表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第一回こいこい大会!! 初恋の話をするのは誰だっ!?

 入学式が閉式して、ホームルームも終えて下校となる。その頃には外はすっかり晴れて、太陽がこれでもかってほど日光を放出していた。

 おそるべし、夕輝。まさか本当に晴れさせてしまうとは、まさに晴女。

 そしてやっぱり入学祝いをやることになった。

 立案はもちろん夕輝。場所もやっぱり我が家。

「おじゃまします」

「失礼する」

「たっだいまー」

 三者三様の挨拶。

 というか夕輝、「ただいま」はおかしいだろ。

「どうやらツバキはまだ帰ってないみたいだな」

「えーじゃーツバキンが淹れた紅茶が飲めないのー」

 我が妹は大の紅茶派だ。俺はもともとコーヒーでも紅茶でもいい、こだわりがない人間なのだが、ツバキの影響で紅茶好きになってしまったぐらいだ。

「少し待てば帰ってくるだろ。まっすぐ帰るって言ってたし」

「でもツバキンって今年から生徒会長なんでしょ」

「え、そうなんですか?」

 初耳です、と言った風に山吹が反応する。

「ああ、兄と違って妹は優秀なんだ」

「おいそこ、聞こえてるぞ」

「でもツバキちゃんしっかりしてますからね。ぴったりです」

「世話好きでお人好しで綺麗。これでブラコンじゃなかったら完璧なんだけどねぇー」

 夕輝が厭味ったらしく言う。

「そんなことないです。お兄さん想いなのはいいことじゃないですか」

「そうだそうだ。もっと言ってやってくれ、山吹」

 とエールを送ると、「任せてください」と言わんばかりの視線を送られた。

 山吹って意外とノリがいいよな。

「それにこんなお兄さんがいたらほっとけなくなるのは当たり前だと思います」

「『こんな』というのはアスナのことか?」

「はい。花里くんは見てるととても危なっかしくてとても頼りないのでツバキちゃんも思わずほっとけなくなってしまうんです」

 あれ? 貶されてる、俺?

「私も花里くんみたいなお兄さんがいたら、とてもじゃないですけど目が離せません。まるで手のかかる弟のようです。だからツバキちゃんがお兄さん想いなのは仕方がないと思います」

