ。私も彼と同じく字も真名もありません。下の名前が真名に該当する点も同じですね」


「私達はそれどころか姓名も無いんですけどね」


「何をそんなに驚いてる? 生まれの国が違えば風習も違うものだ。だいたいオレの名前に特別な意味など無い。気にするな」


「いやいやー。そういう訳にはいきませんよー」


「ん?」



零治は趙雲たちに対し気にするなと言うが、程立が納得できないように首を左右に振って口を挟んでくるので、零治は程立に視線を移した。



「お兄さん。これから風の事は風と呼んでくださいー」


「ちょっと! 風!?」


「ほお」



いきなりの行動に戯志才は驚きの、趙雲は顎に右手を添えながら興味深げの表情で程立、もとい風を見る。



「それは真名だろ? いいのか?」


「はいー。知らずとはいえ、お兄さん達に真名を預けられたのですから、こちらも預けねば不公平ですのでー」


「そういうもんか?」


「そういうものですよー。他の御三方も風と呼んでくださいねー」


「ふむ。確かに風の言ってる事も一理あるな」


「はい?」


「零治殿、そして他の御三方も以後、私の事は星と呼んでくだされ」


「おいおい。オレは真名という風習を下らないと言った男だぞ。そんな奴に大事な名前を預けるつもりか?」


「フッ、その件に関しては貴方を負かして訂正させれば済む話。何より……」



星はそこで一旦言葉を区切り、またもや顎に手を添えながら零治の事を足のつま先から頭のてっぺんまでじっくりと観察し、一人でふむふむと口にしながら何度も頷く。



「な、何だよ……? 人の事をまるで鑑定するかのように見つめやがって……」



星の行動を不気味に感じ取ったのか、零治は顔をしかめながら数歩後ろに後ずさって警戒の眼差しを向ける。



「あっ、いえいえ。大した事ではありませんのでお気になさらないでくだされ」


「気にするわ。……で、さっきの続き、何より……何なんだよ? 非常に気になるのだが……」


「あぁ、その事ですか。何、そんな大した事ではありませぬ。私が貴方の武に惚れた、それだけですよ」


(あれ~? オレひょっとして厄介な奴に眼を付けられたぁ?)



星は零治に意味深な視線を向けながらフフッと含みのある笑いを漏らす。

会ったばかりなので星の事をよく知らない零治だが、とりあえず厄介な人物に眼を付けられてしまった事だけは理解できた。



「えっと……私は……その」


「別に無理に教えなくても構わんぞ」


「すみません……」



星と風とは対照的に戯志才は偽名で名乗った手前、真名を明かす事に抵抗を感じているのか言い淀んでいたため、零治は気遣うように名乗らなくても良いように告げた。



「所で零治殿達はこれからどうするおつもりで? どこかに行く当てとかはあるのですか?」


「あぁ、それなんだが……どこかに街とかがあれば場所を……」


「兄さん。お話中すみません」


「ん? どうした?」


「兄さん。アレは何でしょう?」


「ああ?」



一同は奈々瑠が指差してる方向に眼を向ける。そこには……。



「砂煙?」



大量の砂塵を舞い上げる何かの一団が近づいていたのだ。

零治「ここの話は?」


作者「まあ、セリフを追加したり変更したり、修正した所はあるよ」


亜弥「私達がタバコを吸っている点はそのままみたいですがね」


奈々瑠「ええ。それに銘柄も」


臥々瑠「前はここでタバコの話で盛り上がってたよね」


作者「あぁ、そうだったな。いやー、懐かしいな」


零治「つーかそのまま使うにしても、変えなきゃいかん部分があるだろ」


亜弥「ですね。マイルドセブンがメビウスに改名しましたから」


作者「あんま認知はされてないみたいだけどな、その名前」

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