第1話 開かれる外史の扉
初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりでございます。
長い間手を付けることが出来ず、ずっと放置していましたが再びここへ帰ってくることがようやく出来ました。
内容は大して変わっていないかもしれませんが、楽しんでもらえたら幸いです。
この世界は高度な叡智や科学と魔法によって発展し、存在する平行世界。
我々の知る現代世界と平行して存在するこの別世界で新たなる外史の突端の扉が今、開かれる……。
………
……
…
ここは、この世界の文字通り中心に存在する巨大都市叡智の城。
そして、その城の最上階に存在する制御室内で対峙する七人の人影。
この城の全機能を制御していると思われる巨大な端末の前に佇む三人の人影。
対して、部屋の出入り口の前で佇む四人の人影。
この制御室と呼ぶにはあまりにも広い無機質な空間で今にも殺し合いが始まりそうな……いや、正確には確実に殺し合いが始まる緊迫した空気が部屋に張り詰めている。
「影狼。自分が何をしているか分かっているのだろうな……」
「…………」
三人組の中央に立つ漆黒の長髪の男が、対峙する影狼と呼ばれる赤毛の男に問いかけるが、彼は黙って中央の男を殺気の籠もった視線で睨みつけるだけだった。
黒髪の男の名は黒狼。対峙している赤毛の男の名は影狼。
当然ながらこれは本名ではない。彼らが所属している西軍内で結成された特殊部隊、五色狼内で使われているコードネームである。
そして、他のメンバーも五色狼の関係者であり、彼らは味方同士。そのはずだった。今の彼らはある理由から敵対関係になりつつあるのだ。
「黒狼。裏切り者の影狼達を今更引き戻して何になるってんだ? だいたい、『五色狼を裏切る者には死の制裁を』。そう言ってたのはテメェだろうが。だから早くオレにアイツを殺させろよ……」
「僕も同感だね。話なんかしても時間を無駄にするだけだよ。それにしても、君みたいな殺人狂と意見が合うなんてね、銀狼。明日は槍でも降ってくるんじゃないの?」
「んだとぉ!? 金狼……オレをバカにしてんのかっ!! テメェも影狼と一緒にブッ殺されてぇのか!!」
「何だい。殺る気なら相手になってやるよ……?」
黒狼との左右に立つ二人の男性、紺色の頭髪で右頬に刀傷があり、眼つきの悪い人物、銀狼が口を挟み、茶色の長髪で前髪で左眼が隠れた人物、金狼もそれに同意するも、彼が言った余計な一言が原因で睨み合いに発展した。
因みにこの光景は今に始まった事ではない。この二人は昔から中が悪く、いつも喧嘩をしていたし、流血沙汰に発展しかねない程の勢いだった事も一度や二度ではない。
喧嘩するほど仲が良いという言葉があるが、金狼と銀狼の二人ほどこの言葉が当てはまらない人物は居ないだろう。
「金狼、銀狼、一度しか言わん。お前達は黙っていろ……」
「うっ! ……す、すみません」
「グッ……チッ!」
黒狼が禍々しい殺気を放ち、金狼と銀狼を黙らせる。
少々やりすぎな気がしなくもないが、この二人は基本的に口で言っても無駄なため、こうでもしないと収拾がつかないのだ。
金狼と銀狼が大人しくなったので、黒狼は影狼に視線を戻し、改めて話を再開した。
「さて、影狼。もう一度言おう。今からでも遅くはない。考え直せ。なんなら、そこに一緒に居る白狼と戦闘獣人の姉妹共々裏切りの件は帳消しにしてやるぞ……」
「おやおや。貴方にしては珍しく随分と寛大な処置をなさるのですねぇ……。どういう風の吹き回しですか?」
黒狼の言葉に疑問を感じ、影狼の隣に立つ、理知的な雰囲気を醸し出す長身と銀髪が特徴的な女性、白狼が影狼の代わりに疑問を投げかける。
ここに居る全員が黒狼の事はよく理解していた。
この男、黒狼は邪魔な存在と判断した者は例え味方でも容赦なく殺してきた人物なのだ。
そんな男が裏切り行為に眼を瞑るなど考えにくいし、直接手を下した訳ではないが、過去に裏切り者を処刑した前例もあるのだ。
「私はお前達二人の能力を高く評価しているつもりだ。それに、この先の事を考えれば、お前達の力は必要不可欠なのだよ……」
「ふむ……」
「…………」
白狼は顎に手を当て考える素振りをするが、影狼は相変わらず黙って黒狼を睨みつけたままである。
その態度と表情から影狼には話を聞く意志など無いと誰からも見て取れるのだが、それでも黒狼は話を続ける。
「お前達もよく知っているだろう。この世界が一度滅びかかった事を……」
「『滅びの日』の事ですね……」