 俺、やっぱり貶されてるよね。

「そう言われると、そうだね。ツバキンもなろなろみたな兄を持ったのが運のつきか……」

「あれ? いえ私は花里くんを卑下したわけではなくてですね」

「わかってる。こんな兄を持ってしまったからツバキが兄想いになってしまったということだろ。こんな兄を持ったために」

 二回言うな。

「いえそうですけど、あれ?」

「どうして花里くんが悪くなってるんだろう」みたいな顔をしてしきりに首を傾げる山吹。

 嗚呼、俺って山吹に頼りないとか思われてたのね。悲しい。

 などと『ツバキがなぜブラコンなのか』について検討していると、ドアが開く音と共に「ただいま」と言うツバキの声が聞こえてくる。

「待ってましたぁ!!」

 手放しで喜ぶ夕輝。

 その姿を見てリビングに入ってきたツバキがたじろぐ。

「ど、どうしたんですか、夕輝さん?」

「私はツバキンの紅茶が飲みたくてうずうずしてたんだよー」

 椅子から飛び上がり、ツバキに抱きついて頬ずりする。

「わかりましたっ!! わかりましたからっ、夕輝さん!! 離れてくださいっ!!」

 夕輝の体を押し退けるツバキ。

 夕輝は「私の愛情が拒まれた」と不満そうだ。

「今から淹れてくるんで、ジッとしていてください」

「はーいっ!!」

 もとの椅子に座る夕輝。

 ツバキがキッチンに行くのを見て、俺もついて行く。

「何か手伝おうか?」

 すでに慣れた手つきで準備をしている背中に話しかける。

「そうですね。ティーカップを用意してもらえますか? 淹れた後、お盆に載せて運んでください」

「わかった」

 お盆の上に人数分のティーカップを用意する。そしてそのカップの中に順々に紅茶が注がれていく。

 相変わらずいい香りだ。

 人数分のティーカップをお盆に載せてリビングへと戻る。そして一人一人のテーブルの前にティーカップを置く。

「前も思ったんですけど、ツバキちゃんの淹れる紅茶は本当に美味しいですね」

 一口飲んだ山吹が言った。

「あ、ありがとうございます」

 照れたように笑うツバキ。

 お嬢様であるところの山吹に褒められたんだ。そりゃ嬉しいだろ。

「さて、それじゃどうする。入学祝いとは言ったものの、もう資金はなしパーティーみたいなことはできないぞ」

「いいんじゃないか、こうして話してるだけで」

 と大樹。

「えーつまらないよー」

 と夕輝。

「あ、私いいもの持ってますよ」

 と山吹が取り出したのは折りたたみの携帯電話くらいの箱。

「これは、花札」

「はい。私、こいこいが好きなんです」

 ほー、趣味まで和風だ。

「なので、どなたか一緒にやりませんか?」

 とお誘い。

「こいこいのルールがわかる者、挙手」

 俺の号令で、全員が手を挙げる。

 流石は我が親友たち。遊びに関しては博識だ。

「よしそれじゃあリーグ戦をしよう。そしてビリだった奴は罰ゲーム」

「罰ゲーム。どんなことをやるんですか?」

「そうだな……」

 ツバキと山吹がいるから下品なのは無理だ。

「初恋の人を教えるっていうのは?」

 悩んでいると夕輝が提案してきた。

「えっ」と動揺するツバキ。

「うーん、俺はいいけど」

「俺も構わん」

「私も大丈夫です」

 自然と視線がツバキに集まる。

「わ、私はちょっと……」

「えー、ダメなのー」

「いえそのなんというか……。九重さんは嫌じゃないんですか?」

「私ですか? 私は負けませんから」

 すごい自信だ。どうやら好きだけじゃなくて強いらしい。

「わ、わかりました。みなさんがそういうなら、私もそれでいいです」

「よしじゃまずは表を作ろう」

 こうして始った山吹主催第一回こいこい大会。

 大会は潤滑に進んでいったのだが……。

「雨四光です」

「……」

 一人だけずば抜けて強い奴がいた。

「私の勝ちですね」

 もちろん山吹様だ。

「はぁー強過ぎる」

 負けた俺も清々しくなるくらいの負け方だ。十二回勝負してまさか一回も役を作らせてもらえないとは。

 とりあえず山吹は俺に勝って、一位となった。全勝だからな。

 そしてビリは、

「うぅ……」

 まぁなんとなく最初の反応でわかっていたけど、ツバキだ。

 結果は一勝三敗。ちなみに四位は二勝二敗で、俺。

 あぶなかった。

「それじゃあ教えてもらおうかな。ツバキンの初恋の人」

 ニヤニヤ顔の夕輝がツバキに迫る。

「うう~」

 頭を抱えて呻く。

「ほれほれ観念してお姉さんたちに聞かせなさい」

 なんか夕輝の目がエロオヤジみたいだ。手をわきわきさせてる。

 ツバキも後退りしているし。

「わ、わかりましたから、そのポーズで近づいてこないでください」

 観念したツバキは、溜息を一回。

 そしてなんでか俺を睨みつけた。

 あてつけ?

「でも、兄さんだけは聞かないでくださいっ」

「え、なんで仲間外れにするんだよっ。負けたんだから、兄の俺にも聞かせてくれっ。というか、ツバキを惚れさせた奴なんて俺が殺すけどね」

 そりゃもうギッタンギッタンボッコンボッコンに。

 途中から「殺してください」って懇願してくるくらいいたぶってから。

「おい目が本気だぞ」

「何を言っているんだ、大樹。本気なんだから当たり前だろ。たとえその相手がお前だったとしても、容赦しないぞ」

「ああぁ、喧嘩しないで」

 おろおろする山吹。

「そうだぞ、なろなろ。それにこういうことは家族だからこそ聞かれたくないことだってあるんだ」

 むぅ、確かに。

 というか俺はここにいる全員に初恋の相手を知られたくない。

「まぁそこまで言うなら聞かないけど……」

 腑に落ちん。

 俺以外の四人は部屋の片隅に集まる。

 そしてツバキが何やら呟いた。

 くそっ、俺に読唇術があればっ!!

「えっ」

「ほぅー」

「えーどうしてどうしてー」

 驚きの声が上がる。

 くそっ誰なんだ。

「そうなんですか」

「なるほど」

「これは納得」

 どうやら話し終えたようで四人は解散する。

 すると、ツバキ以外の三人がこっちを見つめてくる。

「なんだよ……」

「いやただこれはアスナには聞かせられないな、と思って」

「そうですね。花里くん、落ち込んじゃいますし」

「哀れだな、なろなろっ」

 き、気になるーーー!!

 なんだよ、誰だよ。てか、俺が聞いたら落ち込む奴なのかっ!!

 ツバキを一瞥すると、なぜか頬を赤らめてる。

「よし殺そう」

「誰をだ」

 大樹のチョップが旋毛に直撃。

「いやいやツバキの近くにいる男ども全員を殺せば、必ず行きつくだろ。手始めはお前だな、大樹」

 長年の恨みと共に葬ってくれるっ!!

「そのやり方じゃツバキの初恋の相手は殺せないな」

「そうだねー。完全な無駄足だねっ」

 なにっ。つまり相手は俺が手の届かない所、つまり殺せない所にいる人間っ!!

「まさか父さんってオチじゃないだろうな!!」

「ち、違いますっ!!」

 違う? なら誰だ?

「はっ、まさか……」

 もう考えられるのは一つしかない……。

 まさかとは思ったが。だがこれはあまりにも酷だ。ツバキが俺に聞かせられないと言ったのも納得だ。

「は、花里くんの目が血走ってます……」

「おそらくすごい想像をしているんだろうな。明後日の方向に」

「に、兄さん、一様聞きますけど、今何を考えてます」

「……」

 言いたくはない。だがこれはツバキの兄として、家族としていつかは向き合わねばならないことだ。

 言おう。意を決して。

「つ、ツバキが女の子が好きだったなんて」

 次の瞬間、俺の視界は目を瞑ったかのように真っ暗になった。

「ぐぇっ!!」

 そして顔面に激痛。

 顔に真っ赤な手形がくっきりと。

「これはアスナが悪いな」

「うん、なろなろが悪い」

「否定できません……」

 どうやら俺に味方はいないらしい。

「に、兄さんは私がそんな人間に見えていたんですかっ!!」

「いやだってそうとしか考えられない」

 そして顔面が痛い。

「違いますよっ。私の初恋の人は――」

「初恋の人は?」

「って言うわけないじゃないですかっ」

「うぐっ!!」

 となぜかもう一発ビンタされた。

 いやなんでっ!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