「そうだ。あの原因不明の大陸変動のおかげで世界の人口の半数以上が死に絶えた……」
「そして、その災害から数日後に現在の大陸の中央部に有った山岳部が突如崩れ落ち、叡智の城が出現した……でしたよね?」
「そうだ……」
「で、生き残った数少ない人類はこの巨大都市から得た知識と技術を使い、何とか自立した生活が出来るレベルにまで回復、そしてそのまま発展をして今の世界を形成した。確か魔法の概念もここから得たんでしたよね」
「ああ。だがそれでは終わらなかった。それは……」
「叡智の城の存在が世界を東西に二分し争うきっかけ……つまり戦争を引き起こす火種となってしまった……だろ? 黒狼……」
それまで終始無言だった影狼がようやく口を開き、黒狼の代わりに話の続きを答えた。
「そうだ。愚かにも東と西の指導者はこの叡智の城を独占しようとせんがために戦争を始めた。おかげで世界は疲弊し再び滅びの一途を辿っている始末……実に愚かしい話だ……」
「この戦争の片棒を担いでた人間が言うセリフじゃないでしょ。それは……」
「同感だな。この世界が滅びに向かっている一番の原因はオレ達自身なんだ。貴様にそんなセリフを言う資格は無いと思うぞ。違うか、黒狼……」
黒狼が今の世の現状を嘆くように言うが、白狼と影狼の反応は冷ややかなものだ。
彼らはこの世界の西軍に所属している軍人、つまりはこの世界が疲弊していく原因である戦争をの片棒を担ぎ、敵国である東軍の人間をこれまで大勢殺してきているのだ。
そういう意味では影狼の言葉は的を射ていた。黒狼もその事を理解しつつ、どこか自虐的な笑みを浮かべた。
「フッ……確かにそうかもしれんな。だがそれももう終わる。私がこの都市の力を使って本当の意味でこの戦争を終わらせるのさ。私は東にも西にも世の統治を任せるつもりは無いんでな……」
「そのために世界をもう一度滅ぼすだと? 黒狼、貴様はこの世界に第二の『滅びの日』でも引き起こすつもりなのか……」
「影狼。この世界が腐敗と混沌に満ち溢れ、最早救いようが無い事ぐらいお前も理解出来ているだろう。だから私の下に来た。違うか……?」
「…………」
影狼は黒狼の言葉に反論できなかった。
彼が言っている事は紛れもなく事実であり、この腐りきった世の中が原因で家族を失っている。少なくとも影狼はそう思っている。
そしてそれこそが、影狼が軍に入り、彼を戦場に駆り立てるきっかけでもあった。
「植物と同じさ。根が腐り、朽ち果てていてはどうしようもない。新しい植物に植え替えるしかない。それと同じように、この世界もゼロからやり直す必要があるのさ……」
「だからもう一度世界を滅ぼして、いま居る人間を根絶やしにすると……?」
黒狼は白狼の問いを嘲笑うかのように軽く鼻を鳴らす。
白狼の問いは残念ながら半分だけ正解だった。
黒狼は白狼の問いの内容を捕捉するように答えた。
「フッ……違うな。根絶やすのではない。優れた人間を選定するためにふるいに掛けるのさ……」
「それはどういう意味だ?」
「全ての人間を滅ぼして世界を再生しても意味が無いだろう。だからと言って愚者を新世界に迎え入れるほど私も愚かではない。私が必要とするのは優れた人種のみだ……」
「なるほど。今の地上を苛酷な環境にして、その環境下で生き延びた人間だけを保護する。そして、滅ぼした世界の再生を行なうと……そういう事ですか?」
「大まかに言えばそうなるな……」
「だから西軍を裏切ったのか。ここを占領するために……」
「裏切る? 影狼、貴様は何を寝ぼけた事を言っているのだ? 私は端から西軍に忠誠など誓っていなかったさ。初めからこうする事が目的だったのだからな……」
「ほぉ~……」
「上層部の連中は自分達が五色狼を組織したと思い込んでいるようだが、それは違うな。五色狼は私が独自に組織した私の部隊なのだよ。故に連中に従う道理など初めから無かったのさ。ただ利用するために身を置いていた。そしてこれ以上利用する必要性が無くなっただけだ……」
黒狼は淡々と言葉を発し、影狼と白狼は黙って耳を傾けるが、恐らく何を言った所で結果は変わらない。
そしてその事は黒狼自身も理解してるのだろう。しかしそれでも彼は続ける。
「さて、下らん話はここまでだ。……影狼、今一度問う。考えを改めてこちらへ戻って来い……」
黒狼が手を差し伸べ問いかけるが、影狼は何の反応も示さない。
影狼は黒狼を無視して、チラリと視線を白狼に移す。
ようやく行動に移す時が来たのだ。ここへ来た目的を果たす時が……。
だがそれでも不安が無い訳ではない。この話を聞いて、一緒に居るメンバーが心を入れ替えてしまうのではないかという不安要素があったのだ。
「白狼……」
「私はいつでも構いませんよ」
白狼は影狼の問いに、ゆっくりと頷きながら落ち着いた口調で答える。
その姿に迷いは無い。白狼は影狼にとって数少ない友人、背中を預ける事の出来る戦友だ。そしてそれは白狼も同じ。
だからこそ彼女は友として影狼を最後まで支える、そのつもりでここに居るのだ。
「奈々瑠、臥々瑠。お前達もいけるか……」
それまで終始無言だった姉妹であり、頭に犬耳とフサフサの毛並みの尻尾がある黒色の長髪の少女、姉の奈々瑠、茶髪の単発の少女、妹の臥々瑠に影狼が問いかける。
その姿から見ての通りこの二人は人間ではなく、叡智の城で創られた戦闘獣人と言われる生物兵器だ。
この二人は影狼と白狼が東軍に知られないように秘密裏に叡智の城の内部調査を行っていた時に保護され、以来影狼と白狼の二人を実の兄、姉のように慕っており、家族同然のように日々を過ごしてきたのだ。
だからこそ二人も考えは同じだった。どこまでも兄と姉についていくと。
例えその先がどれ程の棘の道でもだ
「はい、兄さん」
「うん! いつでも大丈夫だよ!」
「そうか……」
影狼はそれを聞いて安心したのか、微笑みながらやさしく二人の頭を撫でた。
ならばやるべき事は一つしかないのだ。影狼は黒狼に向き直り、一歩前に進み出る。
「黒狼。何度言われてもオレの考えは変わらん……」
「…………」
「貴様はオレが何をしにここへ来たか理解しているのか?」
「私を止めるためじゃないのか……」
ここまで来たら相手が行動するかなど考えるまでも無いだろう。
影狼の出した答えは黒狼が考えている物とは全くの正反対なのだ。
いま一度それを分からせるべく、影狼は腰に下げている刀の柄に右手をかけ、居合の構えを取る。
「違うな。貴様を止めるために来たのではない。……貴様を……殺すために来たんだよ! ……始めるぞ!叢雲!!」
影狼は口火を切って己の魔力を解放し、神器を起動させて戦闘態勢へと入る。
五色狼のメンバーはそれぞれ特殊な獲物を所持しており、これこそが彼らの強さの根幹でもある。
彼らの持つ武器、その総称は神器。通称は神器だ。
これはこの世界の住人が創り上げた物ではなく、叡智の城で保管されていた物。
そして神器の存在がこの世界の戦争の原因の一つでもあるのだが、その戦争を止めるために神器を使うのも実に皮肉な話と言える。
「まあ、そういう訳ですので、お手柔らかに頼みますよ。さて、仕事の時間ですよ……双龍!!」
続いて白狼が腰の左右に下げていた鞘から剣を引き抜き、互いの柄を繋ぎ合わせて前後に刃のついた一本の長剣にして、影狼と同じく戦闘態勢に入った。
「だから言ったじゃないか黒狼。話なんかしても時間の無駄だって」
「…………」
金狼が話しかけるが黒狼は黙っているだけだった。
しかし、なぜか黒狼は笑みを浮かべていた。
まるでこうなる事を望んでいたかのように。
(ん? 笑ってる? なんで?)
金狼はなぜ黒狼が笑っているのか疑問に思ったが、銀狼の下卑た笑い声で現実に引き戻される。
「ヒャハハハハハ! いいぜぇ! オレはこの時が来るのを待ってたんだ! これで影狼と本気の殺し合いができるってもんだぜ!!」
「ハア……君は随分と楽しそうだねぇ。まあ、僕も同じだけどね……」
金狼はこの状況にすっかりハイになってる銀狼に呆れ果てた視線を向けるが、当の本人も口の端を三日月のように吊り上げ、白狼に殺気の籠った視線を向けながら続けた。
そう。銀狼は影狼に、そして金狼は白狼に対して深い因縁がある関係なのだ。
だからこそこの状況は金狼、銀狼にとって大歓迎なのだ。ようやく因縁の相手を殺す事が出来るのだから……。
「おい、金狼。影狼はオレの獲物だ。手出ししたらテメェも殺すからな……」
「勝手にしなよ……。そっちこそ僕の邪魔をしないでくれよ」
「さあ……起きやがれ! 村正! 楽しい殺し合いの始まりだぜ!!」
「じゃあ殺ろうか……ゲイボルク」
銀狼は腰に下げている、見た目は完全に影狼と同じデザインである黒塗りの柄に右手をかけ、乱暴に刀を抜刀し、金狼は背に背負っていた細身の深紅の槍を構え臨戦態勢に入る。
「影狼! 今日こそハッキリさせてやるぜ! どっちが上でどっちが下かをなぁ!!」
銀狼が影狼に村正の切っ先を突きつけながら吼え、影狼の前に立ちはだかろうとする。
彼の右頬の傷は影狼によってつけられた物だ。
以来、銀狼は影狼の事を異常なまでに敵視し、一方的な恨みを募らせていた。そんな銀狼にとってこの状況は今までの恨みを晴らす絶好の機会であった。
「チッ! 相変わらずウゼェ野郎だ。奴に構ってる暇は無いってのに……っ!」
影狼の表情に苛立ちが浮かぶ。
影狼の目的は銀狼ではなく黒狼なのだ。今の彼に銀狼に構っていられる余裕など有りはしない。
「兄さん。あのバカの相手は私と臥々瑠に任せてください」
「そうそう。あんな奴、兄さんが相手をするまでも無いよ。アタシと奈々瑠で充分だよ」
「二人とも大丈夫か? 奴の村正の能力が厄介な事は知ってるだろ」
「問題ありませんよ。あのバカに村正の力を最大限まで引き出すことなんて出来やしませんから」
「だから安心して」
「……分かった」
影狼は内心不安ではあるが状況が状況だ。
ここで銀狼に足止めをされるわけにはいかない。ならば誰かに代わりを引き受けさせるしかないのだ。
それに、この二人の強さを影狼はよく知っている。まだ粗削りではあるが、自分達にも引けを取らない程の実力を持っているのだ。
ならばここは兄として妹達を信じてやらねばと、影狼は自分に言い聞かせる。
「なら、金狼の相手は私に任せてもらいましょうか。どうせ彼の目的は私なんですから……」
「白狼……」
「ん? 何です?」
「……死ぬなよ」
「貴方もね……」
「奈々瑠、臥々瑠。お前達もだぞ……」
「ええ、分かってます」
「アタシ達の事なら心配ないよ、兄さん」
「フッ、そうか……」
影狼は三人の台詞を聞いて安心したのか、その表情から苛立ちが消え、心に余裕が生まれる。
そして改めて黒狼に向き直り、己の役目を果たすべく、白狼達に号令するかの如く、力強く声を発した。
「よし……いくぞぉ!! お前達!!」
「ええっ!!」
「はい!!」
「うん!!」
金狼、銀狼の事は白狼達に託し、影狼は一直線に黒狼に向かってダッシュした。
しかしながら、銀狼もそれを黙って見過ごすはずも無く、さっそく喚き散らしながら影狼に向かって走り出した。
「コラァ! 影狼! オレを無視してんじゃねぇ!! テメェの相手はオレだと言って……うおっ!?」
銀狼が影狼の行く手を阻もうとしたが、二人の少女、奈々瑠と臥々瑠の刃が襲い掛かって来たため間一髪でそれを躱し、その場にビュンッと空を斬る音が響いた。
「どこに行くつもり? アンタの相手は私達で充分でしょ?」
「そうそう。兄さんの邪魔はさせないよ!!」
「叡智の城で創られた戦闘獣人如きが、オレに盾突こうってのかぁ?」
銀狼が殺気の籠もった眼つきで二人を睨みつける。そこを退けと言わんばかりに。
それに応じるように奈々瑠と臥々瑠も黙ったまま自分達専用の二本組みの小太刀を構え、銀狼を睨み返す。
「おいおい。まさかその模造兵器でオレと殺り合うつもりじゃねぇだろうなぁ?」
「そのまさか……だけど?」
銀狼の見下すような態度に、臥々瑠が余裕たっぷりの表情で答える。
彼女達の持つ武器は神器ではなく、それを模した複製品であり、戦闘獣人の専用装備でもある。
もっとも、彼女達が持つ模造兵器にどれ程の力が秘められているのかは明らかではない。言い換えると強さがハッキリしていないのだ。
だからこそ銀狼は奈々瑠達にこんな態度を取れるのだ。
「やめときな。お前らが強い事はオレだって知ってるさ。だがなぁ、どんなに強いお前らでもオレには勝てねぇよ。その模造品が神器に敵うわけないだろ……」
「あらあら。村正をろくに使いこなせてないバカにそんな事言われるなんて心外ね」
奈々瑠がいかにもバカにしたような表情を向けながら銀狼に言い返す。
そして元々短気で攻撃的な性格をした銀狼にはその言葉が癇に障ったのか、眼つきがスゥッと細まり、元から悪い眼つきが更に悪くなった。
「あぁ? おい……テメェ、いま何て言った……」
「ん? 貴方、頭だけじゃなく耳も悪くなったの?」
奈々瑠はあくまでもバカにした態度をやめずに続ける。もちろんこれは奈々瑠の作戦でもある。今の彼女達の役目は、銀狼の注意を影狼から自分達に向ける事だ。
そして相手は短気な性格をした銀狼。ならばこうして挑発してやるのが一番手っ取り早いのだ。
案の定その態度に銀狼は次第に苛立ちはじめ、左手を何度も握ったり開いたりを繰り返し始めていた。
「テメェ……っ!」
「仕方ないわね。頭と耳の悪い貴方のためにもう一度言ってあげるわ。……『村正をろくに使いこなせてないバカ』って言ったんだけど? それとも、村正に使われてる大バカと言うべきだったかしら?」
「んだとぉ!? このクソガキがぁ!!」
その一言で銀狼は堪忍袋の緒が切れ、部屋中に響きそうなほどの怒声を上げた。
銀狼の頭の中から完全に影狼の存在が抜け落ち、怒りの矛先は奈々瑠と臥々瑠へと向けられた。
(うわ~。銀狼の奴、間違いなく切れてるよ。相変わらず単純な奴だなぁ。それにしても、奈々瑠も相変わらず口が悪いや……)
「上等だぁ! ウォーミングアップも兼ねてお前らから先にブチ殺してやる!!」
銀狼が殺意を剥き出しにして標的を奈々瑠達に切り替え、村正を肩に担ぐ。
ここまでは順調。後は銀狼を倒す、それだけである。
「奈々瑠、いくら注意をこっちに向けるためとはいえ、少しやり過ぎたんじゃないの? 銀狼の奴マジ切れしてるんだけど……」
「問題ないわよ。何、怖じ気づいだの? 臥々瑠……」
「そうじゃないけど……あの状態の銀狼の相手は面倒だって思ってさ……」
「文句を言わないの。アイツに兄さんの邪魔をさせる訳にはいかないんだから。それに、私達二人ならあんな奴の相手なんか余裕でしょ」
「うん、そうだったね……じゃあ、さっさと終わらせようか!」
「ええ!!」
「何ゴチャゴチャ話なんかしてんだぁ! 余裕かましてんじゃねぇぇぇぇっ!!」
「来るわよ!! 臥々瑠!!」
「うん!! 行くよ、奈々瑠!!」
「「はああああああっ!!」」
痺れを切らした銀狼は怒声を上げ、村正を肩に担ぎながらその凶刃を煌めかせ、何琉と臥々瑠に向かって突撃し、対する二人も銀狼を迎え撃つべく、各々が持つ得物を構えながら一直線に走り出した。
………
……
…
「あ~あ。銀狼の奴、頭に血が上ってあんな安っぽい挑発にすっかり乗せられてるよ。相変わらずバカな奴だな……」
「フッ、彼の短絡的な思考は相変わらずのようですね……」
横で銀狼達のやり取りを見ていて、金狼は呆れた視線を向け、対する白狼は小バカにした視線を向けていた。
が、それも束の間。今の二人に銀狼の事はどうでもいいのだ。やるべき事は、互いが敵視している人物を倒す事。それだけである。
「では、こちらも始めるとしますか……ねっ!」
先手を打つべく、白狼が瞬時に間合いを詰め、刹那の横薙ぎの一撃を金狼の首に目掛けて放つ、が……。
「フッ!」
金狼は持っていたゲイボルクをグルンと一回転させてその一撃を弾き、その場に軽快な金属音が響くと同時に、互いの刃から火花が散る。
その反動で白狼をバランスを崩してよろめいていしまい、無防備な姿を晒し、金狼は素早く突きの構えを取って反撃に転じようとしたが。
「ちぃっ!」
白狼は苛立たしく舌打ちをし、反撃されないように素早くバックステップをして間合いを開いく。
金狼は構えを解いて残念そうな表情をし、ゲイボルクの柄で右肩をトントンと軽く叩いた。
「危ないじゃないか白狼。当たったら首が地面に落ちてる所だったよ。……僕を殺すつもりかい?」
「ええ、そうですよ。殺すつもりで仕掛けたんですから……」
「おいおい、酷い事言うなぁ~。君は僕を殺したくなるほど嫌いなのかい?」
冷めた表情で返答する白狼の態度に、金狼はワザとらしく悲しげな表情をして訊くが、白狼は表情一つ変えずに淡々と続ける。
「ええ。大嫌いですよ。貴方が私に対して殺したくなる程の嫌悪感を抱いてるようにね……」
「あれ? ばれてたんだ?」
「当然でしょう。あれだけ私に敵意を向けていたんですから。気付かないほうがどうかしてますよ……」
「そうか。……ならひょっとして、まだ君が五色狼に居た頃事故を装って何度も殺そうとした事も……」
「当然知ってますよ……」
「そうかぁ。全部ばれてたのか。……なら、これ以上無理に語らう必要も無いか……」
「そうしてくれると有り難いですね。貴方と話をしてるだけで反吐が出ますから……」
「フッフッフ……アハハハハハハ!!」
金狼は突如左手で額を抑え、上体を後ろに逸らして天を仰ぎながら心底楽しそうに笑い声を上げた。
「何です? 突然大声で笑い出したりして……とうとう頭がおかしくなりましたか?」
「いや、嬉しくてつい。君が裏切り者になってくれたおかげで、僕は堂々と君を殺す事ができるんだからね!!」
金狼が狂気の笑みを浮かべ、今まで胸中に隠していた白狼に対する殺意をむき出しにし、本性を露わにした。
この姿こそが金狼の真の姿。彼は軍内部ではいつも表面上は人当たりが良いように装うが、それは偽り。つまりは猫被りだ。
この狂気の笑みを張り付けた姿こそが金狼の本性なのだ。
「白狼。僕が君を殺そうとしてた理由を教えてあげようか?」
「結構です。ある程度の見当はついてますから……」
「へえ~、そうなの? なら聞かせてくれないかな……」
「私の持つ戦略家としての知識が貴方の持つ戦略家としての知識より勝ってる点……これが気に入らないんでしょう? 違いますか?」
「クックックッ……そうだよ! 正解だよ! 白狼!!」
金狼が笑みを浮かべたまま、手を叩いて称賛する。
その姿はまるで無邪気な子供のようである。唯一違う点があるとすれば、浮かべている笑みが無邪気なものではなく、狂気を孕んでいる点だ。
「君が五色狼に来てから僕は戦略家としての居場所を失ってしまった! おかげで戦略家としてではなく、戦闘要員として戦場に駆り出される機会が大幅に増えてしまった! だから君が目障りな存在だったんだよ!!」
「そう言ってるわりには、前線で銀狼と一緒に派手に暴れていた、という話を結構聞いた事があるんですが……」
「別に戦う事自体は嫌いだったわけじゃない……。素質が有ったし、自衛のためにもと思い、神器を手にしたんだ。だが、僕は銀狼と違って戦場で暴れる事に生き甲斐を感じてるわけじゃない! 戦略家として敵と知識を競い合う事に生き甲斐を感じていたんだよ!!」
「で、私がそれを奪ったと……そう言いたいのですか?」
「フッ、好敵手の存在はむしろ歓迎していたさ。だけど白狼……君は優秀すぎたんだよ。君は僕の一歩先どころか十歩先を行く天才だ。僕がどう足掻いたって知識で敵うわけがない。僕は必死になって考えたよ。そして、ある一つの結論に至った。それは……」
「私を殺す事……ですか?」
「そうさ! 知識で勝てないのなら力で勝てばいい! 至極単純な結論さ! この世界では最後に生き残った者こそが優秀なんだよぉ!!」
「やれやれ、結局貴方も銀狼と同類だったわけですか……」
「僕をあんな殺人狂と一緒にしないでくれないか。僕はアイツと違って人を殺すことに快感を覚える輩じゃないんでね……」
「おや、それは失礼。……なら決着をつけましょうか。正直、貴方に付け狙われるのにもウンザリしていたので……」
「望む所だ……」
白狼、金狼は互いに神器をを構えながらじりじりと間合いを詰めながら、睨み合いを続ける
お互い黙り睨み合っていたが、しばらくして痺れを切らしたのか、金狼がゲイボルクを水平に持ちながら白狼に向かって突撃を仕掛けてきたので、白狼も迎え撃つべく、双龍を振りかぶりながら突進した。
「白狼ーーーー!! 今日こそ死ねぇぇぇぇぇえ!!」
「フン! その台詞、そっくりそのまま貴方に返してあげますよっ!!」
「「うおおおおおおおお!!」」
………
……
…
巨大なモニターと端末を背にする黒狼を前に、影狼はいつでも攻撃が出来るように叢雲の鞘に左手を添えながら対峙しており、双方ともに無言の睨み合いを続けていたが、黒狼がおもむろに口を開いた。
「あくまでも私の邪魔をするつもりなのか? 影狼……」
「…………」
「やめるのなら今からでも遅くはないぞ……」
「くどいぞ……」
「残念だ。お前なら私の考えを理解してくれると思っていたのだがな……」
「まったく理解してないわけじゃない。世界を変えたい思いはオレも同じだ……」
「ならなぜ私の……」
「貴様のやり方では意味が無いからだ……。オレは世界を滅ぼし再生するなんて危険な選択をするつもりはないっ!」
影狼は黒狼の言葉を遮るように怒鳴り散らす。
その態度を見た黒狼は冷笑しながら口を開き、影狼が軍に入隊した理由を言い聞かせる。
まるでそんな台詞を言う資格は無いと言うかの如く。
「クックック。この世界に、そしてこの腐りきった世の中を構築したクズどもに対して復讐したい一心で神器を手にした奴が言うセリフとは思えんな……」
「それは自分でも理解しているさ。だからと言って貴様の考えに賛同する理由にもならん!」
「では、どうあっても……」
「オレの答えは変わらないと言ったはずだ! 黒狼……貴様を殺す!!」
「私の邪魔をすると言うのなら……貴様は死ぬしかないな……」
自分に敵意を剥きだし、居合の構えを取りながら戦闘態勢に入っている影狼を迎え撃つように黒狼はゆっくりと自分の目の前に右手をかざす。そして……。
「来い……魔王剣!!」
黒狼がそう言った瞬間、彼の目の前の何も無い空間に刀身が血のように真っ赤な深紅の剣が現れる。黒狼はそれを手に取り、右手の中でクルクルと回転させ弄び、その切っ先を影狼に突きつけて戦闘態勢に入った。
「さあ、来るがいい。影狼……」
「……フッ!!」
黒狼の余裕の態度を嘲笑うかのように、影狼は叢雲の恩恵でもある魔法を発動し、姿がまるで雲のように霧散して黒狼の前から消える。が、次の瞬間。
「死ね!!」
突如として黒狼の背後に姿を現し、胴に渾身の横薙ぎの一太刀を浴びせるが……。
「フンッ!!」
黒狼は素早く反応し、持っていた魔王剣で難なくそれを受け止め、そのまま鍔迫り合いへ持ち込んだ。
「今のが霧散する雲か……相変わらず恐ろしい攻撃をしてくる奴だな……」
「ハッ! いとも簡単に受け止めた奴がよく言うぜ。オレが背後から現れる事も読んでたんだろ!」
「さあ? どうだろうな……?」
双方一歩も引かない様子で剣を押し合い、火花を散らしながらギリギリと金属の擦れ合う音が響くが、次第に力の均衡が崩れて黒狼が優勢になり、影狼が押し返され始めた。
「クッ……!」
「フッ……フンッ!!」
「グッ!?」
黒狼がここぞとばかりに一気に力を籠めて影狼を押し返し、押し負けた影狼はバランスを崩して無防備な姿を晒してしまった。
その一瞬の隙を突き、黒狼が間合いを詰め、影狼の左肩目掛けて振り上げていた剣を一気に振り下ろしてきた。
「斬っ!!」
「クウッ……!」
影狼は黒狼の一撃をバックステップで辛うじて躱して間合いを一気に開き、黒狼の斬撃は空を斬るだけに留まった。
しかしながら、今の一撃は実に恐ろしい物である。影狼が先程まで立っていた場所の金属製の床には一筋の傷が走っている。
一瞬でも反応が遅かったら、影狼は一刀両断され、その床に深紅の海を作り上げていた事だろう。
「ふむ、よく躱したな。……どうした、もう終わりか?」
「ハア、ハア……ハア……ッ! まだまだ。勝負はこれからだぜ」
影狼は荒くなっていた呼吸を整え、体勢を立て直し再び居合いの構えを取る。
対する黒狼は右手をだらりと下げて棒立ちしているようにしか見えないが、その佇まいからは一部の隙も無い。
その時だった。不意に黒狼が影狼の背後に視線を走らせ、小さく笑みを浮かべたのだ。
「……フッ」
「余所見とは随分と余裕じゃないか……」
「何……向こうも随分と派手に殺りあってるなと思っただけさ」
「あぁ?」
影狼は黒狼が何を言ってるのか理解できずに首を傾げる。
黒狼は顎をしゃくって影狼に後ろを見るよう促し、影狼は体勢を維持したまま後ろに視線を向ける。
………
……
…
「ウグッ……! このクソガキどもがぁ!! 調子に乗りやがってえぇぇぇ!!」
銀狼は奈々瑠と臥々瑠の素早い動きに翻弄されて手も足も出せず、防戦一方を強いられている状況に苛立ちを募らせていた。
何しろニ対一の状況だ。奈々瑠に注意を向ければもう臥々瑠に攻撃をされ、それを防げば今度は奈々瑠に攻撃を仕掛けられ、銀狼はさっきから何も出来ずにいるのだ。
「へへ~ん♪ 所詮アンタの足じゃアタシ達の動きには追いつけないよ~だ♪」
「フン! そんなに悔しいのなら村正の能力を使ってアタシ達を切り刻んでみなさいよ」
「ほざいたな!! いいだろう!! フーー……」
銀狼はその場に立ち止まり、右眼を左手で押さえ集中するように息を吐く。そして……。
「朱の眼……開眼!!」
銀狼が左手を退けて右眼を開くと、その眼は紺色から朱色に変化していた。
これは銀狼が持つ村正の恩恵の魔法だ。もっとも、銀狼は元々魔法を扱う事に長けておらず、軍内部で強化手術を受けてようやく使えるレベルなのだ。
そのため、本来ならば両眼に発動するはずのこのスキルも右眼にしか発動しないが、それでも脅威である事に変わりはない。
「クックック……覚悟しろよガキども。お望み通り微塵切りにしてやるぜ!!」
「ようやくその気になったわね。臥々瑠、分かってるわね。アイツの右眼の視界内に絶対に入っちゃ駄目よ!!」
「分かってるって! 来るよ!」
「お遊びはここまでだ!! 死ねえぇぇぇぇぇ!!」
銀狼は野獣のように大声で咆えながら村正を振り上げ、奈々瑠達に襲い掛かった。
………
……
…
「ほらほらどうしたんだよ、白狼! 逃げ回るので精一杯かぁ?」
金狼は白狼に向かってお得意の高速の連続突きを浴びせる。
「クッ……!」
白狼は金狼の連続突きを躱すのが精一杯で近づくことができない状況にあった。
と言うのも、白狼は接近戦があまり得意ではないのだ。
過去に影狼からよく訓練は受けていたが、それでも現状は金狼に分がある。
何より、白狼が持つ双龍の本来の姿は剣ではなく弓なのだ。
白狼は何とか射撃体勢に持ち込みたいと考えていはいるが、それは難しいと言える。
上手く双龍を弓形態に出来たとしても、今度は矢を生成し、番えて狙いを定める必要もあるが、この部屋には遮蔽物が無いし、金狼がそれを簡単に許すはずもない。だからこそ白狼は接近戦を敢えて選んだのだ。
「どうした、白狼! 遠慮せず正面からかかって来てもいいんだよ!!」
「フッ、冗談言わないで下さいよ。そんな事したら胸に風穴が空いちゃいますよ」
「あぁ……『アレ』ならまだ使うつもりはないよ。魔力を膨大に消費するし、万が一外したら僕が圧倒的に不利になるからね。……切り札は最後まで取っておくもの……さっ!!」
金狼がこの勝負に終止符を打つべく、白狼の額に目掛けて渾身の突きを放った。
「ウッ……! ハアッ!!」
白狼は素早く反応し、双龍を振り上げそれを弾き返す。
「なっ!?」
渾身の突きを弾かれた金狼はそのままバランスを崩してしまい、その隙を突くように白狼が一気に間合いを詰めて双龍を振り下ろした。
「せいっ!!」
「クウッ!!」
金狼は辛うじて白狼の斬撃を受け止め、力で押し返そうと競り合いを始める。
「クッ……! やってくれるじゃないか!!」
「やれやれ。そのまま真っ二つになってくれればよかったんですがねぇ……」
金狼は忌々しげに唇を噛みながら白狼を睨み付けるが、白狼はいつもの事と思ってるのか、金狼の視線をさらりと受け流し、静かに物騒な台詞を言い放った。
「悪いけど、君を殺すまで死ぬつもりは無いんでね」
「奇遇ですね……私も貴方を殺すまで死ぬつもりは無いんですが」
「フンッ! 面白い。やってみなよ!!」
「そっちこそ!!」
………
……
…
「あの様子なら向こうもすぐにカタがつきそうだな。では……こちらも続けるか」
「フッ……次で終わらせてやる」
影狼と黒狼、双方が最大の一撃を放とうと神器を構え直し、集中力を高める。
と、その時、室内に異変が起きたのだ。
「む? これはっ!?」
「なっ、何だ!? 光が……」
突如、制御室内が白い光に包まれ始めた。あまりの出来事に、その場に居る全員が戦いの手を止めてしまい、唖然として辺りを見つめる。
「な、何なのこれ!? 奈々瑠、何が起こってるの!?」
「わっ、私にも分からないわよ! でも、あまり良い状況じゃない事だけは確かね……」
「これは、神器同士の共鳴反応……って訳ではなさそうですね」
「白狼……敵の君に言うのもなんだけど、冷静に分析してる場合じゃないと思うんだけど。なんだか光がどんどん広がってる気がするし。それに……なんか頭もボーっとしてきた……」
「オイ! 何だよこれは!? 一体何が起こってんだ!? 影狼! テメェ、何しやがったぁ!!」
「何もしてねぇよ! 何でもかんでもオレのせいにするんじゃねぇ!!」
あまりの事態に影狼達はすっかり混乱していた。ただ、一人を除いて……。
(忌々しいな。またしても『アレ』が始まるのか……。フン! まあいい。邪魔をされるのは癪だが、退屈しのぎに付き合ってやろうではないか……)
「クッ……何が起こっていようと関係無い。……奴を……殺す事に……クソ……意識が……薄れて……」
影狼は朦朧とする意識の中、黒狼に立ち向かおうとするが、まるで全身に鉛でも流し込まれたように全身が重くなり、思うように動けなかった。
「影狼。貴様との決着は次の機会までお預けだな……」
「何……だと……?」
影狼は声が聞こえる方向に視線を向けるが、光が既に室内全体を覆いつくしていたため、黒狼の姿は見えなかった。
どこを見ても、視界に入って来るのは真っ白な空間だけだった。
「クソっ! どこだ。気配が……掴めない……それに白狼達は……」
「安心しろ。死んではいない。ただ、お前より一足先に『外史』に降り立っただけだ……」
「外……史……? 貴様……何を言って……っ!」
「そろそろ時間だな。お前もせいぜい、この先の『外史』の旅を楽しむがいい……」
「おい……まだ話は……終わってな……っ! クッ……ダメ……だ……意識が……」
もはや立っているのも限界になり、影狼は床に崩れ落ちてしまう。
何とか立ち上がろうとするが、手足どころか身体その物が動かなくなってしまい、意識だけが薄れていく。
やがて影狼の意識はそこで途絶えてしまった。
作者「皆さん、本当にお久しぶりでございます」
影狼「そうだな。あれからどれぐらい経過したよ?」
白狼「少なくとも半年以上は経っていますね」
奈々瑠「だったら憶えてる人なんか居ないんじゃないですか?」
臥々瑠「うんうん」
作者「そこっ! グサッとくるような事を言うな!」
影狼「でだ、やっぱりこの茶番は継続なのか?」
作者「ああ。基本的には新しく書き直す方針だが、投稿する話によっては前のをそのまま使うがな」
影狼「あっそ。ま、せいぜい頑張れや」